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Jonson, "Charis II"

ベン・ジョンソン(1572-1637)
「彼女に出会ったとき」
(「カリス礼賛」II)

カリスとはじめて出会った日、
彼女は、五月の花々よりきれいに咲いていた。
彼女の装いは、はるかに美しかった、
野原を彩るいちばんの花よりも。
ぼーっと見とれてはいないで、わたしは
すぐにキューピッドを呼びにいった。
キューピッド、見たくはないか?
最高の光を放つ的があるんだ、一緒に来いよ。
矢の筒はどこだ? 弓を引け。
ほら、矢だ。おっそいなあ!
こういってわたしは、彼の目隠しをほどき、
はっきり見えるようにしてやった。
でも、彼は目が見えるようになるとすぐ、
今度は力を失ってしまった。
それから度胸も。彼は
その場にいられず、弓も矢も投げ捨てて
すぐに逃げてしまった。
そして、どんなに脅しても、呼んで頼んでも、
ふり返ろうとすらしなかった。
無謀にもわたしは、キューピッドが
捨てた矢と弓を
拾った。あのわたしの的を
撃つためだ。でも彼女は、
(わたしが弓を引いたとき)あまりにまばゆい稲妻を
放ったので、わたしは目がくらんで何も見えなくなり、
まったく動けなくなってしまった。
わたしは、石になって立ちつくし、
みんなにバカにされた。ある者には、
(聞いていて悲しくなり、また頭に来たのだが、)
ヒゲ付のキューピッド像だ、それとも
ヘラクレスの格好をして
キューピッドを猿真似してる男性像か? などといわれたり。

* * *

Ben Jonson
II. How He Saw Her
(From "A Celebration of Charis")

I beheld her on a day,
When her look out-flourish'd May:
And her dressing did out-brave
All the pride the fields then have:
Far I was from being stupid,
For I ran and call'd on Cupid;―
Love, if thou wilt ever see
Mark of glory, come with me;
Where's thy quiver? bend thy bow;
Here's a shaft,―thou art too slow!
And, withal, I did untie
Every cloud about his eye;
But he had not gain'd his sight
Sooner than he lost his might,
Or his courage; for away
Straight he ran, and durst not stay,
Letting bow and arrow fall:
Not for any threat, or call,
Could be brought once back to look.
I fool-hardy, there up took
Both the arrow he had quit,
And the bow, with thought to hit
This my object; but she threw
Such a lightning, as I drew,
At my face, that took my sight,
And my motion from me quite;
So that there I stood a stone,
Mock'd of all, and call'd of one,
(Which with grief and wrath I heard,)
Cupid's statue with a beard;
Or else one that play'd his ape,
In a Hercules his shape.

* * *

タイトルのHeは詩人、つまり、この詩における「わたし」のこと。

同じくタイトルの「彼女」とはカリス(Charis)、
ギリシャ神話における美の女神Charitesのなかのひとり。

ボッティチェリの「春」Primaveraの左のほうで
踊っている三姉妹が美の女神Charites.
ラテン語Grātiæ, ギリシャ語Χάριτες(表示されていますか?)


Scan by Mark Harden

また、カリスは火と鍛冶の神ウルカーヌス(ローマ神話)の
妻のひとり、とも。

* * *

訳注。

2 out-
「(・・・・・・よりも)勝って・・・・・・」という
意味を動詞に加える接頭辞。

4 pride
(何らかの種のもののうち)もっともよいもの
(OED 5a)。きれいな装飾物(OED 7)。

5 stupid
驚き、悲しみなどで呆然としている(OED 1)。

6 call'd on
= called on, Call onは呼んでお願いをする(OED, "Call" 23a)、

権威として頼る(同23d)。

7 Love
キューピッドのこと。キューピッドは、ローマ神話に
おける愛の神。ギリシャ神話におけるEros(西欧の
アルファベットで記せば)に対応。ラテン語(古代ローマの
言葉)ではCupido(クピド―)。 その意味は、愛、欲望
(OED, "Cupid")。というか、愛や欲望を擬人化して
神格化したのが、エロスやクピド―。

8 mark
境界(OED 1)--「美しさの極み」というようなニュアンス。
(矢を打つときなどの)的(OED 7)--キューピッドは矢で
人の心を撃つから。

9-10
カリスを早く矢で撃って、わたしのことを
好きになるようにしろ、ということ。
頼んでおいて、「おっそいなあ!」などと、
なかなかあつかましい。

9 glory
光を放つ美しさ(OED 6)。

12 cloud
隠すもの、よく見えない状態(OED 9)。キューピッドは
しばしば目隠しをされた少年として描かれるから。
(愛は盲目、ということで。)

14-20
キューピッドは、カリスがあまりに美しいので、
恐れをなして逃げた、ということ(?)

15 courage
性的な活力、というニュアンスもあるらしい(OED 3e)。

16 Straight
すぐに。

23-27
美しいカリスの(目が)放つ光によって石になる、
というのは、醜いメドゥーサ(髪のかわりに頭から
ヘビが生えている)に見られると石になる、という
神話の裏返し。あまりにきれいな人と目があうと
固まってしまう、というようなことを神話的に
極端に表現。

メドゥーサ

http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
Rondanini_Medusa_Glyptothek_Munich_252_n2.jpg

これはなんとも・・・・・・。

By George Shuklin
http://commons.wikimedia.org/wiki/File:
%D0%93%D0%BE%D1%80%D0%B3%D0%
BE%D0%BD%D0%B0_(%D1%8D%D0%BB%
D0%B5%D0%BC%D0%B5%D0%BD%D1%
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B5%D1%82%D0%BD%D0%B5%D0%B3%
D0%BE_%D0%A1%D0%B0%D0%B4%D0%B0).jpg

もともとメドゥーサはとても髪のきれいな、美しい女性だった。
が、彼女は、知恵、芸術などの女神パラス・アテーナーの神殿で
ポセイドンにレイプされる。怒ったアテーナーは、
罰としてメドゥーサの美しい髪を気持ち悪いヘビに変えてしまう・・・・・・。
(オウィディウス、『変身物語』第4巻)
(なぜポセイドンは罰せられない?)

24-25
Such A that . . . の構文。That以下の結果を
もたらすようなA.

32 Hercules
ヘラクレスはギリシャの怪力の英雄。
(後日、画像を。)

これがジョンソン。ごつい大男だった。
(決闘で人を殺したこともあったり・・・・・・。)


* * *

リズムについて。

基調はストレス・ミーター。四拍子。歌にのるタイプ。



---
/: ストレスのある音節
x: ストレスのない音節
B: ビート(拍子)

音節: 母音ひとつ + 前後に付随する子音(群)
- 長母音、二重母音も基本的に母音ひとつと数える。
- /ng/や後ろに母音のない/l/などは、子音のみでも音節をつくる。

ビート:
そこで手拍子など、リズムをとると、話し言葉とは違って、
歌のような一定のリズムが聞こえてくる、という音節。
---

上は、1-4行目のスキャンジョン例。行のはじめのxx/がポイント。
ゆるやかで、かつ変化をもって流れるようなリズム。
4行目のアタマにストレスのある音節が来ていて、
以降のリズムの変化を少し予想させて・・・・・・



5行目から、行頭にストレスのくるもうひとつのリズムを
明確に提示。こちらのリズムは、xx/とx/が混在しないので、
ゆるやかに流れるような雰囲気がない。歌にはのるが
やや論述的、というか、バラッドのようなあまり優雅ではない
リズムやメロディの歌のよう、というか。

5-6行目にだけ行末に弱音節がついているのは(いわゆる
feminine endingなのは)、1-4行目とのリズムの違いを
明確にするため。おそらく。

(6行目のアタマにはストレスがないので、1-4行目と
同じリズムでも読める。だから、7-8行目で行頭にストレスのある
新しいリズムをさらに強調。)

以降、上記二種類のリズムが適宜入れかわりつつ展開。

特に、23-26行目の「彼女の目からの稲妻に打たれて・・・・・・」
というリリカルな箇所では、うねって流れるようなxx/を
多用していることに注目。

but she threw
Such a light[ning],
as I drew,
At my face
And my mo[tion]
from me quite

* * *

詩のリズムについては、以下がおすすめ。

ストレス・ミーターについて
Derek Attridge, Poetic Rhythm (Cambridge, 1995)

古典韻律系
Paul Fussell, Poetic Meter and Poetic Form, Rev. ed.
(New York, 1979)

その他
Northrop Frye, Anatomy of Criticism: Four Essays
(Princeton, 1957) 251ff.
(後日ページを追記します。和訳もあります。)

Joseph Malof, "The Native Rhythm of English Meters,"
Texas Studies in Literature and Language 5 (1964):
580-94

(日本語で書かれたイギリス詩の入門書、解説書の多くにも
古典韻律系の解説がある。)

* * *

このサイトで、「四歩格」などという古典韻律系の
用語ではなく、ストレス・ミーター(stress meter,
英語ではaccentual meter, accentual verseなどという
表現のほうが一般的)というより大ざっぱな意味あいの
ことばを使っているのは、実際、四拍子(歌タイプ)の
詩をつくる際の意識が、多くの場合、x/x/x/x/と一定の
リズムを刻むことにあるとは、とても考えられないから。

むしろ詩人たちは、詩の内容、そのなかの行ごとの内容、
さらには行のなかのフレーズごとの内容にあわせて、
リズムを変化させている。

(ポップソングなどをつくる際に、この歌詞には
こんなメロディがあうかな・・・・・・などと考えるのと)
おそらく同じ。「楽しいね!」みたいな歌詞に、
Eマイナー --> Aマイナー --> Bセヴンス みたいな
進行のスローな曲は、まずつけない。)

上のカリスの詩の場合、いかにもラヴ・ソング的で
きれいな(あるいは、芝居がかっていてクサい)ところと、
論述的かつバラッド的にややズッコケな感じで
笑わせるところでは、明らかにリズムが異なるわけで。

* * *

また修正/加筆します。

* * *

英文テクストは、The Works of Ben Jonson (1816),
vol. 8より。
http://books.google.co.jp/books?id=pEEUAAAAYAAJ&d

* * *

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