馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

週末の白む空

2015-05-19 | 急性腹症

金曜の夜、というかもう土曜日になってから開腹手術で起こされた。

分娩10日後の繁殖雌馬。

空腸の腸間膜に穴が開いて、そこを小腸のほとんど全長がくぐってしまっていた。

腸間膜の支えを失った部分は捻れたことで変色がひどく壊死が始まっている。

その部分は切除するとして・・・・他の部分は壊死はしないが蠕動が出るかどうか微妙。

しかし、漿膜面に筋状の出血があり肥厚しているのは空腸のほとんど全長なので、すべてを切除するわけにはいかない。

1.5m切除して吻合する。

吻合部の粘膜は変色していたのが気になった。

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終わって帰ったのは3時40分。もう空が白み始めていた。

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翌日、昼前に軽度の疝痛。フルニキシンで治まる。

夕方、発汗し、烈しく前搔きする疝痛、フルニキシンで治まる。

夜中、さらに強い寝ようとする疝痛。フルニキシンで・・・・治まらなかった。

鎮静剤をうって、枠場に入れて胃カテーテルを入れるとガスがかなり出た。

超音波を内股部に当てると完全膨満した小腸が見えた。

再開腹を決断する。

小腸閉塞なので1人では手に負えない。当番を全員呼び出す。

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吻合部の吻側が膨満し、反吻側は20cmほど攣縮し、吻合部で膨満している。

吻側も反吻側も合わせて2mほど切除して吻合しなおした。

今度の吻合部は粘膜面の変色はなかった。

今度は良いか?

しかし、吻合部の吻側は変色も肥厚もないものの膨満している。

吻合部より下位は肥厚が残っている。刺激すると収縮するが健康な腸管ではない・・・・

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終わって帰ったのは3時40分。

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朝を待たず疝痛を繰り返した。術後イレウスの再発だ。

膀胱破裂の子馬の手術中で手が離せないので、頼んでリドカインのボラス投与と点滴投与を始めてもらう。

胃カテーテルを入れると毎回胃液が回収されるので、胃カテーテルを留置した。

だるく、憂鬱な日曜日。

夜遅く別な繁殖雌馬の開腹手術で呼び出される。

PCV70%を超える結腸捻転。

大結腸の内容はガスはほとんどなく青草の粥状物で、引っ張り出すのに苦労する。

内容を抜いても腫れ上がった大結腸はひどく重く、糸で腹壁にぶら下げることになる結腸固定術に手間取る。

終わって帰ったのは1時半。

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月曜日、結腸捻転の馬はまだPCV70%越え。

それでも状態は悪くなさそうだ。

空腸腸間膜ヘルニアの馬は徐々に胃液の逆流が減ってきた。

さて・・・・

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きのうは美しい日だった。

爽やかな風が吹いて、快晴で、

草刈りは残っているけど・・・まだ虫もいないし。

散歩する暇も体力もないけどbeautiful.

 

 

 

 

 


外傷

2015-05-13 | How to 馬医者修行

第4中足骨骨折で摘出手術に来た1歳馬。

うるさい馬で、馬運車の中で鎮静剤投与。

口の中を洗って、倒馬室へ入れて、スイングドアではさんで、馬の前を平打ち縄で抑えようとしたら暴れ出した。

腰を下げてスイングドアを両後肢で蹴飛ばした。

で、平打ち縄を持っていた私が飛ばされて、倒れて壁に頭をぶつけた。

ずれたメガネをなおして立ち上がったが、どこからか血が出ている。

どこかと思ったら、顎の下唇の下だった。

たいした傷ではなかったが、深く切れていた。

自分で縫おうかと思ったが鏡を見ながらでは難しそうだ。

「誰か縫ってくれ」と言ったが、みんな馬を落ち着かせて、倒馬のやり直しで相手にしてもらえそうにない。

仕方がないので、町立病院へ行って縫ってもらった。

痛くないように細い針で局所麻酔し、細い糸に良く切れる針で縫ってくれた。

内層を2針、皮膚を3針くらいだろう。

う~ん、うちの診療センターも丸針じゃないよく切れる針がついた吸収糸を用意しておこう。

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「動物による怪我ってたいしたことないかと思っても骨が折れてたりしますよね」と外科の先生。

「瞬発力がハンパじゃないですから」と私。

体重も筋力もスピードもヒトと比べものにならず、おまけに遠慮なしだからでもあるだろう。

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父ちゃん、オラともっと遊んで瞬発力も敏捷性も鍛えないとダメだ

 


去勢手術を依頼する前に

2015-05-07 | その他外科

去勢手術に来た2歳馬。

片側陰睾だということになり、急遽、手術台に乗せて吸入麻酔を始めた。

鼠径部陰睾だったので、それほどてこずらずに両側の精巣他を摘出できたが・・・

去勢手術を依頼するときに、陰睾でないかどうかは確認しておいてもらいたい。

吸入麻酔が必要になるので、診療代もちがってくるし、

リスクも大きくなるし、

鼠径部を縫合するのに助手がいた方が望ましいので、人数も要る。

いつもは去勢だと1時間ほどしか時間を空けていないが、陰睾だともっと予定時間をみておかなければならない。

片側陰睾でぶら下がっている側だけ去勢する獣医師がいるが、それはやってはいけないとされている。

1人あるいは2人で去勢しようとしていて、片側陰睾だということになって、腹腔陰睾にも対応できるのでないなら、

何もしないで「残念でした、また今度」というしかない。

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ほかには

一般的な健康状態のチェック、

装蹄しておかなくて良い馬なら蹄鉄をはずしておくこと、

数時間は絶食しておくこと、

健康手帳を持ってくること、かな。

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朝5時過ぎ、開腹手術に呼ばれる。

分娩翌朝の繁殖雌馬。結腸の変位に伴う十二指腸閉塞だった。

終わったころ、当歳馬の外傷の依頼。

きのうは、結腸便秘の2歳馬と疝痛後食欲不振の重種馬が入院。

今朝、予定していたTiebackの馬が馬房を準備したが、馬房には入れずに手術。

そのあと繁殖雌馬が疝痛で入院治療。

えっと・・・・入院馬房はどこが空いているのだったか・・・

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 思考力も記憶力も落ち、終われば忘れてしまう春。

 

 

 

 


種雄牛の中手骨粉砕骨折を治せるか?

2015-05-06 | 急性腹症

USAとヨーロッパの獣医外科専門医たちの学術誌 Veterinary Surgery に

、シンメンタール種の種雄牛の中手骨粉砕骨折を治療した報告が載っている。

橈骨に貫通ピンを入れたフルリムキャストを巻くことで治癒させた報告だ。

仔牛の中手骨骨折は、たいてハーフリムキャストで治しているのだろうが、成牛で、粉砕骨折となるとハーフリムキャストではキャストの中で中手骨が崩壊してしまうだろう。

フルリムキャストを着けても骨折部を完全に免重できるかどうか・・・・

トマススプリントという古典的な方法はあるが、800kgを超える体重に耐える金属棒で作るとなると特殊な器具を持っている鉄工所に依頼しないと無理だ。

それで、貫通ピンキャストで、ということになったのだろう。

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Transfixation Pinning and Casting of a Comminuted Metacarpal Fracture in a 870 kg Bull

870kgの雄牛の中手骨粉砕骨折の貫通ピンとキャスト治療

目的: 雄牛の中手骨骨折治療を報告すること

研究のデザイン: 症例報告

動物: シンメンタール雄牛(n=1, 870kg)

方法: 右中手骨粉砕骨折を2本の貫通ピン(直径6mm)を橈骨の骨幹端と骨幹に通し、合成リジン材のフルリムキャストで治療した。

結果: 手術後1日で両方のピンは少し曲がった。両方のピンは31日で緩み抜去し、フルリムキャストは巻き替えた。

キャストは4週間以内の間隔で巻き替えた。

50病日、右腕節は中程度に過伸展し外反変形した。

62病日に運動プログラムを始めた。

110病日にキャストをRobert-Jonesバンデージに替えた。

130病日には周囲に贅骨形成を認め、雄牛は退院した。

6.5ヶ月で右腕節の過伸展はなくなり、外反も改善した。

この雄牛は手術後7.5ヶ月で復帰し、4年間使用された。

結論: この種雄牛のように非常に価値がある牛では、当初予後が悪いと思われても骨折の外科治療が試みられるべきだ。

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まあみごとな粉砕骨折。

この部分をなんとかlag screw とLCPでいじれれば骨癒合もすこしは速まったかと思うが、感染や内固定崩壊のリスクは高まるので諸刃の剣だろう。

種雄牛に復帰できてめでたしめでたし。

とても協力的で大人しかったことも治療成功の要因だったと考察されている。

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近頃、腕節を屈曲させてフルリムキャストを巻く牛獣医師がいるようだが・・・・・私はよろしくないと考えている。

ちゃんと立てるようにしてやるべきだ。反対肢もそのことで楽になる。

骨も荷重がかかることで骨密度が維持される。

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オーストリア・ウィーンの大学からの報告。

さて、日本ではどうなんだ??

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今日はあたたかい良い天気だったので、診療用のマットを洗って干した。

かつては手術台の上に乗せてクッションにしていたのだが、

すぐに穴が開くし、

尿や血液がしみこむし、

そうなると重くて、不衛生で、乾かなくてよろしくない。

今は新生子馬の看護用や運搬用にだけ使っている。

こういうマットを作ろうというのは誰もが考えることなのだが、

基本的な問題が解決できない。

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春の天皇賞は見ごたえがあった。

ゴールドシップ、おめでとう!!

パドックを見ていてすごい歩様だなと感心していた。

ゲートを嫌って一騒動。

スタートは出遅れてやる気なし。と思ったら、位置を上げていって・・・

これじゃ伸びない、もたない。と思ったら、そのままなんとか先着。

レース後は後肢はひどい筋疲労でガタガタだった。

すごい、面白い、素晴らしい馬だ。

 

 


空腸腸間膜ヘルニアと盲結腸変位

2015-05-05 | 急性腹症

朝、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

1歳馬の歯科治療。

午後、3歳競走馬の球節の骨折。

対側肢の同部位にも骨折があり左右両方なのですこし時間がかかる。

続いて、当歳馬の繋部の外傷。立位で縫合。

ここまでは、急患ではなかった。

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その後、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

来院したらトラックの中で立てない。

なんとか起こして診療室に入れる。

血液もひどく悪い。PCV66%。

ダメかも知れませんよ、というよりダメな可能性の方が高いですよ。と言いながら開腹。

盲腸がチアノーゼ、気脹がひどいのでガス抜きする。

小腸も膨満してチアノーゼ。回腸からたぐろうとするが大腸に絡んで簡単には出てこない。

大結腸も肥厚している。位置もおかしい。

結腸捻転に小腸が巻き込まれたのかと思ったが、大結腸のダメージはひどくない。

大結腸を引張り出しておいて、小腸を回腸から手繰る。

空腸の最上位までいくと、腸間膜に穴が開いているのを確認できた。

空腸腸間膜ヘルニアだ。

引き出した小腸は色調が回復した。

大結腸を完全に引き出して骨盤曲を切開する。

大結腸をできるだけ空にしておかないと、空腸の最上位の腸間膜の裂孔を縫合できない

なんとか腸間膜の裂孔を縫合した。

盲腸と結腸の色調もかなり回復した。

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そこへ1歳馬の疝痛の依頼。

あと30分ほどで今の開腹手術は終わるのでなんとかなる。

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が、来院した1歳の疝痛は良くなっていた。

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繁殖雌馬はなかなか起立しなかったが、8時には入院厩舎へ移動して輸液治療を始めた。

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夜遅く繁殖雌馬の疝痛の依頼。

すぐに開腹手術が必要なほどの状態ではないと言う。

それなら明日にするかい。と答えるが、診て欲しいとのこと。

手術の準備をして待ち、来院して診察するが疝痛は治まっている。

しかし、こういう馬も急に疝痛が再発し悪化することがある。

念のために入院してもらうことにする。

そうすれば徹夜で監視することになり、もし状態が悪くなったらすぐに開腹手術もできる。

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4月後半から急に暖かくなり、桜の開花は記録的に早くなり、青草は急激に伸びた。

その青草は栄養豊富で嗜好性が良く、食べ過ぎると疝痛を起こす。

まあ仕方がない。

良い春だ。

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