晴走雨読

晴耕雨読ではないが、晴れたらランニング、雨が降れば読書、きままな毎日

未読ですが、桜木紫乃『ホテルローヤル』

2013-08-17 20:29:06 | Weblog

 『「挽歌」物語―作家原田康子とその時代―』(盛厚三著 釧路新書31 釧路市教育委員会 2011年刊)

 釧路に帰省すると必ず市内の書店で地元出版物のコーナーをのぞく。私は、釧路の人間は儲ける事に忙しく、文化的な事は二の次だというイメージを持っているのだが、釧路市は地道に郷土をテーマに出版物を刊行している。釧路新書も1977年第1巻『東北海道物語』以降、最新刊2013年3月第32巻『釧路を彩る作家たち』まで30年以上続いている。

 最近の話題として、直木賞に釧路出身の作家桜木紫乃著『ホテルローヤル』が選ばれた。釧路の文学界にとっては、1956年の原田康子著『挽歌』が71万部の大ベストセラーになって以来の快挙である。当時『挽歌』は、久我美子主演で映画化もされている。

 いずれも小説の舞台は、さいはての街釧路、真夏でも海霧(がす)におおわれた街、釧路湿原の囲まれた街というイメージが作品の重要な要素として語られている。だが、登場する主人公の女性たちは、ドロドロとした隠微な男女関係に陥っているように思われるが、意外とドライな感性を有している。都会的な気質と言うか、時代を半歩先行くような性格で描かれている。

 釧路の人の気質を考えるとき、道東という地理性やカラッとしない風土よりも、農業、とりわけ稲作と無縁の地というのが大きく影響していると考える。北海道においても稲作の北限はずんずんと拡大したが、遂に釧路まで到達できなかった。冷涼な気候は農業を発展させなかった。同じ土地に親子何代も住み続け、土地を切り開き、土を作り、季節の進行に合わせて毎年農作業を繰り返し、収穫を喜ぶ。この国では、大都会を除いてこれが普通の暮らしの基礎である。

 釧路の人は、土地に縛られていない。そこに住みつづける理由のない人々。釧路に移住した人は、土地を開拓するのではなく、木材や海産物の交易から始めている。漁業、炭鉱、いずれも当たれば大きい一発屋、山師根性ということになる。そう、稲作文化の祭事を象徴する天皇制からも自由なのだ。

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