2月に分娩中に膣前庭が裂けて腸管が脱出した繁殖雌馬。
膣を縫合したが、懸念したとおり腹膜炎が起こり、翌日に開腹手術した。
小結腸の腸間膜が傷んでいたので縫合し、腹腔内にはこまかいワラがいっぱい入っていたそうだ。
その繁殖雌馬がひどい疝痛を示して来院した。
その痛がり方は、ふつうの癒着疝ではない。
すぐに開腹した。
開腹手術創は2箇所に化膿した痕があった。
空腸の癒着がもとで空腸の纏絡を起こし、その部分は壊死していた。
それでひどく痛かったのだ。
腹腔内には紐状の癒着(索状物)が何箇所にもあった。
腸管を跨いでいたりもする。
空腸壁にはいたるところに小結節状の塊が付いていた。
小さい化膿巣のように見えるが、ひとつを切開してみても内部に膿はなかった。
おそらく、小さい汚染源が付着したところが化膿し、治った痕なのだろう。
空腸上部には大網が癒着し、その一部が塊になり、内部に膿が溜まっていた。
これは厳しい。
今回の腸閉塞を乗り越えるのも厳しいし、万一乗り越えたとしていずれ癒着でダメになるだろう。
あきらめた。
剖検で、小結腸にも癒着があることを確かめた。
内転筋沿いに化膿した部分もあった。膣穿孔部から化膿が下がっていったのだろう。
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分娩で産道損傷し、腸管脱出しても損傷部を縫合閉鎖することで助かっている馬もたくさんいる。
開腹手術による腹腔洗浄や腸管や腸間膜の修復はかならずしも必要ではない。
脱出した腸管や腸間膜がどれだけ傷んだか、汚れたかが鍵なのだろうと思う。
娩出してしまって、親が立っている状態で腸管が出てきた症例は助かることが多いのかもしれない。
腸管は汚れず、それほど傷まないで済むし、腸管を押し込み易い。
しかし、分娩中に腸管脱出すると、腸は敷き料で汚れてしまうし、馬が寝ていると腸管を押し込みにくいのだろう。
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翌朝のごはん。
山岳部では”ぴんちえっせん”と呼んでいた。
ピンチは日本語でよく使われる英語だし、
エッセンはドイツ語なので、
ぴんちえっせん自体、山岳部員の造語だろう。
しかし、非常食はいつも用意しておくべきだ。
登山でも、食事する時間がない救命救急獣医療でも。