「痴漢電車 挑発する淫ら尻」(2005/製作・配給:新東宝映画/監督:友松直之/脚本:大河原ちさと/企画:福俵満/プロデューサー:黒須功/撮影:下元哲/照明:高田宝重/編集:大永昌弘/制作担当:黒田浩史/助監督:城定秀夫/撮影助手:中村拓/証明助手:榎本靖/ヘア・メイク:堀川なつみ/スチール:奥川彰/ネガ編集:三陽編集室/現像所:東映ラボ・テック/制作協力:黒須映像工業/出演:北川明花・北川絵美・華沢レモン・武田勝義・飛田敦史・小泉充裕・天川真澄・吉川けんじ・中村英児)。本篇監督経験者が撮影以下スタッフの中に四人も、徒に豪華な布陣ではある。ピンクの世界では、ザラに見られる現象でもあるが。
一言で片付けてしまふと、ピンク版「電車男」。本家との大きな相違点は、電車男がエルメスに痴漢してしまふところ―駄目ぢやん!―と、彼を応援するのがネット社会の住人ではなく、成仏することを拒んだ幽霊達である点とである。
年齢=彼女ゐない暦のいはゆるアキバ系・優治(武田)は電車の中で、フと見初めたOLの江里香(北川“新体操”明花)に痴漢する。場面変つて開き直つた安普請の電車セット、霊界列車らしい。車掌の死神(中村)と、成仏して生まれ変ることを拒んだ幽霊が四人。惚れた姐さんのため鉄砲玉となり、命を散らしたヤクザ者のヤマダ(天川)。浪人生活幾星霜、終に自ら命を絶つたタナカ(吉川)。夫との擦違ひからキッチンドランカーになり、急性アルコール中毒で死亡したリョウコ(北川“人造乳”絵美)。引きこもりの末に、拒食症から栄養失調で死んだトモヤ(小泉)である。四人が成仏を拒んでゐるのは、もう一度生まれ変つて別の人生を生きる勇気がないから。ただその我儘は、霊界のルールに適ふものではなかつた。死神は四人に告げる、一ヶ月以内に優治を江里香相手に筆卸させることが出来れば、今の状態のまゝでゐてもよい。それが出来なければ、四人は地獄往きであると。かくして四人の幽霊はどうにかかうにかして、始末に終へぬ優治の背中を押し江里香と結ばれるやう仕向けようとする。何処からそんな条件が湧いて来るんだ、さういふ無粋なツッコミをする輩の家には、今晩から恐怖新聞が届くから。
ここから先は案外普通の「電車男」、といつて、私は本家・テレビドラマ・劇場版、その他ありとあらゆる「電車男」をこれまで全く見たことも手に取つたこともないのだが。まあ大体こんなもんぢやろ?ぐらゐの勢ひで話を進める。四人の幽霊がああでもないかうでもないと四苦八苦しながらも、何とか優治と江里香とをくつゝけようと右往左往する。最終段階、遂にラブホのベッドの上にまで辿り着きはするものの、どうしたらいいのか全く判らず手も足も出せず狼狽するばかりの優治に、四人がああしろかうしろと一々指示を出す件は、さながらヤング系情報誌のハウツー記事も髣髴とさせる。
基本設定上の相違点に加へて、展開上の相違としては、電車男を応援するのが幽霊につき、それぞれ現世に遺して来た者がゐる。優治の背中を押しがてら、幽霊と遺された者との―文字通りの―絡みも描かれる。要は、「黄泉がへり電車男」とかいふ寸法である。
配役残り華沢レモンは、トモヤがこの世に遺して来た彼女のマイ。今でも、トモヤの写真を手に哀しみに暮れてゐる。幽霊である以上、トモヤはそんなマイの直ぐ側まで寄つては行けても、指で髪に触れることすら叶はない。けれど、二人がともに心から望んだ時、夢の中でならば二人は結ばれることが出来る、死神はさう告げる。念願叶ひ、夢の中とはいへ、トモヤはマイとセックスする。マイがトモヤのズボンを下ろさうとしたところ、トモヤは一瞬戸惑つて拒みかける。するとマイは、「何よ、こつちも引きこもり?」。他愛ない台詞を、名台詞にしてのける決定力が華沢レモンにはある。飛田敦史は、優治と江里香の仲の横槍を担当する江里香の上司・ユウスケ。実は、リョウコが遺して来た旦那であつた。リョウコは、ユウスケを江里香から引き離す意も含めて、最期の別れに夫に抱かれる。休日出勤の新宿にゐた筈なのに、気がつくとユウスケは自宅に、加へて、死んだ筈の妻も食事の支度をしてゐる。ユウスケは何が何だか判らぬまゝに、リョウコに誘はれるがまゝ夫婦生活する。裸エプロンの中で、妖しく弾み踊る北川絵美のオッパイ、但し人造ではあるが >ひつこい
ここから先はネタが割れるのを回避して自重するが、伝説、らしい―未見ゆゑ―の「コギャル喰ひ 大阪テレクラ篇」(1997/大蔵)の友松直之は、今回は十八番の猟奇も鮮血も内臓も一切封印、いはば臆面もない便乗企画を、最後はイイ話に落とす良質の娯楽作として丁寧に撮り上げた。プロフェッショナルの堅実な仕事ぶりを、麗しいと最大限に評価したい。
最後に、どうでもよかないが小泉充裕はどうスッ転んでも拒食症から栄養失調で死んだ人間には見えない。ここは国沢実―設定では高校生のトモヤに、国沢本人をといふ訳には行かないが―のやうなルックスの俳優部を連れて来て欲しかつた。それと、ヤマダと姐さんのエピソードも見たかつたが、75~90分のVシネだとまだしも、土台60分のピンク映画でそこまでは無理か。因みに、姐さんといふので愛染塾長が出て来るのだけは御免かうむる。
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