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Milton, "On May Morning"

ジョン・ミルトン (1608-1674)
「歌--五月の朝に--」

今、輝く朝の星、一日のはじまりを告げる星が、
踊りながら東からやってくる。そして手をつないで
花咲く〈五月〉をつれてくる。腰をおろす〈五月〉の緑のドレスには
黄色い九輪桜や淡い桜草が散りばめられている。

ようこそ、恵み深き〈五月〉、君の息は吹き込んでくれる
若さと楽しみ、恋心とからだのあたたかさを。
森や林を君は彩り、着飾らせ、
丘も谷も君の贈りもので誇らしげ。

このようにぼくたちは朝早く、歌で君に呼びかける。
ようこそ、ずっといてくれたらいいのに。

* * *

John Milton (1608-1674)
"Song: On May Morning"

Now the bright morning Star, Dayes harbinger,
Comes dancing from the East, and leads with her
The Flowry May, who from her green lap throws
The yellow Cowslip, and the pale Primrose.
Hail bounteous May that dost inspire
Mirth and youth, and warm desire,
Woods and Groves, are of thy dressing,
Hill and Dale, doth boast thy blessing.
Thus we salute thee with our early Song,
And welcom thee, and wish thee long.

* * *

1行目 morning Star 朝の星
明けの明星 = 金星のこと。


By Mila Zinkova
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Venus-pacific-levelled.jpg
(以下、画像のURLはすべて2011年5月12日現在のもの。)

3行目 May 〈五月〉
擬人化されている。おそらく五月祭May Dayのときに
選ばれるMay Queenのようなうら若い、そして
草花できれいに飾られた女の子として。


By S. J. Thompson (1864-1929)
Photograph courtesy of the New Westminster Public Library
Accession no.:2728
http://www.nwheritage.org/database/images/212_web.jpg
(1887年頃のカナダの写真です。)

なお、この詩が書かれた17世紀のイギリスでは主として
旧暦(ユリウス暦)が用いられていたので、ここでの
五月とは、今の5月11日からのひと月。

3行目 lap ドレス(と、ここでは訳しています。)
スカートの前の部分、あるいは、座っている人のウエストから
膝までの部分の上側(OED, "lap" 4b, 5)〈五月〉の緑の
"lap" とは、もちろん、新緑が萌える野原などのこと。

4行目 Cowslip 九輪桜

(パブリック・ドメインにあるとのこと)
<http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cowslip.dof.demo.arp.jpg>

4行目 Primrose 桜草

By TeunSpaans
<http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Primula-vulgaris-flowers.jpg>

こういうのも。

By Bouba
<http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Primula_marginata.jpg>

7行目 たとえばこんな情景。

By IrishFireside
<http://www.flickr.com/photos/irishfireside/2373920216/in/photostream/>
(これはアイルランドの七月ですが。)

---
この詩にあるような、一見無駄でくどいようにも見えかねない
自然描写の意味、その存在理由を理解するには、写真、TVや映画、
インターネットなどが発明される前の生活を想像する必要が
あるでしょう。

花は一年の決まった季節にしか咲かない、
草木が青々と生い茂るのも一年のなかの一時期のみ。
そして写真もTVもインターネットもないから、
これらが見られるのは、その決まった時期のみ。

今では、冬でも写真や映像で春夏秋の季節を見ることができますが、
以前は、実際50-60年ほど前(?)までは、もちろんそうではなかった。
(モノクロ写真を除いては。)

冬に見えるのは冬景色だけ、雨の日に見えるのは雨だけ。
夜に見えるのは闇とランプの明かりだけ。

そのような生活における文化的娯楽的な刺激や楽しみとして
唯一手に入ったものが、言葉による描写/表象だったわけです。

たとえば、上の画像を見て金星や桜草などのイメージを
頭に入れていただき、そして雨の日や暗い夜に、殺風景な
仕事場や、アスファルトとビルとあわただしい人々しか見えない
道や駅のホームなどで、この詩を読んで、あるいは思い出して
みてください。ちょっとした感動があるのでは、と勝手に
期待します。たとえば、ワーズワースの「水仙」
("I wonder lonely as a cloud")に描かれているような。

英語のテクストは、Milton, Poems (1645) より。

* * *

(以下、マニアックな方のために)

この詩のリズムや言葉の音について。



/: ストレスのある音節
x: ストレスのない音節
音節: 母音ひとつ + 前後に付随する子音(群)
(長母音、二重母音も基本的に母音ひとつと数える。)

---
1-4
各行十音節ということを除けばほとんど散文。
詩として大きくとらえれば弱強五歩格 iambic pentameter
( x / x / x / x / x / )だが、弱強 " x / " の音歩に
したがわないところが多すぎるため、通常でも散文的な五歩格以上に
さらに散文的な、普通の発話/会話のような雰囲気になっている。

なお、2-4行目は、Comes dancing, The Flowry May,
The yellow Cowslipと、みな明るく楽しげなイメージをもたらす
フレーズではじまっている。行末から行頭に目を移したときに
目に入るのは楽しげな絵 --> どこに目を移しても楽しげな色や景色、
ということかと。

---
5-8
ストレス・ミーターに転調。この部分を指して9行目で our
early song といっている。

ストレス・ミーター(stress meter あるいは accentual
meter --- 英語では通常後者の名称が用いられる)とは、
たとえば、手拍子四回にあわせて一行を読むと、歌のように
調子よく感じられるリズムのこと。(上の画像の
スキャンジョンを見て、行の下のB [beatの略] に
手拍子をあわせながら読んでみてください。)

この四行(5-8行)のなかにもリズムの変化が施されている―――
上昇調(rising = x / x / . . . )のストレス・ミーターから
下降調(falling = / x / x . . . )のそれへ、と。
古典韻律の用語でいえば、5行目は弱強格 iambus,
6行目を七音節として弱強格か強弱格 trochee かを
あいまいにして、7-8行目で強弱格に移行完了。

このような、落ち着いた弱強格から強調的な強弱格へ、
というリズムの変化には、たとえば、春における気分と景色の
変化に対する驚きや感動を強調する効果があるように
思われる。

6 お、なにか楽しげな気分になってきた・・・
7 そうだよ、森や林は新緑と花できれいだし、
8 そうだよ、丘や谷全体が彩られていて自慢げだぞ!

みたいな。

---
9
歌が終わって語りに戻るということで、ふたたび散文的な
十音節(弱強五歩格)。

10
語りに戻っても、やはり五月の楽しげな雰囲気のために、
ついつい歌ってしまうということか、ふたたびストレス・
ミーターで楽しげに。

---
詩のリズムについては、個人的には Derek Attridge,
Poetic Rhythm (Cambridge, 1995) がおすすめです。
多くの作品が例としてあげられていて読みやすい本ですので、
よろしければ。

古典韻律系でしたら、Paul Fussell, Poetic Meter
and Poetic Form
, Rev. ed. (New York, 1979) が
読みやすいと思います。(日本語で書かれたイギリス詩の
入門書、解説書の多くにも古典韻律の解説があります。)

* * *

響きあう母音/子音の重なり各種--

Star - harbinger
East - leads
throws - yellow
(Cowslip -) pale - Primrose.
May - Mirth - youth - warm - Woods
dressing - Hill and Dale - doth
boast - blessing
welcom - wish

(頭韻、行内韻、母音韻、子音韻、パラライムなどの
用語は定義があいまいなので使いません。)

* * *

意味上効果的なカプレットの脚韻--

her green lap throws - the pale Primrose
inspire - desire
thy dressing - thy blessing
our early Song - wish thee long

* * *

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