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ジェイムス・スーズマン 『「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている』 その3 

2022-12-14 15:25:33 | Weblog

2022年はどんな年だったかと総括すると、「矛盾と不条理」の一年だったとなるのではないか。人々が戦いで死んでいくのに止めさせることができない。ウィルスという見えない敵と闘い続けて3年。政治に権力が集中していながら哲学を感じる政治家が不在。まだまだたくさんある。そんな中であえて「夢や希望」は求めようとは思わないが「本当の真実」を追及したい。

 

『「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている』(ジェイムス・スーズマン著 NHK出版局 2019年刊)その3 

「本当の豊かさ」とはどういうものなのだろうか。

ブッシュマンは、支配―被支配の関係や権力が発生する原因を極力抑制しようとする。これは、僕らが今生きている社会とは正反対の価値観を示している。僕はここから得るものがあると考える。

以下は、そのための作法だ。「成功を収めた狩人は、獲物を差し出すときにあくまでも謙虚に申し訳なさそうな態度を示すことが求められ、決して手柄を自慢しない」(P261)。「贈与は個人の絆を再確認する行為でつねに返礼を期待されるが、その場ですぐにというわけにはいかない。すぐ行われれば物の直接交換(取引)になるためだ。贈与という行為に喜びを感じている。富や権力の誇示ではない」(P275)。

農耕社会、すなわち穀物栽培が始まると、「余剰は権力と支配の源になる」(P263)。「私有財産を不必要に増やしたり、生産と分配を支配したりしたいという欲望こそが問題なのだ」(P275)。そして嫉妬する気持ち(アイツばかりがという)が積極的な意味を持つ。「嫉妬という「見えざる手」(スミス)が不平等を軽減させた」(P272)。「自己利益がつねにその影の部分や嫉妬によって規制され、嫉妬によって確実に公平な分け前を全員が受け取れるようになっている」(P270)。

著者は、現代が「人々が仕事に取りつかれて」(P376)いる異常な事態と述べる。では、ブッシュマンの労働観はどうだろうか。「彼らが際限のない食料探しに夢中にならず、いちばん厳しい月であっても必要以上の労力を費やさずに、短期的に最低限のニーズを満たすという暮らしを受け入れている」(P169)。これが自然の中で生きていく術になっている。「狩猟採集民は低リスクのやり方で暮らしを立てている。多くの異なる食料源に頼ることでリスクを分散して入り、そのため定期的な干ばつや洪水などに対応して絶えず変化する環境を活用できる」(P304)。

最後に、訳者はあとがきでこう述べる。「ブッシュマンは、南部アフリカでいにしえの時代から近年まで、狩猟採集で「よい暮らし」を送ってきた。彼らは、自然の摂理を信頼し、生きとし生けるものが共存する大地で育まれるものを利用して、衣食住をまかなっている。暮らしに必要なものはすべて周囲の自然環境から得られるため、長時間労働したり、過剰な狩りや採集をしたり、将来のため備蓄したりすることなく、必要なとくに必要なものを必要なだけ利用する生活に満足していた。争いごとを避け、平等で対等な人間関係を大切にしてきた」(P376)。

 


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