真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「マスター・オブ・サンダー 決戦!!封魔龍虎伝」(2006/製作統括:倉田保昭/配給:日活株式会社/監督・動作設計:谷垣健治/脚本:谷垣健治・青木万央/特技監督:小田一生/音楽:特撮・吉川晃司/出演:倉田保昭木下あゆ美・芳賀優里亜・椿隆之・永田杏奈・小松彩夏、アドゴニー・ロロ、平中功治・松村雄基・杉原勇武・中村浩二・竹財輝之助・岡田秀樹・長谷部瞳・秋山莉奈、他/特別出演:J.J Sonny Chiba《千葉真一》)。
 古来平安の昔より桔梗院にて封印され続ける、黄泉の国にも通じた魔人・小野篁(松村)。十二年に一度の鬼封じの秘儀に、桔梗院住職・三徳和尚(倉田)の一番弟子・イサム(杉原)が数百の僧兵を率ゐて向かふも、小野篁配下の悪鬼(中村)の前に、無惨全滅の憂き目に遭ふ。
 三徳和尚の遠縁に当たり、桔梗院に身を寄せる少女・アユミ(木下)は、鬼封じを成し遂げる為に、かつて小野篁を封じた“青龍の七人衆”の縁者を探し集めることを決意する。
 日本が世界に誇るアクション二大巨頭・倉田保昭と千葉真一との歴史的初激突!それと、イマドキの特撮ジャリタレアイドル大集合♪といふ、水と油だとか、両立させるに難いなどとは必ずしもいはないが、何れにせよ、その二本の柱を並立せしめんとした感覚には正直首を傾げざるを得ない、のつけから基本コンセプトの混濁した作品ではある。果せるかな、倉田保昭と千葉真一との歴史的初激突!シーンを純粋にそれのみを掻い摘めば兎も角、アイドル映画としては全く木端微塵。結果的に、所々を通り越して穴だらけの脚本も相俟て、結局何をしたかつたのかまるで判らない、どういふ観客を想定して撮つたつもりなのだかサッパリ窺へぬ、惨憺たる残念作となつてしまつた。
 いいところがひとつも無いので何処から手を着けるべきなのか却つて途方に暮れもするが、矢張りいの一番に。そもそもがアイドル映画ともいふと、実力の伴はないジャリタレ相手に、どうにかかうにか映画を形作つて行かなければならない。さういふただでさへ海千山千の頑丈な演出力が要求されもするところに、何で又監督が、ここに来て専門はあくまでアクションでしかない谷垣健治なのか。出来損なひのステレオタイプのキャラクター造型と、最大限に評価したとして類型的で工夫に欠けるシークエンスとが羅列されるばかりで、全く以て、パーフェクトに見所に欠ける。アクション野郎としての本領を発揮して、小娘小僧に血反吐を吐かせたエクストリームのひとつでもモノにしてすらゐる訳でもない。何の為に谷垣健治を連れて来たのか。“日本アクション映画活性化計画 始動!!”だなどとフライヤーには謳はれてゐるが、一体何の冗談だ。笑へもしない。
 倉田保昭と千葉真一との歴史的初激突!に関しては。確かにそれなりに見応へがありはしたが、ハッキリ書いてしまふが、少々実力差があり過ぎた。それは互ひの全盛期から、ガチのアクションの実力に関してはさうであつたのかも知れないが、倉田保昭の方が断然強い。ネームバリューと総合的な役者としての色気、といつた面に於いては千葉ちやんの方が勿論優位に立つてゐるのかも知れないが、少なくとも現時点、パワー・スピード・テクニック、全ての面に於いて、倉田保昭は千葉真一を完全に凌駕してゐる。それぞれ何かしらの得物を手にしたバトルに終始、個人的にはステゴロを観たかつたと物足りなさを感じもしたのだが、そもそも、ステゴロ(素手喧嘩)では均衡が取れずシークエンスが成立し得なかつた、といふことなのかも知れない。因みにソニーは、三徳以外では、“青龍の七人衆”唯一の生き残り・源流和尚。
 といふか更に根源的にそもそも、今作は、ビデオ撮りである。だ、か、ら、

 フィルムで撮れ。

 何をやつとるかバカ者。倉田保昭と千葉真一との歴史的初激突!だといふのに、嘗めとんのか。伝説への敬意が足りぬ。
 最早正直一々億劫でもあるが、穴だらけの脚本に関しても一応叩いて、もとい触れておく。ガリ勉、ヤンキー、コスプレイヤー、そしてキモオタ。一体それが鬼封じに何の役に立つといふのかも勿論、仕方がないのでひとまづはさて措くとして、一応は(表面的に)個性的な“青龍の七人衆”第二世代の面々に比して、アユミは自らの無個性を悩む。そんなアユミに対して、レディース暴走族・アンナ(永田)は、アユミの気配を巧みに察知する能力を指摘する。この気配を巧みに察知する能力だか何だかが、後々で活きて来ることは一切ない。桔梗院を奇襲し、三徳和尚を拉致する小野篁。去り際にアユミを見、「あの娘は使へる」。この台詞も、後々にはまるで絡んで来ない。掠りもしない。一度張つた伏線は、どのやうな形であれ一応は回収する。観客に身銭を切らせ小屋にまで足を運ばせようといふのであれば、商業映画として最低限の良心は見せて欲しい。
 音楽の特撮(本篇クレジットでは、NARASAKI《from特撮》)と吉川晃司といふのは、要は在りモノのオケ(主にイントロ)を、その所々のシークエンスに合はせて適当に使用する(だけ)といふ代物で、ファンながらに流石にもう少しヤル気を見せて呉れよ、と情けなくもなつて来てしまふ。ただ地底に潜つて行く(といふか落ちて行く)シーンで使用したのが「オム・ライズ」といふのと、クライマックスでの「ケテルビー」の使ひ方は上手く行つてゐたやうに見受けられた。
 イマドキの特撮ジャリタレアイドル大集合♪ぶりについても一応纏めておくと。主演の木下あゆ美が「特捜戦隊デカレンジャー」から、はいふまでもないとして。“青龍の七人衆”第二世代の一人・ガリ勉メガネつ子のミカ(芳賀)が、「仮面ライダー555」から。同じくナンパ師・トオル(椿)と、青年期の三徳(竹財)が「仮面ライダー剣」から。アンナ役の永田杏奈は「仮面ライダーカブト」。“青龍の七人衆”第二世代の一人・コスプレ美少女カオリ(小松)は、実写版「セーラームーン」のセーラーヴィーナス。更に、青年期の源流(岡田)が「超星神グランセイザー」から。三徳の妻で、源流からは異父兄弟に当たる美央、と全ての因縁の源たる、小野篁が道ならぬ恋に落ちる妹で尼僧の二役(長谷部)は、「ウルトラマンマックス」から。加へて殊更に隙間を突き、カオリがアルバイトするメイド喫茶の他のメイド・マミ(秋山)は「仮面ライダーアギト」から。無駄にくたびれた。

 最後に、今作のスタッフの中、意図的に省いておいたがスチールは加藤義一。この人のことであらうかとは思ふが、要はこの加藤義一と、こちらの御存知我らが加藤義一、との関係や果たして如何に?単なる、純然たる同姓同名に過ぎないのであらうか。
 ところで、アンナは結局悪鬼を倒したつけ?悪鬼にベア・ハッグで締め上げられたアユミがゲロを漏らすシーンに、谷垣健治の持つて来た香港映画のエッセンスが辛うじて垣間見える。


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