レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

『使者の血統』他

2013-02-27 12:56:24 | 
パコ・ビナテア『使者の血統』 人間社

 図書館を活用してスペイン文学をせっせと手にしている。面白くなければ遠慮なくやめる方針でやっている。
 これは面白くて最後まで読んだ本。
 バレンシア地方のとある村、主人公は記憶喪失の男。お世話になった精神病院の主である老紳士からセレニオという名前と、聖人像お堂管理人兼植木屋として暮らしている。施設で兄と暮らす、物語の才がありそうな少年パキート。悪ガキどもにいじめられる精薄青年ベナンシオ、その母は薬の扱いにたけていて、魔女と噂されている。懐疑的な変人の若い司祭。村に滞在中のジプシーの一家。魅惑的なジプシー娘とセレニオの交情。
 セレニオの正体を、老紳士はなにか知っているようだけど、問には答えようとしないで、読者にもわからずじまい。
 フランコ政権下、反抗分子とのつながりを疑われたベナンシオは、殴られて腹をたてた拍子に、まるで預言者のような態度を一瞬見せて、大洪水を告げる、それがラスト近く。
 「バレンシア大洪水」という事件を私は知らなかったので、これで初めて検索した。では、作中人物たちは一部なりと死んでしまうのか。出て行った人々のほうが幸運だったのか。


アレハンドロ・カソナは現代の劇作家。3冊読んだ。
『立ち枯れ /  陸に上がった人魚』というタイトルを見て、「立ち上がれ 陸に上がった人魚」と読んでしまい、そりゃムチャだろう、とつっこんだ。どちらも、現実と向き合うことと幻想との葛藤がテーマである。前者では、かつて不品行のために追い出された孫息子を心配する老婦人のために、その夫の依頼で、その孫と妻のふりをする男女、しかし本物がますます堕落して帰ってきてしまい・・・という展開。血縁よりも善意の他人、という結末が心地よかった。
 『暁に訪れる女』所収の『春に自殺はお断り』は、自殺志願者を収容して、その気を失せさせることを目的とした施設が舞台。酔狂な思いつきによる奇妙な施設という点が『立ち枯れ』と共通している。恐ろしさ混じりのおかしさが漂う。
『愛と死の戴冠』は、中々風情のあるタイトルだと思ったら、ポルトガル史上有名なペドロとイネスの話であった。

W・フェルナンデス・フローレス『七つの柱』
 人間の煩悩は活力源でもあるのだ、「七つの大罪」も抹殺してはならない  というテーマ。

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