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宇野重規 『民主主義とは何か』 その1 日本学術会議会員任命拒否問題 

2021-05-15 16:20:37 | Weblog

マルティン・ニーメラー

 

ナチスが最初共産主義者を攻撃した時、私は声を上げなかった。

なぜなら私は共産主義者でなかったから。

社会民主義者が牢獄に入れられた時、私は声を上げなかった。

なぜなら私は社会民主義者でなかったから。

彼らが労働組合員を攻撃した時、私は声を上げなかった。

なぜなら私は労働組合員でなかったから。

ユダヤ人が連れ去られた時、私は声を上げなかった。

なぜなら私はユダヤ人でなかったから。

そして彼らが私を攻撃した時、私のために声を上げてくれる者は誰一人残っていなかった。

 

『民主主義とは何か』(宇野重規著 講談社現代新書 2020年刊) その1 日本学術会議会員任命拒否問題

周知のように宇野重規氏はスガ政権から任命を拒否されている日本学術会議のメンバー6名のうちの一人である。本書を読むに際して僕が持った一つの視点は、政権に疎まれるような思想や表現を見つけることができるだろうかということだった。また、氏に対して何事も現状を批判する左翼性のようなものがあるのだろうという決めつけも持っていた。だが、読んでみるといわゆる左翼的な感覚、僕のような左翼の病に罹患した者には何となく臭ってしまうある種の共通感覚はこれっぽっちも見当たらず、古代ギリシャから現在までの民主主義をめぐる学説史についての正統派的な教科書だ。

さて、極右を代表するアへ前総理なら左翼的な言説に対しては徹底的に攻撃して排除しようとする感覚は妙に納得できるところだが、そこまで政治信条も理念も持ち合わせていないスガがなぜ宇野氏をお気に召していないのかどうもストンと落ちないのだ。

僕のような絶滅危惧種の現状認識は大甘で、事態はずっと先へ進んでしまっているということなのか。既に左翼思想の社会に及ぼす影響力はほとんど無く、駆逐もほぼ終わっていて、次に目障りになってきたのが、客観的、論理的に物事を考える学者なのではないか。ボンクラ・ポンコツといわれるスガが、研究者たちの優れた知性に対してコンプレックスを抱いてというような個人的な動機ではなく、もっと政治的で組織的な深い意図をもったものなのではないか。今回の任命拒否は内閣官房副長官兼内閣人事局長の警察官僚杉田和博の入れ知恵といわれているが、公安サイドの認識が既に左翼だけを国家にとって危険思想と捉えているだけではなく、雑誌『正論』、『HANADA』などに掲載されるような極右思想以外は基本的に弾圧の対象としているように感じる。戦前の歴史がそうであったように、最初は左翼、労働組合活動家、無政府主義者などの弾圧・・自由主義者のパージ・・再現が始まっている。

バカだ、ポンコツだと言ってスガを侮ってはいけない、彼は血も涙も無く人を切れる人間だ。中曽根でさえ手を付けなかった学問の独立という理念を平気で脅かそうとしている。

友人が紹介してくれた「日本学術会議会員任命拒否についてイタリア学会による声明」(2020.10.17)は問題の本質を的確に突いた文章である。そしてこの声明にはマルティン・ニーメラーの言葉が添えられている。

 

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