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晴れ時々スターウォッチング

昔の出来事もたま~に紹介

2024年初撮影の火星(7/23)

2024年07月30日 | 火星
2024年最初の火星観望&撮影記録です。

 土星の撮影を終えて望遠鏡を火星に向けた時刻は3時30分を少し過ぎた頃… すでに航海薄明が始まっているので空はかなり明るくなっていました。火星高度は30°を少し超えたくらいです。

 撮影の前にまずは眼視で望遠鏡を覗いてみると…うわ!ちっさ!視直径はわずかに5".7なので小さいだろうとは思ってましたが望遠鏡で見た火星は想像を超える小ささでした。

 眼視では目をこらして見てもアルベド模様がまったく見えませんでしたが、撮影した動画を処理すると模様が浮かび上がりました。撮影時の中央経度は98°だったので太陽湖とタルシス三山が正面に位置しているはずですが、よく分かりませんね。

 なんかかろうじて火星だと分かる程度の画像ですが、まー、視直径5".7の高度30°でこれだけ写ってくれればむしろ御の字ですかね~。


撮影データ:μ210+Takahashi 2× Ortho Barlow+ADC+ASI290MC(UV/IRcut)Shutter=7.276ms Gain=350 (58%) Duration=60s AS!3 50% of 5037 Drizzle1.5×

撮影時のシーイング



 さてさて、2025年1月25日に地球に最も近づく今回の火星接近は数ある接近の中でも小接近と言われるカテゴリーなので望遠鏡で覗いても拡大撮影しても実際のところは小さくてつまらな~い火星です。

 しか~し、小接近(これから3回続く、2025年1月、2027年2月、2029年3月)だからこそ楽しめるポイントがあります。今日はその紹介をしていきま~す。

小接近時ならではの晴れスタ的火星ウオッチングお楽しみポイント~!

〈お楽しみポイント~その1〉
・火星に移住した気持ちで火星の季節を感じよう!

 これはかなり無理がありますが、火星の季節と気候を知って将来の火星移住に役立てようというものです。(←そりゃ~無理がありすぎだろう)

 で、撮影時の火星は冬至を過ぎた頃(下図参照)なので、北緯35度付近の最低気温が-108℃で、最高気温は-29℃です。寒すぎ! しか~し。この時期の南半球は夏なので南緯35度では最高気温が+28℃、最低気温が-30℃とかなり高めの気温になります。が、火星は大気が薄い(6hPa)ので最高気温+28℃は地表付近の気温で、たしか1~2mの高さではマイナスの気温になる観測データだったと思います。究極の頭寒足熱ですね。


撮影データ:2024.7.23 03h43m36s μ210+Takahashi 2× Ortho Barlow+ADC+ASI290MC(UV/IRcut)Shutter=16.28ms Gain=293 (48%) Duration=60s AS!3 50% of 3688 Drizzle1.5×

〈お楽しみポイント~その2〉
・小接近限定!大接近の時は見ることのできない北極冠を観測しよう!

 火星北半球は今が真冬なので北極冠は最大直径が1200km、北緯60度まで覆う超ビッグな極冠になっているはずですが、7月中は北極が極夜になっているのと南半球が地球に向いているので見ることができません。8月下旬になると中央緯度が0°になり、その後は北半球がよく見えるようになります。

 特に11月下旬は中央緯度が15°に達するので北緯50°付近まで白くなっている北極冠を見ることができる可能性があります。北極冠は季節が進むと徐々に小さくなりますが最接近の頃は火星歴で4月19日頃なので溶け残っている北極冠を確認することができると思われます。



 さらに、この北極冠は2027年と2029年の小接近の時も条件よく観測することができます。2027年には溶け残っている北極冠の様子を中央緯度23°という好条件で、2029年の接近ではほぼミニマムの大きさになった北極冠を中央緯度25°という条件で観測できます。



 夏季の北極冠は雲が発生しない時期(北極冠は秋から冬にかけて雲に覆われる)であることとダストストームが発生しにくい時期(ダストストームはLs180°~Ls 0°、南半球の春から秋にかけて発生する)なのでドライアイスが消えて水の氷だけでできた小さな北極冠が見られる可能性があります。

 もちろん、小接近なので視直径は最大でも2027年が13.8秒で、2029年は14.4秒なので大接近のような火星を撮影することはできませんが気象条件が良ければ予想を上回る解像度を得られるかもです。

 まずは、その前哨戦として2024年小接近の火星ウオッチングを楽しむことにしましょう!
 

7月23日の土星(中央緯度2.72°)

2024年07月25日 | 土星
中央緯度(環の傾き)が2.72°になった土星の撮影記録です。
 7/22と7/23は、仙台もいよいよ梅雨明けか~と思わせる晴天だったのですが…

 気象情報を見ると、その後は梅雨前線が南下して1週間ほど梅雨空が戻ってくるとのこと… つまり7/22~7/23の晴天は単なる梅雨の中休みということです。

 なぬ~、では仙台の夏はいつ来るの~? と嘆いてもしょうがないので、晴れスタ撮影班がお得意?の早寝早起きをして緊急惑星撮影会を決行しました~。

 撮影ターゲットは、土星→火星→木星の3惑星です。気流はそれほど良くありませんが、新規購入したTakahashi 2× Ortho Barlowの見え具合も確かめたかったので02時から観望を始めました。

 観望&撮影望遠鏡はμ210です。土星の衛星でPowermate2×とTakahashi 2× Ortho Barlow見え方を比較してみたのですが、特に大きな差異はないように感じました。

 ただ、気象条件の変化もあるので確かなことは言えませんが、若干、Takahashi 2× Ortho Barlowの方が明るい感じがしました。これについては気象条件の良い日に再度確認ですね~。

 で、こちらが7/23日に撮影した土星です。どれもDe-rotation処理をしているので撮影時刻はDe-rotation処理後の中央時刻となってます。

 環の傾きは中央緯度2.72°になっているので6月20日に撮影した中央緯度2.40°よりは大きくなっているはずですが、見た目の違いは分かりませんね。(^^ゞ

中央緯度2.72°の土星、光度0.9等、視直径18".5、撮影時高度45°

2024/7/23 02h45m μ210+Takahashi 2× Ortho Barlow+ADC+ASI290MC(UV/IRcut) De-rotation
Shutter=71.55ms Gain=350 (58%) Duration=250s Autostakkert3 50%



 仙台上空は夏の気団と梅雨前線のちょうどきわにあたるので気流はビミョーです。
明らかに6月20日の方が好気流でした~。

2024/7/23 02h48m μ210+Takahashi 2× Ortho Barlow+ADC+ASI290MC(UV/IRcut) De-rotation
Shutter=82.55ms Gain=350 (58%) Duration=580s Autostakkert3 50%



 一応ここに衛星レアがありますが、透明度が良くなかったのでボケボケです。

2024/7/23 02h53m μ210+Takahashi 2× Ortho Barlow+ADC+ASI290MC(UV/IRcut) De-rotation
Shutter=82.55ms Gain=350 (58%) Duration=240s Autostakkert3 50%



 そうそう、今朝の土星食はざんねんながら見ることができませんでした~。

2024/7/25 0h25m20s D810A SIGMA150-600mm f5-6.3 f450mm ISO3200 F6 1/1250sec

 日付が変わる頃は晴れていたのですが、朝になると雲がモクモクで月が姿を現わすことはありませんでした。ざんねん~。

 月がある西の空にうっすらと虹がかかっていました。「朝、虹がかかるとまもなく雨」の観天望気どおり、間もなく本曇りになって日中は雷雨を伴う大雨となりました。

Over The Rainbow「虹の彼方の土星食」

2024/7/25 06h15m16s D810A SIGMA150-600mm f5-6.3 f150mm ISO1600 F20 1/1600sec
 
 昔から「雷が鳴ると梅雨が明ける」と言われていて、実際そのとおりになることが多かった気がしますが、この頃は観天望気も変わってきたのですかね~。予報では仙台は30日まで雨模様が続くようです。トホホ…

 次回のブログは2024年初撮影の火星観望レポートで~す。
 

ニイニイゼミの梅雨明け発表予報! 2024

2024年07月11日 | お天気
 今年は梅雨が明ける気配がないなぁ~と思いの皆さま、お待たせしました!
7月9日夕方に複数のニイニイゼミが一斉に合唱を始める初鳴きを観測しました~。

2024/7/9 18h42m35s Canon PowerShot G7 X MarkⅡf8.8mm F4 1/800s

 ということで、ニイニイゼミの初鳴きから気象台の梅雨明け発表日を勝手に予想する
「ニイニイゼミの梅雨明け発表予報 」の始まりで~す!

 さて、実は6月29日夕方に自宅前の木で突然ニイニイゼミが鳴き始めたので、梅雨明け発表予報発令か~?と思ったのですが、鳴いてたのが一匹だけだったので梅雨明け発表予報には至りませんでした。

 翌日以降は一匹も鳴かない日が続いたので6月29日の個体はフライング・ニイニイゼミだったようですが、6月中に鳴いたのは初めてなので単独個体という条件付きですが観測史上最早記録となりました。

 で、気になる梅雨明け発表予報ですが、これまでは平均値から「ニイニイゼミの初鳴き11日後説」を標準パターンとしていましたが、昨年の分析エルニーニョ現象/ラニーニャ現象の発生梅雨明け時期には相関関係があることが分かったので予報パターンを下記のようにしてみました。

〈ニイニイゼミの初鳴きから東北南部梅雨明けが発表されるまでの日数〉
・「エルニーニョ現象発生時→ニイニイゼミの初鳴きから13日後」
・「ラニーニャ現象発生時→ニイニイゼミの初鳴きから10日後」
・「どちらでもない時→ニイニイゼミの初鳴きから11日後」

 2024年からはこの日数を基準として梅雨明け発表予報を行っていきます。
 それでは、発表しま~す。

仙台管区気象台が2024年の東北地方南部の梅雨明けを発表する日は…
 ジャジャ~ン、7月22日です。

 今年は昨年の春に始まったエルニーニョ現象の収束予報がでていますが7月時点ではまだ終わりきっていないので、エルニーニョ現象発生時の13日後説を取り入れて、7月9日+13日=7月22日としました。

エルニーニョ監視海域における海面水温の基準値との差(℃)

赤 → エルニーニョ現象発生、青 → ラニーニャ現象発生

 また、今年のようなエルニーニョ現象収束後の夏季は、インド洋熱帯域の海面水温変動が遅れることから「太平洋高気圧の張り出しが弱い」「北日本を中心に多雨・寡照、沖縄・奄美で高温になる」傾向があるようなので、全国的に早い梅雨明けにはならない年…になるかもです。

インド洋熱帯域の海洋変動が日本の天候へ影響を及ぼすメカニズム


これまでの観測記録


 …となると東北地方の梅雨明けも遅くなるような気がしますが、ニイニイゼミの梅雨明け発表予報が当たることを期待して夏空がやってくるのを待つことにしましょう。

有明の月とプレアデス星団、木星、火星の競演(7/3)

2024年07月04日 | 
有明の月とプレアデス星団、木星、火星の競演」の観望記録です。

 早起きをして観望場所に着いたのは 02時少し前… 木星出が02時04分なので、木星はまだとして月と火星は見えているはずですが、東の空はわずかに月の位置分かる程度です。トホホ…

 SCWを見ると03時30分頃には高層雲がなくなって晴れる予報です。薄明開始が02時22分なので03時30分に晴れたとしても時すでに遅しですが、少しでも回復が早まるのを期待しましょう。

 お、02時10分過ぎに火星が写るようになりました。ふむ、双眼鏡でも確認できました。

2024/7/3 02h13m15s D810A NIKON VR24mm-70mm f2.8 f70mm ISO3200 F7.1 1sec

 天頂付近は星が見えているので広角で撮影して写った星を繋ぐとこんな感じでした。

2024/7/3 02h21m26s D810A NIKON VR24mm-70mm f2.8 f24mm ISO1600 F7.1 5sec
 
02時30分のことです。突然まばゆい光点が出現!こ~れはISSか?と思って双眼鏡で確認すると、動きが超ゆっくりです。なんじゃこりゃ~?と見続けること数分、あら~、木星でした~ (^^ゞ

2024/7/3 02h31m22s D810A NIKON VR24mm-70mm f2.8 f58mm ISO3200 F7.1 1.3sec

 ISSまがいの木星には笑ってしまいましたが、 02時40分に撮影した画像ではプレアデス星団とアルデバランが写っていました。薄雲は相変わらずありますが、これで本日のオールスターが揃いました~。

2024/7/3 02h42m09s D810A NIKON VR24mm-70mm f2.8 f70mm ISO1600 F3.5 2sec

 …と喜んでるひまはありません。特大の波状雲が迫っています。撮影を急ぎましょう。

2024/7/3 02h49m34s D810A NIKON VR24mm-70mm f2.8 f34mm ISO6400 F7.1 2sec

 ここでレンズを望遠にして二十八夜月とプレアデス星団の撮影にチェ~ンジです。

2024/7/3 02h52m55s D810A SIGMA150-600mm f5-6.3 f350mm ISO10000 F5.6 2.5sec

う~む、プレアデス付近には雲がないのですが、月周辺にはなぜかずっと雲がありました…

2024/7/3 02h54m03s D810A SIGMA150-600mm f5-6.3 f350mm ISO10000 F10 1sec

 
で、こちらが本日のベストフォト「二十八夜月とプレアデス星団の接近」です。

2024/7/3 02h54m58s D810A SIGMA150-600mm f5-6.3 f480mm ISO5000 F7.1 1sec

 結局、このあとも月の周りが晴れることはなく、波状雲もやってきてプレアデス星団は見えなくなりました。

2024/7/3 03h01m04s D810A NIKON VR24mm-70mm f2.8 f35mm ISO6400 F5.6 1.3sec

 ラストフォト「細月とプレアデス星団」

2024/7/3 03h06m39s D810A SIGMA150-600mm f5-6.3 f420mm ISO12800 F6 1/8sec

 今回の観望は最後までスッキリ晴れることはなかったのですが、双眼鏡で見たプレアデス星団は、雲間から見え隠れしていたからなのかキラキラしていて息をのむほどキレイでした。

 月とプレアデス星団の接近はこれまでも見てきましたが今回の接近は幻想的で別格な感じがしました。たぶん雲で月がいい具合に減光された効果だと思うのですが、まさかこの天気でこれほどの感動ビューが見られるとはオドロキでした。

 どんな天気でも見てみないとわからないものですね~。

〈関連ブログ〉
2024年見たい天体現象「月と惑星の接近(1月~4月編)」
2024年見たい天体現象「月と惑星の接近(5月~8月編)」

みどり色に見える星のナゾ!?(ヒストリー編)

2024年07月02日 | ☆星見隊
てんびん座のβ星がみどり色に見えるナゾについては現在も調査中ですが、そもそも最初に緑色に見えることに気付いたのは誰で、いつのことだったのだろう?…という疑問が湧いたので、そのヒストリーを探ってみました。

〈はじめに…〉
 私がてんびん座β星のことを初めて知ったのは「天文ガイド別冊・ジュニア夏の天体ガイド(昭和47年発行)」の裏表紙を見たときです。そこには「てんびん座のズベンエルシャマリ(緑)…肉眼で見えるただ一つの緑色星」と紹介してありましたが…

〈星座ガイドブックの多くでは…〉
 「この星のグリーンの輝きが美しいと表現する人もある」「青白い高温星だが、人によっては ‘‘グリーンの輝きが美しい" といわれる」「古来からこの星の色は『緑がかった』『エメラルド色』と表現され、緑色の星として紹介されている」のように書かれていて、「緑色に見えます…」と書いてあるガイドブックはお目にかかったことがありません。

〈…ということは〉
 つまるところ、てんびん座のβ星が緑色に見えた人や緑色だと確信した人は、どこにもいないんじゃないの?と思って調べたところ、「緑色に見えた」ということを書物に記している人がいました! 星の和名の収集研究で知られている天文民俗学者の野尻抱影です。

〈みどり色のβ星を見た日本人-野尻抱影 1885-1977〉
 昭和16年(1941年)発行『星』(恒星社厚生閣)「紫の星・緑の星」P32
・さそり座の右隣にてんびん座の星が四辺形を作っている。その頂のβという星が全天にも稀有の美しい緑の星で、昔のプトレマイオスの星表には1等星になっている。昔はさぞ素晴らしい色の光であったのだろう。肉眼でも心もち緑に見え、更に双眼鏡でははっきり緑いろの星を現す
 φ(.. ) -野尻抱影は1928年(昭和3年)日本光学製の屈折望遠鏡を購入し、ロングトムと命名して愛用したが、『星』を執筆するときに使用した口径10センチメートルの望遠鏡が屈折望遠鏡か反射望遠鏡かは不明。双眼鏡の性能も不明

〈で、言い出しっぺは誰なの?〉
 日本で野尻抱影さん以外にみどり色のβ星を見たという人は見つからなかったので、ここからは外国の文献で「みどり色に見える星」と言われるルーツを調べてみました。 φ(.. ) 検索中~

 ~ふう、かなり時間がかかりましたが、てんびん座のβ星が緑色に見えることを記述している外国の文献は5件ほど見つかりました。では、時代の新しい文献から順に見ていくことにしましょう。

資料1〈アメリカの天文学者、サイエンスライター、ジェームス・B・ケラー〉1938-2022
1988年公開オンラインデータベース『STARS

・このような星は通常、青白い色をしていると考えられているが、ズベンエスシャマリは長い間、人間の目には奇妙に緑色に見える唯一の肉眼の星であるという評判があった。また、単に白く見えるだけだと主張する者もいる。この論争が続くことは間違いない。

φ(.. ) ふむ、いかにもサイエンスライターらしい文面ですね~。しか~し、出典や引用元は記載されていないようです。では、次は58年前に出版された「バーナム天体ハンドブック」を見てみましょう。

資料2〈アメリカの天文学者、ロバート・バーナム・ジュニア 1931-1993〉
1966年出版『Burnham's Celestial Handbook・バーナムの天体ハンドブック

・オルコット - 肉眼で見える唯一の緑色の星と言っている。
・ウエッブ - この星は美しい淡い緑色をしていると表現している。

 φ(.. ) ほほう~、いいですね!出典をはっきり書いています。バーナムはローウェル天文台職員の時に天体ハンドブックを出版してますがその生い立ちを見るとホントに星が好きな人なんだ~ということが分かります。では、ここからはオルコットとウエッブの文献を見てみることにしましょう。


資料3〈アメリカの弁護士、アマチュア天文学者ウィリアム・タイラー・オルコット 1873-1936〉
1907年出版『A Field Book of the Stars・星空のフィールドブック

・βは淡い緑色の星である。その色は非常に珍しい。

φ(.. ) ふむ、オルコットの記述はあっさりですね~。オルコットはおもに変光星の観測をしていたようですが、4年後に出版した「Star Lore of All Ages‣あらゆる時代の星の伝承」にもβ星のことを書いているので見てみましょう。

資料3b〈ウィリアム・タイラー・オルコット 1873-1936〉
1911年出版『Star lore of all ages・あらゆる時代の星の伝承』

・β星は肉眼で緑色に見える唯一の星で、興味深い変光星である。
・エラトステネスはさそり座(てんびん座)の中で最も明るい星だと言っているが、
 プトレマイオスはアンタレスと同等とだと言っている。

φ(.. ) ふむふむ、前出のバーナムはこの文面を見て「オルコットは肉眼で見える唯一の緑色の星だと言っている」と記述したわけですね~。オルコットは変光星の研究者なのでどちらかというとβ星の光度に興味があったように感じますが実際に自分の目で緑色を確かめたかはこの文面からは判別できませんね。

 さて、次はウェッブの文献ですが、ここでウェッブの言葉を引用している興味深い文献を発見!それはリチャード・ヒンクレー・アレンの『Star-Names and Their Meanings・星の名前とその意味」という書物ですが、そこにはオドロキの文章が…

資料4〈アマチュアの博物学者、リチャード・ヒンクレー・アレン 1838-1908〉
1899年出版『Star-Names and Their Meanings・星の名前とその意味』

・ウエッブ は β星の色は濃紺のような濃い緑だが肉眼で色を見ることはできないと言っている。

φ(.. ) な、なぬ~! ウェッブは「肉眼で色を見ることはできない」と言っていた!? もしこれが事実なら「肉眼で緑色に見える唯一の星」という牙城はもろくも崩れ去るのか~?

 さっそくウェッブの書物を見てみることにしましょう。 

資料5〈イギリスの天文学者、トーマス・ウィリアム・ウェッブ 1807-1885〉
1859年出版『Celestial Objects for Common Telescopes・一般的な望遠鏡で見る天体』

・β星は目立つ星の中では非常に珍しく美しい淡い緑色をしているので二重星の項目に付記する。
・β星の色は濃紺のようなダークグリーンだが、肉眼では色を見ることはできない。
・日照時間が長く日没が遅いため、この星座の天体を探すのに苦労する。

φ(.. ) ふむ、はっきり「肉眼では色を見ることはできない」と書いてますね。ウェッブは小さな天文台を建てて、3.7インチ (94 mm)屈折望遠鏡や9-1/3インチ (225 mm) の反射望遠鏡で観測を続けて1859年に『Celestial Objects for Common Telescopes」を出版。この本は望遠鏡の使い方と望遠鏡で何が観測できるかの詳細な説明が書かれていたので世界中のアマチュア天文学者の標準的な観測ガイドとなったようです。それだけにここに記載されているβ星の説明はウェッブの観測に基づいた信頼できる記述であり、なにより「二重星」の欄に追記しているという事実がこのβ星の特異性を現していると言えます。


-総論-
・以上のことから、Libra-β星は望遠鏡を使えば濃紺のようなダークグリーンに見える星であるが、肉眼(naked-eye)で緑色に見える星ではないと結論付ける。
・ただし、β星は変光星だった可能性もあるので、ウェッブが見たβ星の色が現在のβ星と同じ色であるかは分からない。野尻抱影は「双眼鏡では、はっきり緑いろの星を現す」と記述しているので昭和16年までは容易に緑色を感じることができたのだろう。
・今回の調査では ウェッブより以前にLib-β星の緑色に気付いた人がいたかどうかはわからなかったが、ウェッブの観測が今に伝わる「Lib-β星が緑色に見える唯一の星」のルーツだと言えるだろう。

〈関連ブログ〉
みどり色に見える星のナゾ!?(仮説~その1) 2024.5.29
みどり色に見える星のナゾ!?         2022.7.29