
はて、緑色がかった星が見えます。一瞬、てんびん座のβ星「ズベン・エスカマリ」か?と思ったのですがこんなに明るく見えるはずはありません。そう、この星は春の大曲線の南端にあるスピカです。
スピカと言えば「真珠星」と呼ばれるように白色を代表する星です。ありゃ~、ついに加齢で目がおかしくなったか~と思ったものの部屋からNIKON 7×50の双眼鏡を持ち出して覗いてみると…
ほひょ、これはどういうことでしょう?確かに緑色がかって見えます。双眼鏡で見ると緩やかに瞬いているのでカラフルな色も見えますが、中心付近は白色で星の周囲が緑色になっています。
比較のためアルクトゥールスを見るといつもの橙色に見えています。スピカだけが緑色を周りにまとっています。スピカの高度は30°と40°の間くらい… 肉眼と双眼鏡で何度も確かめたのですがたしかに緑色をまとっているように見えます。何とも不思議です…
これは、ひょっとしたら月齢14の月明かり、または薄明の時間であることが関係しているのだろうか?という思いが頭をよぎったが、その時は月面撮影を控えていたので妖しげな緑色のスピカについてはモヤモヤとしたまま脳内フォルダへの保存となりました。

PanasonicのHPに「プルキンエ現象」についてわかりやすい解説がありました。

…ということで分かりやすく言うと「夕暮れや夜間になったときに赤い花は暗闇にかすむように暗く見えて青色の花はより明るくみえて目立つようになる現象」で「暗くなると青い光がよく見えるようになる」ことのようです。
ここで注目したいのは明所視、薄明視、暗所視における桿体と錐体の働きによる色の見え方です。
・明所視-網膜にある三種類(S・M・L)の錐体が働いて物の色がはっきり分かる状態。
・薄明視-網膜にある桿体と錐体の視細胞が同時に働いていて物の色がいくらか分かる状態。
・暗所視-主に桿体が働いていて物の明暗だけ分かる(色は分からない)状態。
ここで注目すべきは、薄明視は「網膜にある桿体と錐体の視細胞が同時に働いていて物の色がいくらか分かる状態」だが、明所視に比べて「絶対視感度(Im/W)」が最大で約2.5倍も強いという点です。
つまり目に入ってくる光のエネルギーが昼間見るよりときも約2.5倍も強い(=眩しい)ことになり、その波長が青色に寄っているということです。
そのため、暗い部屋でテレビを見たり夜に外でPC画面見たりすると桿体が作用するので明るい(錐体だけが作用している)ところで見るより2.5倍の光を吸収して目が疲れる、ということです。たしかに、惑星撮影をしているときのPC画面輝度はかなり落とさないと目が痛くなりますよね。
桿体細胞の視感度が一番高いのは波長507nmです。これは色で表すと「緑色」になりますが、桿体細胞は色を認識しないので緑色だという信号を脳に送ることはありません。
ただし、薄明視(夕暮れや月明かりがあるとき)では桿体と錐体の視細胞が同時に働いているので(薄明の明るさによって感じやすい色は変わりますが)波長が450nm~550nmの色を感じることができるということになります。
波長450nm~550nmは青色~青緑色~緑色です。なので日没後の薄明が始まると、木の葉の緑がはっきり見えるようになり、それがやがて青色にシフトして、空一面が濃い青色になって、やがて夜の空の色になっていくということです。これがプルキンエ現象です。
かの宮沢賢治は「心象スケッチ 春と修羅-風景観察官-」で林の青緑色が濃いことの表現にプルキンエ現象という言葉を用いています。さすが、科学者宮沢賢治ですね。
また、戦国時代から安土桃山時代にかけての茶人・千利休は茶室において浅葱色(あさぎいろ)の足袋を好んで身に着けていた(速水宗達(1740~1809)の「喫茶明月集」に記されている)そうですが、これは利休の理想としていた薄明視に近い状態の明るさの茶室では青色の足袋が鮮やかに浮かび上がって映える効果を認識していたからだろうと言われています。
プルキンエ現象が解明されたのは1825年ですが、その約200年前に千利休は体感的にプルキンエ現象を知っていたということなのでしょうね。

〈仮説1〉てんびん座のβ星「ズベン・エスカマリ」が緑色に見えるのは薄明の時間または月明かりがある時間のようにプルキンエ現象が発生したことが要因のひとつではないだろうか。
う~む、仮説としては言い切ってないところが何とも煮え切らないが、プルキンエ現象の影響なら全ての星が緑色にみえるのでは?という疑問もあるし、そもそも星の観望はフツーはプルキンエ効果のない薄明終了後だよね…と言う声も聞こえてきそうなので、あくまでも一つの仮説です。 (^^ゞ
実は、5月25日にこの仮説(スピカが緑色に見えたことも含めて)を検証すべく、日没直後から椅子にドッカリと座って薄明終了までじっくり観察したのですが、スピカもてんびん座のβ星も緑色に見えることはありませんでした。どして?
スピカが緑色に見えた5月22日は薄明終了前に14番目の月が出てたので薄明+月明かりだったことが5月25日と違うところですが、これが関係しているかは不明です。→調査継続中!

さて、最後に紹介するのはゴッホの「星月夜」です。

この絵はゴッホが精神療養のため入院していた修道院の窓から見えた風景を描いたといわれていますが、実際は入院していた病室からはこの村が見えないので別の場所でスケッチした村の風景を引用したか空想上の村だったのではと考えられています。
ただ、ゴッホは星や夜空に対する深い関心を持っていたので月と星と空の色はゴッホの目で見た(感じた)宇宙が描かれているのではと思っています。なにより、この色合いはプルキンエ現象を表したようにも見えるし、今回改めて見ておどろいたのは、星の周りが緑色っぽくなっているところです。
これが5月22日に見たスピカの色合いにとてもよく似ています。ひょっとしたらゴッホは緑色の星を見ていたのかもしれませんね。

〈関連ブログ〉
・みどり色に見える星のナゾ!?
・月と木星と土星の接近
とても興味深い科学的考察,面白いですね!プルキンエ現象というのは初めて聞きました。でも,かの宮沢賢治も作中使っていたとは。賢治はマニアックとしか思えない専門用語をちりばめるので,知ってる人にはそこもたまらない魅力でしょう。
さて,この日は私も月など見てたのですがスピカの色は気づきませんでした。しかし晴れスターさんは双眼鏡で拡大してもなお緑に見えたのですから,これは確かに緑に感じていたということです。ちょうど私のPCのテスクトップ画面の背景がソフトフィルターで撮ったおとめ座~からす座で,スピカの周りには薄青いにじみが写っています。この青い感じが,目の感度が移っていく段階で緑を強く感じたということですね。まあ,晴れスターさんも自分で色々突っ込んでおられるように,これから深く進んでいく考察が楽しみです。β-Libがなぜ緑と言われて久しいのかも謎解きしたいですよね!
おはようモーニングです。プルキンエ現象は桿体と錐体の相互作用による目の生理的現象?なので見えた色をカメラで写しても再現されないところが「みどり色に見える星のナゾ」検証の難しいところだと思います。
β-Libが緑色に見えることは古い時代から言われているので、そこには何か科学的な理由があると仮定して見落としているファクターは無いか様々な視点から考えてみようと思ってます。