手紙 /  シミー書房個展によせて

 

 

  百年前までこの辺り一帯の丘は森だった。

  黒々とした広い大きな森だった。

  道も畑も灯りもなかった。

  時を経てこの名もなき丘に、

  やまぶだう村から屈強な若者たちがやってきて、

  森を開き、畑を耕し、暮らしを立てた。

  移住者の子や、そのまた子どもたちが丘で生まれ育ち、

  生業を継ぐ者、生業を変える者、

  丘を離れてゆく者もいた。

  丘はしらくも村と名付けられた。

 

 

 シミー書房 しらくも村のおはなしの中の一編『  農夫イシコロ  』 は、このように

始まります。現在7巻、各巻の函には3冊のお話しが入っていますから合計21話

になる「 しらくも村のおはなし 」 ですが、しらくも村の成り立ちの歴史を私たち

『 農夫イシコロ 』を読んで知ることになるわけです。

 

りんだう村で生まれ育った幼なじみ同士の二人の若者は、独り立ちの行き先を

コインの裏表で決めることにしました、グリム童話へのオマージュのように、また

若さゆえに。それぞれ表が出たら海へ、裏が出たら山へ行こうと。

イシコロは、裏。

友は、表。

こうしてイシコロは山の方向に旅立ち、そしてやがてしらくも村に麦畑を持って、

家族とともに生活し働いて、麦をつくる農夫として歳を重ねていったのでした。

表が出て海へ向かったもう一人の若者は、しわぶき湾の古い灯台の灯台守となり、

イシコロと同じ年月を海を眺めながら海とともに歳を重ねたのでした。

自分の人生の向かう先をコインの裏表で決めた幼なじみ同士は、

 

  二人は約束通り旅立ち、

  その後二度と会うことはなかった。

 

のです。

二度と会うことはなかった二人。

なかったにもかかわらず、いいえ、会うことはなかったことになど煩うことなく、

イシコロと友は自分にとってのお互いの存在を大切に大切にし続けました。

淡々と、しみじみと。

どうやって?

その手立てが手紙なのです。

 

今は丘のしらくも村と海辺の灯台にそれぞれ暮らし続けるかつての若者二人の手紙

のやり取りは、何十年もの間続きます。

海から届く友の手紙がどのような経路で配達されてきたか、その歴史が語られ、

麦畑のイシコロからの手紙が、どこでどのように引き継ぎされながら小さな岬の

古い灯台、灯台守のその手まで配達され続けたのかもきちんと語られるのです。

人々の暮らしの中で、確乎たる、またかつては唯一と言ってよい通信手段として

街から最果ての土地までいくつものなんらの手段を経て、手紙は届く。

当たり前に。

そして、イシコロと友も手紙を書いて送る。

友の手紙には、海のことが描かれていて、

イシコロの手紙には、森や麦畑のことが書かれている。

お互いに、目の前に広がる光景を、心のままに伝え合う。

すると、目の前に広がる水平線は、丘に広がる麦畑の風景に変わり、

青いインクが滲む潮の匂いのする手紙は、

見たことがない海をはっきりと見せてくれる。

 

郵便への信頼と敬意と憧れを、

変化していく世界の中にあって、今も昔も変わらずにある友を想う心を、

手紙という手段に託して描かれたこのロマンティックな物語は、

イシコロの気持ちを詩として表現している 『 わたしは海を知っている 』 へと

繋がります。

 

新明史子・岡部亮 シミー書房の世界がいかに確かなものかが解るこの二つの

おはなしなのです。読む度にため息をつきます。感嘆。

岡部さんの画が新明さんの文章を立ち上がらせ、新明さんの一本の線上を極めて

研ぎ澄まされたセンサーで歩を進めるかのような、選び抜かれた言葉の豊かさが

岡部さんの画によりより一層伝わってくる。

表紙の麦のリースもとてもいい。

そして、『 わたしは海を知っている 』 の最後のページの麦畑の画、この画の素晴

らしさは、読んだ人の特別だと思っています。

 

                                                                        ©shimmy books

 

 

『 農夫イシコロ 』 は、しらくも村のおはなし「 農夫イシコロ 」 に、

『 わたしは海を知っている 』 は、しらくも村のおはなし「 カゲロウ診療所 」 に、

それぞれ入っています。

今日から南区石山の ぽすとかん にて始まっている

「 シミー書房個展 テーブルの上の領地 」 にて、麦畑の画のトートバッグが販売

されているようで、まずはこのトートバッグほしいなあ。

そして、今回の新しい作品、とてもとても楽しみなのです!

 

 

   シミー書房個展 テーブルの上の領地

2024.5.23. ( 木 ) ~ 6.9 ( 日 ) 10:00 - 18:00

札幌市南区石山2条3丁目1-26 ぽすとかん/ 駐車場有り約10台

tel 090-6264-3832 ( ニシクルカフェ )

 

 

 

明日金曜日は、パスキューアイランド・パン販売の日。

緑の木陰が気持ちの良いこの時期、パンとコーヒーを持って木漏れ日の

下でランチもいいですね。

明日も、こんがりと焼けた丸いパンを山盛りにして、みなさまのご来店を

お待ちしています!!

 

 

グラハム粉の丸いプチパン

1個 150yen

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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