真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「触らせる女 恥淫のドレス」(1998『痴女電車 さはり放題』の2009年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/監督:友松直之/脚本:大河原ちさと/企画:福俵満/撮影:中尾正人/照明:中元文孝/助監督:藤原健一/演出助手:石川二郎・佐々木直也/撮影助手:奥野英雄/ヘアメイク:久保田かすみ/スチール:本田あきら/キャスティング:寺西正己 アクトレスワールド/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:田村孝之・斉藤一男・長谷川プロ・HIRO'S CAR/制作協力:《有》幻想配給社/出演:松沢菜々子・風間今日子・江東夏海《新人》・隆西凌・平正義《子役》・久保新二・大塚浩史《新人》・倉兼由貴・横塚明・マサシ《コントD51》・沢田徹・小原理沙・瀬戸将哉・高倉亜紀・勝虎未来)。出演者中、平正義と横塚明以降は本篇クレジットのみ。因みに今作は2002年に、「人妻痴女 またがる」といふ新題で既に一度新版公開済み。 
 混み合ふ通勤電車の車中、寺西徹を縦に引き伸ばしたやうなサラリーマン(横塚)に、ウィッグと大きなサングラスとで顔は隠した赤いドレスの女が近付く。女は自ら男の体に接触すると痴女行為を展開、受けた男が盛り上がつたところで、鋏で相手のスーツを切り裂き姿を消す。我に帰つたサラリーマンは大恥をかく、といふ寸法である。テレビのニュースが昨今都内に出没する赤いドレスの不審者の事件を伝へ、五才の幼稚園児の息子・正義(平)はお人形さんを鋏で突(つゝ)いて遊ぶ傍ら、高田陽子(松沢)は怯えながら夕食の支度に追はれる。そこに、公務員でもあるのか毎晩六時半には家にゐる夫(隆西)帰宅。ところで隆西凌といふのは、イコール稲葉凌一。仕事に関する鬱積からか、高田は料理が不味いといつては陽子に暴力を振るふ。その夜、手の平を返すやうに謝りながら体を求めて来る高田に対し、弱い陽子は自らの非を詫びることしか出来なかつた。陽子の体には高田のDVによる生傷が絶えず、見かねた看護婦の和江(風間)から、ルームメイトが男を作つて出て行つたゆゑ空いてゐるといふ自室に転がり込むやう勧められる。一方、教へ子の夏海(江東)と男女の仲にある淫行教師・木島(多分大塚浩史)は、夏海を教頭(久保)に売る。夏海の若い肉体に驚喜する教頭の、「この鮫肌のやうな餅肌☆」とかいふ小台詞は、絶対に大河原ちさとが書いたものではなく久保チンのアドリブに違ひない、リップシンクも清々しく合つてねえし。電車内で痴漢に遭つた夏海は、逃げられさうになつたオッサンの痴漢(マサシ)を陽子・正義親子と一緒の和江が足を引つ掛けて仕留めたことから、坊やは兎も角二人と仲良くなる。四人連れで入つた居酒屋にて、夏海が教頭から巻き上げた金を軍資金に盛り上がる。昨今世間を騒がせる赤い切り裂き魔に触発された和江と夏海は、教頭・木島に高田、女を蔑ろにする男達に対する逆襲を決意する。ここで、正義くんは勿論のこととして、酒が飲めないのか陽子もオレンジジュースを飲んでゐたりするさりげないディテールが、何気に秀逸だ。といふか子供が居ることも考へると、ここは酒場ではなくファミレスかマックでも良かつたやうな一般的な疑問は残る、撮影させて呉れないか。
 バタバタしてゐる内に結局ほぼ軒並拾ひ損ねてしまつたが、ピンク映画にしては妙に大勢出演者としてクレジットされる。他に勝虎未来が、和江と立ち話する看護婦同僚。倉兼由貴は、和江に喰はれるギブスで長髪の大学生・中山君。
 劇中鍵を握る赤いドレスの女の正体に関しては、実際に今作を前にした場合、一欠片の説明も要しまい。女達の復讐物語と、暴力夫からの陽子の解放と再起。二本立てのメイン・プロットは一応形式的な起承転結はひとまづ形作つてゐるものの、全体的な一本の映画としての強度は然程強くない。明後日には飛び抜けたアクティビティを誇りつつ、ヒロインたるべき陽子が大ボスの高田に対しては最後まで力無い点が、最大の敗因か。和江と夏海、最終的には正義にまで頼りきりで、自身は高田に対して置手紙を残し家を出たほかは、徹頭徹尾平身低頭しかしてはゐない。ただ正義が母を庇ひ高田の前に立ちはだかる場面は、平正義のシークエンスとしてはエモーショナル。子役が一番美味しいところを持つて行く成人映画といふのも、画期的に珍しいとは思ふ。ただ正義が、母親は微妙に逡巡する家の鍵を川に投げ関係を完全に清算してしまふ件に関しては、そこは陽子かでなければ和江が、川にゴミを捨てたりしてはいけないと一言叱るべきではなからうか。深夜の公園にて仁王立ちで待ち伏せする隆西凌が、金属バットを一閃夏海を撃墜するバイオレンスなショットには、ピンク映画らしからぬセンスが光る。

 クレジットには載らないが、アリスセイラーの楽曲が開巻から全篇を通して今作を彩る。


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 「わいせつ性楽園 をぢさまと私」(2009/製作:幻想配給社/提供:オーピー映画/監督:友松直之/脚本:大河原ちさと/撮影:飯岡聖英/助監督:田辺悠樹/制作担当:池田勝る/撮影助手:橋本彩子・関根悠太/メイク:堀川なつみ/スチール:つちやくみこ/タイミング:安斎公一/編集:酒井正次/ダビング:シネキャビン/出演:水無月レイラ・野上正義・里見瑤子・山口真里・金子弘幸・吉川けんじ・蘭太郎)。
 上野(野上)は御年七十、日本人男性の平均年齢七十八歳までは後八年。七年前に一切登場しない妻を最終的には脳にまで転移した癌で亡くし、現在は次女で総合職のOL・明美(山口)と二人で暮らす上野は、弥生町三丁目交差点の近くで、DV彼氏・ケンジ(金子)とバイオレンスな痴話喧嘩の真最中のマリカ(水無月)と出会ふ。ところで馴染みの薄い主演女優の水無月レイラであるが、例へば誰に似てゐるのかといふとペニシリンの(元)ベースにソックリだ。その場はケンジから匿ふ流れになるところまではいいとして、挙句にパニック障害の発作を起こしうづくまつたマリカを、上野はひとまづ自宅に連れて帰る。ケンジとは判れたもののかといつて他に行く当てもないマリカは、明美は出勤時からの予定で仕事とやらで会社に泊まり、実家に帰つて来る筈の嫁に出た長女・由紀(里見)も友達の家に泊まるとかいふのをいいことに、結局そのまま上野の家に一泊する。翌朝、上野が切らしたタバコを買ひに出た隙に、帰宅した明美はすは老親の火遊びかと脊髄反射でマリカを追ひ出してしまふ。持病の常服薬・パキシルを台所に置き忘れて来たマリカを、上野は追ひ駆ける。母親の交際男(友松直之の役得)に手篭めにされ、以後半ば寝取るやうな状態になりつつそれが原因で家出。以降は種々の風俗を渡り歩きトルコのボーイのケンジと暮らし始めた身の上話を、案外あつけらかんとマリカは上野に語る。セックスは決して嫌ひではなかつたが、パニック障害はその流浪の過程で患つた、マリカの腕にはリスカの痕もあつた。
 共に清々しい男優部濡れ場要員の吉川けんじと蘭太郎は、吉川けんじが、旦那には実家に帰ると偽りラブホテルに外泊する由紀の、不倫相手のテニス・コーチ。蘭太郎は仕事と称して深夜のオフィス・ラブ一大正面戦を展開してみせる、部長である明美のバター犬部下。同時進行する姉妹の熱い夜が交互かつ怒涛に挿入される件が、今作に於ける桃色方面の最高潮。その他出演者としてクレジットは全くない上で、風俗でのマリカの客、マリカを輪姦すケンジの悪友、が三人。それに女の子+目を離したお父さんと、重複してゐる者もあるやも知れぬがピンク映画にしては割と大勢見切れる。
 ハイライトがアバンタイトルとして置かれもするものの、マリカと上野の唯一度きりの情交は、何時まで経つても本丸には突入しない。里見瑤子と山口真里の絡みも、姉妹それぞれの情事がエクストリームに交錯する一幕のみ。上野の淫夢とマリカの回想中で随時消化しながらも、観終つた後よくよく考へてみれば意外と実は女の裸比率が低い今作に際し、少なくともピンク的には前作にしてサイバーパンク・ピンクの最高傑作「メイドロイド」に於いて完成させた方法論を、今回も友松直之は踏襲する。中身は肩の力を抜いた無常観もしくは陽性の苦労話といふ形で、主には主人公二人によるひたすらな対話によつて始終を紡ぐ。さうなると名優ガミさんには勿論一欠片の不足もないまゝに、正直容姿と同様何処かしらぎこちない、水無月レイラの長台詞には苦しさも覚えぬではない。ところが終盤の感動的に大胆なミス・リーディングを経て、ピンクといふ次第で濡れ場も利したダイナミックな幻想あるいは美しい奇跡を導入するや、穏やかでありつつも同時に力強い、大らかな人生賛歌へと綺麗に着地してみせる終幕は他を圧倒して素晴らしい。間違つても楽観的ではない状況の中で、それでも友松直之ここにありきを叩き込む、人情ピンクのウルトラ強力な傑作である。

 尤も、ひとつどうしてもツッコまざるを得ないのが。上野がマリカから導かれたナウな(笑)若者文化といふのが、オレンジレンジといふのは如何せん古過ぎる。ただでさへCDも売れぬ売れぬと喧しい昨今にあつて、なほかつピンクの主要客層に伝はる落とし処とはそれならば果たして何処なのか、といふとそれもそれで中々以上に難しいところではあるのだが、それにしてもオレンジレンジはあんまりだ。リアルタイムのチャートには遠く既に名前はなく、加へて直截にいふならばそれを超えて残るバンドでもない。この辺りの感覚の古さは如何にも活動屋、といつてしまへばいへなくもないやうな気もするが、それならば更に遡らうともX JAPAN辺りの方が、まだしも引合としての強度を有してゐるのではなからうか。もうひとつ“をぢさま”の元ネタにわざわざカリ城のクラリスを引張つて来るギミックも、別に不要なやうにしか見えない。


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 「闇のまにまに 人妻・彩乃の不貞な妄想」(2009/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:友松直之/原作:内田春菊『闇のまにまに』/企画:衣川仲人/企画協力:石橋健司・赤荻武・遠藤祐司・住田陽一/プロデューサー:池田勝/キャスティングプロデューサー:灘谷馨一/撮影:飯岡聖英/編集:酒井編集室/助監督:躰中洋蔵・林雅之・小島朋也/撮影助手:宇野寛之・宮原かおり/音楽:大友洋二/効果:山田案山子/ヘアメイク:江田友理子/スチール:山本千里/特殊造形:西村映造/VFX:鹿角剛司/タイミング:安斎公一/挿入曲『粉雪』 エンディング曲『花』作詞・作曲:琴乃/制作協力:幻想配給社/企画協力:CINEMA-R・SODクリエイト/出演:琴乃・うさぎつばさ・坪井麻里子・山口真里・里見瑤子・竹本泰志・如春・貴山侑哉/特別出演:内田春菊)。因みに総尺は七十分。最初にお断り申し上げておくと、原作の方は怠惰に未読である、悪しからず。
 対ピンク上映館仕様か、御馴染み新東宝カンパニー・ロゴにて開巻。彩乃(琴乃)のシャワー・シーン、彩乃は別に気付いてゐない風だが、判り易いおどろおどろしさを予兆させる演出と共に彩乃の裸の右肩には女の左手が添へられ、今時Jホラーのクリシェともいふべき、ざんばらな黒髪を垂らし薄汚れた白の肌着一枚の女(坪井)が、浴室を覗く。女の左手は、無惨に切断されてゐた。
 彩乃と夫・溝口健司との生活は、冷え切つてゐた。ここで、新東宝が公式サイトとフライヤーにて堂々と仕出かしてしまつてゐるのは、健司役は今作の原作者・内田春菊との実生活に於ける関係も伝へられる貴山侑哉、ではなく、如春である。何と大らかな世界か、といふかピンク的には全く馴染みの薄い貴山侑哉は兎も角、井上如春の顔くらゐ誰か覚えておいてやれよ。健司は脱サラして起業するも失敗し、再就職を果たしたものの苦しい生活の為に、彩乃も英会話教材を販売する、USAプラザの電話勧誘員として働いてゐた。健司に話を戻すとこの如春といふ男が、例によつて弱いのも通り越して殆ど憎い。いはゆるギャル男の範疇にギリギリ片足を突つ込んでゐるのかも知れないが、背が高くなければ直截にいへば小太りで、首から上も決してハンサムといふ訳ではない。即ち凡そ魅力といふ言葉からは遠い如春が、どういふ訳だか勿体ない程の美人である琴乃―全体のスタイルとしては、首から上が少々大きいが―の旦那でしかも邪険に扱ひ倒すなどといふのは、些かならず画としてシークエンスが通らない。いや増して腹立たしいばかりである。度々他愛もない妄想に駆られながらも日々電話を受ける彩乃は、前任者が放置した女の家に、資料を届けに出向くことになる。何事か明確には語られないが不気味に荒れた集合住宅の一室、玄関からそこだけ覗いた女の美しい左手に、彩乃は魅せられる。
 映画初出演にして当然初主演といふ琴乃を巧みにサポートし、今作裏MVPともいふべきさりげない活躍を見せる、それはさて措き妙な長さの長髪の竹本泰志は、USAプラザの二枚目トップセールスマン・西條。この西條の髪型が超絶に微妙で、誰かに似てゐるやうな気がしてゐたのだがフと辿り着いてみると竹本泰志が山本圭に、あるいはハンサムな押井守に見える。慎ましやかな八面六臂を披露する山口真里は、彩乃のやうな綺麗な妻が居るにも関らず、アホンダラの健司がうつつを抜かすエロ動画の女。ジゴロ営業も噂される西條が、彩乃の妄想の中でオトす主婦。現実のUSAプラザカウンターにて、西條が応対する主婦、の三役を華麗に兼任する。後ろ二つはほぼ同じキャラクターともいへるが、全く別個の役で、二つの濡れ場をこなしてみせたアクロバットは地味に特筆すべきであらう。うさぎつばさは、USAプラザで彩乃の右隣に座る、霊感はあるが営業成績はからきしのテレオペ板倉佳子こと通称イタコ、狂言回しを担当する。里見瑤子は、焦点を当てられて顔が抜かれるのはワン・カットのみのUSAプラザ社員。里見瑤子はUSAプラザの背景に見切れるに留まり欠片も脱がず、三人目の脱ぎ役は、うさぎつばさが担当する。そして貴山侑哉の正確な配役は、浮気した妻・友梨(二役ではなく坪井麻里子)を殺害後バラバラにした赤城圭一である。
 近くは城定秀夫の「妖女伝説セイレーンX」や後藤大輔の「新・監禁逃亡」(二作とも2008)と同趣向の、新東宝製作による成人映画とはいへども厳密には非ピンク映画である。ここで友松直之が何とかオーピーにも滑り込めれば、既にサイバーパンク・ピンクの大傑作でクリアしたエクセスと三社全てに渡つての、三冠王が達成されるのだが。尤も話を今作限定に戻すと、兎にも角にも根本的に奇異に映つたのは、友梨の幽霊が何の接点も全く無い内から、何故か初期設定として彩乃の周囲に出没してしまつてゐる点。妖怪ならばさて措き幽霊譚といふのは、さういふものではないやうな気がするのだが。最低限度ではあつても、せめて何某かの因縁が必要なのではなからうか。そもそも、友梨殺害時点から、彩乃が赤城家を訪問したのと圭一が友梨の遺体を解体してゐたのが同時刻ならば、冒頭のTVニュースとの間に矛盾を生じる。加へて彩乃の妄想癖と友梨幽霊との親和度も低く、何が何だか藪から棒に、迎へた無体な結末に呆気にとられてしまつた、といふのが率直な感触である。ところがこれが他愛なく空振りしてしまつた純然たる失敗作なのかといふと、必ずしもさうとは限らない辺りが、ジャンル映画あるいはプログラム・ピクチャーの面白いところ。中盤を成人映画として一手に支へる、西條を相手に溺れる彩乃の昼下がりの情事が展開としては兎も角、絡みとして非常に充実してゐる。冒頭のシャワー・シーンに際しては硬さも感じさせつつ、竹本泰志の好リードにも助けられたか、堂々とした濡れ場を展開してみせる琴乃が拾ひもの。拭ひきれないちぐはぐさと唐突さとは色濃く残るものの、裸映画としては意外と頑丈に成就を果たしてみせた快作である。チラシにはぬけぬけと“エロティック・ホラーサスペンスの問題作”とあるが、風味としてすらホラーとサスペンスに関しては、世辞にも褒められたものではないのだが。あるいはそこが問題なのか。

 特別出演の内田春菊はラスト・シーン、矢張りカウンターで西條が応対する主婦。ここの原作者のカメオぶりは、素晴らしくスマートであつた。

 間の抜けた付記< 「老人とラブドール」と今作との間に、友松直之はオーピーでも一作発表してゐる。「わいせつ性楽園 をぢさまと私」(二月末/未見)、既に栄えある三冠王は達成されてあつた。まるつきり、ウッカリしてゐた   >直せよ


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 「女囚アヤカ いたぶり牝調教」(2008/製作:《有》幻想配給社/提供:オーピー映画/監督:友松直之/脚本:大河原ちさと/撮影:小山田勝治/制作担当:池田勝る/助監督:安達守・逆井啓介・石塚真也/撮影助手:大江泰介・佐藤遊・関将史/メイク:江田友理子/スチール:山本千里/編集:酒井正次/出演:亜紗美・山口真里・里見瑤子・藤田浩・井上如香・柳裕章・加藤文明)。録音と現像が見当たらないのは、本篇クレジットまゝ。
 女囚・アヤカ(亜紗美)が看守二人(藤田浩と井上如香)に、刑務所所長(後述)の前に引つ立てられる。嗚呼、麗しきジャンル・ムービーの世界よ、とでもいはんばかりにお定まりの身体検査。反骨心の強いアヤカは頑強に恥辱に耐へるものの、両義的な役得を全篇に亘つて振り撒く所長に菊穴にまで指を捻じ込まれると、堪へきれずに悲鳴をあげる。悲鳴をあげた、ところで、上沼彩香(亜紗美の二役)は眠りを強制終了させられるかのやうに目覚める。傍らには、妻の異変に気づかぬ夫・健司(柳)が安らかに眠る。仕事復帰の願望も持ちつつ今は専業主婦の彩香は、同じ内容の悪夢に連夜苛まされてゐた。健司に勧められ、彩香は心療内科「杉並メンタルヘルスクリニック」に足を運びカウンセリングと投薬治療とを受けるが、シャワーを浴びると返り血を浴び狂つたやうに高笑ふ幻覚、目覚めると隣では自らが殺めた健司が絶命してゐる、といふ覚醒夢じみた二段構への加速する悪夢に、更に度々襲はれる。
 山口真里はロクデナシの亭主と、坊主憎けりや何とやら、とかいふ塩梅で自らの蛙腹に出刃を突きたて胎児も殺した女囚・キョウコと、彩香が現実世界の日常で擦れ違ふ幸福さうな臨月の妊婦の二役。妊婦を前にする綾香に、キョウコの記憶はある。予算とオーピーとが許せば友松直之は撮りたかつたのかも知れないが、今回幸にもスラッシュなキョウコ凶行シーンはなし。障害度でいふと、あるいは後者の方が実はより高いか。里見瑤子は、半裸にまでは剥かれるがほぼカメオ感覚の女囚・ミサ。ミサだけが、彩香の世界には登場しない。加藤文明は、ラストでアヤカに接見する弁護士。その他女囚の皆さんが総勢もう五名、看守も更に若干名。健司に借金の連帯保証人になつて呉れるやう求める友人の中野が、何れも協力ですらクレジットされないまゝに見切れる。
 どちらに転んでもバッド・テイストの、彩香の破綻した生活とアヤカの囚はれた地獄とを行つたり来たりしつつ、ミエミエでもありながらひとまづ鮮やかな診療内科医の正体明かしを契機に、終に二つの世界の主客、即ち現し世と夜の夢とが逆転する。といふ全体の趣向は酌める上、試み自体は概ね成功してゐる。霞を喰らふが如きバジェットにも果敢に屈せず、女囚パートに際しての世界観の描き込みも懸命に健闘してゐる。とはいへ、超えられかつた問題、というかより直截には致命傷の大穴が目立つ。兎にも角にも、壊滅的な俳優陣が木端微塵に酷い。一応は舞台俳優でもあるらしいが、柳裕章は爆発的に華の欠片もなければ何の変哲もなく、ヒロインの配偶者として画を全く支へられてゐない。芸にならない傾(かぶ)きぶりが寒々しいばかりの藤田浩と、まるつきりそこら辺のコンビニ表でたむろするDQN程度にしか見えない井上如香。実は所長役を務めてゐるらしい監督の友松直之御当人に至つては、もうタッパ以外は何もかもが欠如してゐる。女囚映画に於いての刑務所所長といふと、魔王然とした悪の権化たるべき、強大さと質感とを身に纏つておいて欲しいところではあるのだが、てんでそのやうなタマではない。どうもこれまで僅かに観た限りでは、亜紗美の主演映画といふとどういふ訳でだか孤軍奮闘を強ひられがちな印象が強いが、今作に於いてはそれが最早、孤立無援も通り越し四面楚歌の領域にすら突入しかねない勢ひである。野球に譬へると、完投した先発投手が自責点はゼロのまま、野手のエラーによる失点で負けたやうな一作。さういふ亜紗美の健気な姿になほのこと狂ほしく支持を叫ぶ、といふアプローチの取り方もなくはなからうが、素面で一本の劇映画として接するならば、矢張り凡そ満足な体を為してはゐまい。基本的には彩香がアヤカの夢から醒め夢から醒め、徐々に消耗して行く繰り返しに終始するため、如何せん桃色方面に突き抜ききれない点もピンク的には苦しい。やりたいことは頷けるのだが、トータルでは仕損じた一作と首を横に振らざるを得ない。

 亜紗美怒涛の痴語が正しくエクストリームに炸裂する、今作中殆ど唯一実用的な決戦兵器たり得る、所長に投与された媚薬の効果で朦朧としたアヤカが、女囚達の眼前二人の看守に陵辱されるシーン。一箇所井上如香の発する“マ○コ”がピー修正を潜り抜けてゐる点に関しては、ここはいつそ気づかなかつたフリをして華麗にスルーする方向で。


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 「老人とラブドール 私が初潮になつた時…」(2009/製作:《有》幻想配給社/提供:Xces Film/監督:友松直之/脚本:大河原ちさと/企画:亀井戸粋人/撮影:小山田勝治/助監督:安達守・菅原正登/撮影助手:河戸浩一郎・佐藤遊/撮影応援:飯岡聖英/メイク:江田友里子/スチール:つちやくみこ/特殊造形:織田尚/アニマトロニクス:高山カツヒコ/制作担当:池田勝る/録音:シネキャビン/編集:酒井正次/CG:志岐善啓/出演:吉沢明歩・鈴木杏里・里見瑤子・山口真里・如香・藤田浩・金子弘幸・妹尾公資・亜坊・野上正義)。スタッフ中、CGの志岐善啓はTNCよりリリースされたDVD版のクレジットに於いては見られるもので、ピンクの方にはない。
 何者かに追はれる気配に怯えつつ、女(里見)が夜道を急ぐ。路地裏に追ひ込まれた女は、剥き出しの機械部品で構成された謎のロボット犬に犯される。凄えぞ、ピンクでサイバーパンクか!ロボット犬視点の、女をロック・オンするモニター画面が最低限十全にCGで作成されてゐることは、凡そ最低限十全ではなからう予算規模のことも鑑みれば、十二分に驚異的だ。仕事も退職し年金生活を送る上野(野上)は、バッテリーが切れ機能は既に停止して久しい、メイドロイドT-207のマリア(吉沢)と暮らす。上野が未だ少年の頃(子役は友松直之の実息・正義氏で、如香のアレテコ)、メーカーで共働く両親は新製品の社内モニターと息子の身の回りの世話も兼ね、マリアを上野家へ連れて来た。その後不幸にも、両親が同時に事故死(遺影スナップは友松直之と、誰?)してからも、親戚に引き取られることもなく上野少年はマリアとの生活を選ぶ。青年に達した上野(周到に首から上の正面は抜かれないが、声からも間違ひなく如香)は、マリアにT-207用のSEX機能付き擬似性器L-101089を換装することも考へたが、マリアはモニタリング用の試作機の為、オプションは装着出来なかつた。仕方なくトライはしてみたものの、人間の女との結婚に失敗した上野は以来生涯の大半を、マリアと“二人で”暮らし続ける。一方、いはゆるバター犬用途の犬型ロボットAIBO、ならぬA.I.B.U―正直下らない―の所持禁止に伴ふ回収廃棄に荒れる女刑事の赤城友梨(鈴木)は、頻発する事件を受け設置された捜査本部を指揮、“レイプマシン”と名付けられたロボット犬を追ふ。
 山口真里は、結婚斡旋所の紹介を受け、上野青年が一旦は結婚を試みた婚約者。風間今日子が寿引退してしまつた今、山口真里の頑丈な色香は重要かと思はれ、良くも悪くも作品を選ばぬ、躍進を望みたいところである。上野に対しては露骨に資産を目当てに、マリアは所詮はメイドロイドと軽んじる山口真里に青年期の上野は臍を曲げ、マリアへのある意味道ならぬ恋情を拗らせる。妹尾公資と亜坊は友梨の部下の、漫才コンビのやうに対照的な大男と小男。藤田浩は、テレビ番組に出演しては堂々と二役の里見瑤子と山口真里に悪し様に弄られる、生身の女ではなく、女アンドロイドのみを偏愛する性癖のオタク評論家。近いのかあるいはまだ遠い未来、実際にさういふ状況が現実のものとなつた場合、果たしてその偏向した性愛は“何次元”と称されるのであらうか。藤田浩が逆ギレ気味に炸裂させる、男も女も、最終的には身勝手な幻想を相手に押しつけてゐるだけではないか。さういふいはば“恋愛ゲーム脳”と、たとへプログラムされたものに過ぎないとしても、主人を一途に愛し続ける“機械の純情”と、果たして本当に尊いのはどちらなのかといふ破れかぶれなのか、実は真実を射止めてゐるのかな視座は、以降を力強く貫く。宇野木兄弟の弟の方の金子弘幸はレイプマシン、とされてはゐるが、劇中レイプマシンは終始ゴテゴテした鉄男風味のロボット犬の姿に過ぎないゆゑ、その点は正直よく判らない。イメージ・シーンに登場する、友梨を抱く不人気により姿を消したホストロイド―こちらも顔の正面は回避される―は、金子弘幸であるやも知れぬ。(井上)如香は、冒頭ロボット犬によるレイプ事件を伝へる、TVリポーターとしても見切れる。その画面に於いてのレイプマシンの表記は“レイプ魔神”、平田か。他に藤田浩に違法改造したT-207の後継セクサロイドT-3356・イヴちやん(吉沢明歩の二役)をプッシュする、秋葉原のジャンク屋店長が登場。劇中里見瑤子に続く二人目の犠牲者が、上手いこと画面を暗くし誤魔化し抜いてゐて、誰なのか判別出来なかつた。間違ひなく、鈴木杏里ではないのだが。
 青年期の上野は、市販モデルのT-207とL-101089を新たに購入し、それにマリアのメモリーをコピーする。といふ、マリア自身の提案を頑なに拒否する。マリアにとつてはソフトウェアこそ重要なものの、ハードウェアは単なる容れ物に過ぎなかつた。対して、上野にとつては長年連れ添つたマリアのハード自体も、個別的具体性の関心の対照にあつた。不器用な恋心と同時に、西洋流の心身二元論と最終的には親和しない、日本人の身体感が強く現れてもゐる。そして現在の上野は、持てる物全てを放棄してでも、T-207用のバッテリーを入手しようとしてゐた。ジャンク屋をブリッジに上野と交錯する友梨は、死後、意識をデータ化して擬体に移したミスターX(声の主不明)から事件の真相を知り、レイプマシンの哀しさを受け止める。
 新東宝での作品は製作本数の激減も含め過去としても、今作に続く次作は再びオーピーからと、目下としては唯一垣根を越えた活躍を続ける友松直之の2009年第一作は、決して為にする風味に止(とど)まらぬ、サイバーパンク・ピンクの大、恐らくは最高傑作。そもそも、サイバーパンク・ピンクといふ意匠自体が、画期的に珍しいものでもある。何があつたかしらんと戯れに思ひ出さうとしてみても、俄かに思ひつく近作といへば、山邦紀の「変態熟女 発情ぬめり」(2003/主演:鏡麗子)か、関根和美のターミネーチャン・シリーズ―を、今作と同列に論じるのかよ!―くらゐか。浜野佐知の「巨乳DOLL わいせつ飼育」(2006/主演:綾乃梓)に関しては、セックス・アンドロイドが出て来るとはいへ、世界観的な踏み込みは特には薄からう。今作が過去の類似作を完全に凌駕するのは、ひとまづ表面的な、あるいは形式的なサイバーパンク描写に於いて。ロボット犬の造形に、モニター画面と暴走する改造T-3356のCGに加へ、ミスターXとジャンク屋に展示されるセクサロイドのアニマトロニクス。ローを超えたノー・バジェットともいふべきピンク映画の安普請の中で、どれだけの無理の斜め上を行く無茶を通したのか。尺そのものの限界に屈することもなく、外堀を埋めるべく詰め込まれ続ける考証的な情報量の多さも尋常ではない。浜野佐知は決して首を縦には振らぬかも知れないが、レイプマシンがアシモフのロボット三原則第一条を回避する方便などは、実に秀逸だ。同時に今作が狭いカテゴリーに囚はれぬ真の傑作たる所以は、あへていへばサイバーパンクは照れ隠しに、愚直なエモーションを、なほのこと全力で撃ち抜くことにこそ主眼を置いた点。サイバーパンク・ピンクであると同時に、プリミティブなラブ・ストーリーの傑作なのである。一歩間違へれば猿のやうに薄つぺらくもある凡庸なメッセージを、人造人間の起動を左右するパスワードに仮託するといふアイデアが爆発的に素晴らしい。外堀を埋め外堀を埋め外堀を埋め、半カットも疎かにすることなく築き倒した世界観の頂点で、終に振り抜かれる、在り来りな一言。ゴミのやうなメッセージでも、どうしても伝へたいこともある。阿呆のやうなメッセージでも、万難を排して伝へなければならない時もある。覚悟を完了した友松直之が今作描かうとしたのは、真心が生み出す一欠片の奇跡。偶さか上野と友梨がシンクロした瞬間に、降り立つ青の妖精こそが全てだ。一見どつちつかずに見えなくもないラスト・シーンは、いはば余走に過ぎまい。藤田浩の提出する、約五十年前に上野青年が既に達してゐた認識に依拠するならば、人間同士で通はなくなつてしまつたとすれば、その時人の真心は果たして何処に向かふのか、向かへばいいのか。さう捉へた時、儚くも美しい奇跡は、ディスコミュニケーションの前に無力に立ち尽くす、切ない諦観でもある。

 ただでさへデフォルトで制限された上映時間の中、友松直之がサイバーパンク世界を構築すべく妥協知らずの激闘を続ける一方、上野から友梨に橋を渡すほかは特には本筋に全く絡まない、藤田浩と改造T-3356の濡れ場にその癖妙に尺が割かれる辺りは、奇異に思へなくもない。とはいへ既製品とは異なり大陰唇を左右非対称にしてみたり、違法のAF機能―オート・フォーカスでは、無論ない―を追加してみたりと、ファンキーな一幕としてそれ単体として観ると実に楽しい。友松直之もノリノリでこの件を撮つてゐたであらう節も窺へる。本職の役者には見えないジャンク屋店長も、華や雰囲気はまるでないものの、正しく立て板に水といはんばかりに喋繰り倒す話術は、とりあへず芸になつてゐる。
 ところで、別にマリアが初経を迎へてみたりなんかする描写なんぞ一欠片も見当たらないのだが、エクセスは、一体何をどうトチ狂つて“初潮”などといふ文言を持ち出したのか。如何にも、ピンクの界隈ではよくある話ともいへつつ。

 前田有楽で初見後、故天神シネマとTNCよりリリースされたDVD版で対戦した地元駅前ロマン(共にプロジェク太)を経て、再び有楽にて四度目の観戦を果たした上での、情けない付記< この期に漸く、金子弘幸の配役を確認。顔出しでの芝居は、この人がジャンク屋店長だ。全く以て、節穴にもほどがある(;´Д`)


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 「痴漢電車 夢うつろ制服狩り」(2007/製作:幻想配給社/提供:オーピー映画/監督:友松直之/脚本:大河原ちさと/撮影:飯岡聖英/編集:酒井正次/メイク:大久保沙菜/タイミング:安斎公一/撮影助手:堂前徹之・桑原正祀/照明助手:広瀬寛巳/助監督:池田勝る・逆井啓介/出演:亜紗美・澄川ロア・山口真里・井上如香・ホリケン。・加藤トモヒロ、他十一名)。出演者中、他十一名は本篇クレジットのみ。
 痴漢が犯罪であることを説くポスターを、アレな勢ひで注視する男。一方混み合ふ駅のホームで、品定めでもつけるかの如く、一人の男に色目を使ふ女子高生。
 女子高生・友里(亜紗美)は朝の電車で、ポスターを注視してゐたアレな男・川崎(ホリケン。)の痴漢に遭ふ。友里らの背後では、色目を使つた女子高生、といふかJK・アヤカ(澄川)が、自ら体に鈴木(加藤)の手を誘(いざな)つてゐた。友里は同じ車輌に乗る同級生のケンジ(井上)に頻りに目線で助けを求めるが、まるで気付いて貰へない。すると、不意にアヤカは鈴木の腕を掴むと周囲に大声で痴漢を訴へる。迷惑防止条例の条文も読み上げ鈴木を吊し上げるアヤカの姿に、友里は目を丸くすると同時に輝かせる。とはいへ実のところアヤカは、獲物に目星をつけては被痴漢を偽装し金を巻き上げる女だつた。
 その日の放課後、友里はケンジに朝の一件に関して文句をいひながらも、何とはなしに二人はイイ雰囲気になる。そのまま大胆にも教室で事を致さうとするものの、童貞のケンジは挿入の仕方を判らず、しかも友里に触れられるとそれだけで情けなくも暴発する。羞恥に我を失ひ逃げ帰るケンジと、友里とは早速微妙な距離に。翌日ケンジは友里を避け、仕方なく一人乗り込んだ車輌で、友里は再び川崎の痴漢に遭ふ。どうすることも出来ない友里に、アヤカが助け舟を出す。アヤカは川崎から例によつて巻き上げた金を、友里と山分けする。対してケンジは、うつかり女性専用車輌に乗り込んでしまふ。その日の朝、不倫相手と別れちやうど荒れてゐたOLの真紀子(山口)に捕まり、ケンジはホテルへと連れて行かれる。山口真里に無理からホテルへ連れて行かれるといふのは、近年映画の中に描かれた中でも、画期的に羨ましいアブダクションであらう。どうしてレスの筈の妻が懐妊するのかといふ、山口真里ファースト・カットの台詞もパンチが効いてゐる。
 五ヶ月前封切りの前作より、再び新東宝からオーピーへと戦場を移した友松直之の新作は、谷崎や乱歩を愛読する黒縁―メガネ―女子高生が痴漢や恋の擦れ違ひやを経て、いい娘(こ)もいい女も所詮は外から求められるままの、望まれるだけの姿に過ぎないと排し、悪い女を目指すといふそれはそれとしてのアクティブな青春映画である。友里が濡れ場まで含め終始賢明にメガネを外さない点も、友松直之は判つてゐる男だと激賞せずにはをれない。とはいへ、帰結としては判らなくもない一方で、大きな飛躍を補完するだけの説得力には些か欠き、唐突感は拭ひ切れない。変貌を遂げた友里が、自ら川崎相手に積極的に快楽を求める件の必要は、ピンク映画といふジャンル的要請を踏まへても酌めぬではないが、報復を誓ふ鈴木に拉致されたアヤカを、全く役には立たないケンジも伴ひ救出に向かふといふ、最も大きなイベントを素直にクライマックスに持つて来れなかつた点は、全体の設計としては矢張り苦しいか。さうかういひながらも、主演の亜紗美は非常に魅力的。最終的なトータルでの繋がりは弱い反面、場面場面での感情の表出は力強く、走り姿の美しさも買へる。映画女優としての萌芽を感じさせる亜紗美が、友松直之次作に於いても主演を務めてゐるところを見ると、今作は後々その重きを増す一作といへるのかも知れない。繰り返しにもなるのは恐縮だが、そんな亜紗美演ずる友里のボーイフレンドとしては、井上如香は引き立て役にせよどうにも貧弱。主演を喰つてしまつては問題かも知れないが、援護射撃のひとつもロクに撃てないでは話にならぬ。

 ズラズラズラッと見慣れぬ名前ばかりクレジットされる、男五名女六名計十一名のその他出演者は、友里らのクラスメートと、通学電車のその他乗客要員―あと、刑事役が一人―か、何れにも顔を出してゐる者も居ると思はれる。カットの変り際にまで用ゐられる効果音の使ひ方の、穿違へたポップ・センスは邪魔で頂けないが、実車輌でゲリラ撮影したパートから、電車セットパートへの繋ぎは超絶。シレッと観てゐる分には、全然境目が判らない。


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 「ザ・スワップ 若妻絶淫調教」(2007/製作・配給:新東宝映画/監督:友松直之/企画:福俵満/撮影:飯岡聖英/助監督:池田勝る/撮影助手:河戸浩一郎・松川聡/監督助手:逆井啓介/タイミング:安斎公一/制作:島田憲司/メイク:久保田かすみ/スチール:山本千里/編集:酒井編集室/ダビング:シネキャビン/現像:東映ラボテック/出演:桜田さくら・風間今日子・神門駿・井上如春)。大河原ちさとの筈の脚本が、何故か本篇クレジットには見当たらない。
 新婚夫婦の本多研次(井上)と沙織(桜田)、沙織が自慰でイク経験はある一方、独りよがりな研次とのセックスで絶頂に達しはせず、そのことに研次は不満を覚え、沙織は引け目を感じてもゐた。研次の強引な勧めで、二人は夫婦交換に精通する―我ながら何だそりや―須藤夫婦とのスワッピングに挑む運びに。沙織は熟練した孝之(神門)の愛戯に、初めて性交でエクスタシーを覚える。初めて目にした妻の痴態に、研次は目を丸くする。次の日からも孝之が忘れられない沙織は、個人的に孝之とコンタクトを取る。一線を跨いだ単なる不倫紛ひな関係を求める沙織に対し、孝之はあくまで夫婦間の愛情を補完するものとしての夫婦交換。であるからして、夫婦交換の相手方に個人的な感情を抱くなどといふのは本義に反する、と諭す。
 何処かで見たやうな気が開巻以来ずつとしつつも、クレジットを観るまでその人と気づけなかつた主演女優は桜田さくら。即ち、微妙に別名義による「絶倫義父 初七日の喪服新妻」(2005/脚本・監督:山内大輔)矢張り主演のさくらださくらである。幾分お痩せになつたのかキレイな研ナオコとでもいつた風情で、直截にいふと些か劣化した感も禁じ得なかつた点は残念である。一方こちらは永井豪のレプリカといつた風の神門駿は、まあまあ及第点。濡れ場の破壊力、他の共演陣との比較、最終的には展開面まで含め劇中世界の支配権を握る、須藤婦人・明美を演じる風間今日子の貫禄は、流石の一言。一方で空疎感といふ余計なところでの同時代性しか身に纏はない井上如春が、如何せん弱い。登場する毎に画面の求心力を、低める方向に作用してしまつてゐる。

 勿体つけた割には調子のいゝ方便この上ない、夫婦交換哲学に関してはひとまづさて措き、明美の不在時須藤家にて孝之と関係を持つた沙織は、何者かが撮影した密会の現場写真を研次から突きつけられる。結局研次は兎も角、元より夫婦関係を修復する気のない沙織が、離婚した上で家を出て行くまでが尺でいふと概ね半分。こゝから全体、話をどう転がすつもりかと思つてゐたところ、時間軸を遡つた別視点カメラの登場により真相を丁寧に解き明かして行く展開は、男女それぞれ二人づつのみといふミニマムな出演陣の中、殆ど唯一にして最大の弱点井上如春の不在にも助けられ、引き込まれ観てゐられる。研次の扱ひの無体さにさへ目を瞑れば、ラストは観客を驚かせるに足る強度も有す。今作の勝因は決定的な道具立てとはいはないまでに十全に組み立てられたサスペンスと、起承転結でいふと転部から作劇上のバトンをビリングは頭の桜田さくらから、風間今日子に手渡した舵取りの秀逸さとに見られる。監督の友松直之まで勿論含めて、さりげなくもベテランの底力が光つた良作といへよう。

 リアルタイムぶりに再見した上での付記(H25/1/19)< オーラス見切れる沙織新夫は不明、定石だと池田勝るか逆井啓介か、あるいは島田憲司か。それと、別に構はないが民放第733条、六箇月の再婚禁止期間をこのラストは清々しく無視してはゐないか?直後に見せて、半年後の出来事なのであらうか


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 「痴漢電車 挑発する淫ら尻」(2005/製作・配給:新東宝映画/監督:友松直之/脚本:大河原ちさと/企画:福俵満/プロデューサー:黒須功/撮影:下元哲/照明:高田宝重/編集:大永昌弘/制作担当:黒田浩史/助監督:城定秀夫/撮影助手:中村拓/証明助手:榎本靖/ヘア・メイク:堀川なつみ/スチール:奥川彰/ネガ編集:三陽編集室/現像所:東映ラボ・テック/制作協力:黒須映像工業/出演:北川明花・北川絵美・華沢レモン・武田勝義・飛田敦史・小泉充裕・天川真澄・吉川けんじ・中村英児)。本篇監督経験者が撮影以下スタッフの中に四人も、徒に豪華な布陣ではある。ピンクの世界では、ザラに見られる現象でもあるが。
 一言で片付けてしまふと、ピンク版「電車男」。本家との大きな相違点は、電車男がエルメスに痴漢してしまふところ―駄目ぢやん!―と、彼を応援するのがネット社会の住人ではなく、成仏することを拒んだ幽霊達である点とである。
 年齢=彼女ゐない暦のいはゆるアキバ系・優治(武田)は電車の中で、フと見初めたOLの江里香(北川“新体操”明花)に痴漢する。場面変つて開き直つた安普請の電車セット、霊界列車らしい。車掌の死神(中村)と、成仏して生まれ変ることを拒んだ幽霊が四人。惚れた姐さんのため鉄砲玉となり、命を散らしたヤクザ者のヤマダ(天川)。浪人生活幾星霜、終に自ら命を絶つたタナカ(吉川)。夫との擦違ひからキッチンドランカーになり、急性アルコール中毒で死亡したリョウコ(北川“人造乳”絵美)。引きこもりの末に、拒食症から栄養失調で死んだトモヤ(小泉)である。四人が成仏を拒んでゐるのは、もう一度生まれ変つて別の人生を生きる勇気がないから。ただその我儘は、霊界のルールに適ふものではなかつた。死神は四人に告げる、一ヶ月以内に優治を江里香相手に筆卸させることが出来れば、今の状態のまゝでゐてもよい。それが出来なければ、四人は地獄往きであると。かくして四人の幽霊はどうにかかうにかして、始末に終へぬ優治の背中を押し江里香と結ばれるやう仕向けようとする。何処からそんな条件が湧いて来るんだ、さういふ無粋なツッコミをする輩の家には、今晩から恐怖新聞が届くから。
 ここから先は案外普通の「電車男」、といつて、私は本家・テレビドラマ・劇場版、その他ありとあらゆる「電車男」をこれまで全く見たことも手に取つたこともないのだが。まあ大体こんなもんぢやろ?ぐらゐの勢ひで話を進める。四人の幽霊がああでもないかうでもないと四苦八苦しながらも、何とか優治と江里香とをくつゝけようと右往左往する。最終段階、遂にラブホのベッドの上にまで辿り着きはするものの、どうしたらいいのか全く判らず手も足も出せず狼狽するばかりの優治に、四人がああしろかうしろと一々指示を出す件は、さながらヤング系情報誌のハウツー記事も髣髴とさせる。
 基本設定上の相違点に加へて、展開上の相違としては、電車男を応援するのが幽霊につき、それぞれ現世に遺して来た者がゐる。優治の背中を押しがてら、幽霊と遺された者との―文字通りの―絡みも描かれる。要は、「黄泉がへり電車男」とかいふ寸法である。
 配役残り華沢レモンは、トモヤがこの世に遺して来た彼女のマイ。今でも、トモヤの写真を手に哀しみに暮れてゐる。幽霊である以上、トモヤはそんなマイの直ぐ側まで寄つては行けても、指で髪に触れることすら叶はない。けれど、二人がともに心から望んだ時、夢の中でならば二人は結ばれることが出来る、死神はさう告げる。念願叶ひ、夢の中とはいへ、トモヤはマイとセックスする。マイがトモヤのズボンを下ろさうとしたところ、トモヤは一瞬戸惑つて拒みかける。するとマイは、「何よ、こつちも引きこもり?」。他愛ない台詞を、名台詞にしてのける決定力が華沢レモンにはある。飛田敦史は、優治と江里香の仲の横槍を担当する江里香の上司・ユウスケ。実は、リョウコが遺して来た旦那であつた。リョウコは、ユウスケを江里香から引き離す意も含めて、最期の別れに夫に抱かれる。休日出勤の新宿にゐた筈なのに、気がつくとユウスケは自宅に、加へて、死んだ筈の妻も食事の支度をしてゐる。ユウスケは何が何だか判らぬまゝに、リョウコに誘はれるがまゝ夫婦生活する。裸エプロンの中で、妖しく弾み踊る北川絵美のオッパイ、但し人造ではあるが   >ひつこい

 ここから先はネタが割れるのを回避して自重するが、伝説、らしい―未見ゆゑ―の「コギャル喰ひ 大阪テレクラ篇」(1997/大蔵)の友松直之は、今回は十八番の猟奇も鮮血も内臓も一切封印、いはば臆面もない便乗企画を、最後はイイ話に落とす良質の娯楽作として丁寧に撮り上げた。プロフェッショナルの堅実な仕事ぶりを、麗しいと最大限に評価したい。
 最後に、どうでもよかないが小泉充裕はどうスッ転んでも拒食症から栄養失調で死んだ人間には見えない。ここは国沢実―設定では高校生のトモヤに、国沢本人をといふ訳には行かないが―のやうなルックスの俳優部を連れて来て欲しかつた。それと、ヤマダと姐さんのエピソードも見たかつたが、75~90分のVシネだとまだしも、土台60分のピンク映画でそこまでは無理か。因みに、姐さんといふので愛染塾長が出て来るのだけは御免かうむる。


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