馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

周りの助けを呼ぶことの大切さ

2024-03-08 | 麻酔学

5日齢の子馬が膀胱破裂のようだ、との診療依頼。

子馬は立っていて、一般状態は悪くない、とのこと。

腹腔穿刺して腹腔の尿を排泄させ、乳を飲ませないようにして来院させるよう指示する。

臍から尿が漏れていた子馬だとのこと。

新生子馬の膀胱は臍へつながっている。

その部分で腹腔へ破れて尿が腹腔へも漏れているのかもしれない。

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来院して、子馬は抱えられながら歩いて診療室へ入ってきた。

現地での血液検査の結果では血清カリウム値6.0mEq/l。

「カリウム6になると心臓止まることがあるよ

14G留置針で腹腔穿刺するが腹水は順調には抜けない。

腹部膨満しているが、腹水を抜き、点滴して電解質を補正し、etc.とやっているより、手術に移った方が良いと判断した。

点滴しても、尿は腹腔へ漏れてしまう。

腹水が順調に抜けないのでは、腹囲膨満はひどくなる。

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ケタミンを使いたくないのでマスク導入で吸入麻酔に入る。

手術台上で半横臥にして、私は手早く開腹手術を始めた。

腹腔からは尿があふれ出す。

腹圧が急激に下がるので注意が必要な状態になる。

しかし、尿毒症をストップさせ、電解質異常を補正するために主体となる処置だ。

そして、温めた生理食塩液を腹腔へ入れて、捨てて、を繰り返す。

腹腔の尿を洗い出し、体に溜まったカリウム、UN(尿素態窒素)、クレアチニンを捨てる。

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そこで心停止。

私は心マッサージを始める。

一旦心拍が戻ったので、検査室に居る他の獣医師を呼びに行く。

3人がかりで、輸液、心マッサージ、エピネフリン投与で、心拍の様子を観ながら対応する。

輸液は、25%ブドウ糖とボログルコン酸カルシウム液、そして等張電解質液

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やはり臍付近で尿膜管の残りと膀胱の先端が壊死して、そこから尿が腹腔へ漏れていた。

膀胱の先端部と臍を切り取って、膀胱の先端は縫合閉鎖する。

開腹手術創は少し大きくなるが、臍があった部分も含めて閉腹する。

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何度か心停止したが、その都度復活した。

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麻酔中に異常があったとき、麻酔医は声を出してヘルプを呼ぶことが大切。

心停止でも、呼吸停止でも、命にかかわる異常があったときに1人ではとても対応できない。

突然持ち場を離れて聴診器を取りにいったり、

突然1人で心マッサージを始めるのではなく、

周りの助けを呼ぶこと、がまずすべきこと。

心肺蘇生の講習会でも習うことだ。

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名前がよく知られている割に、うちの周りでは多数派とも言えないシジュウカラ。

集団の強みを発揮すればスズメたちに対抗できるのかも・・・・