先日の岩洞湖ではオラの長い釣り人生の中でも、記録的最悪の貧果と言う屈辱を味わっていた。
しかもそんな状況に追い打ちをかけるように、密かに孤独感と危機感をも味わっていたのである。
あまりに悪い釣況を脱するために、オラは少ない引き出し全開であれこれ無い知恵を絞っていた。
もしかして湖底にへばりついている群れがあるのではと、オモリ下に鈎を着けてみることにした。
両手をフリーにしたい状況だったので、その鈎の1本を口にくわえた。
ひょっとしたはずみに口腔に針先が引っかかった。
義歯を外して指先を入れ、その個所をまさぐってみた。
しかしその部分は思った以上に奥であることが分かっただけで外すことはできなかった。
着衣に刺さり込んではいつもオラを悩ませ、イラつかせるカエシと鋭さが売りのワカサギ鈎だ。
むやみにハリスを引いたりしては、さらに深く刺さり込み事態は悪化する。
道具箱の中を探しても鈎外しに使えそうなものは何もない。
暫く試行錯誤をしたが外すための妙案はなく、不安は徐々に膨らんでいった。
時の経過と共に事態の深刻さを悟り恐怖を覚え始めたオラ、安易につばを飲み込むこともできない。
隣のテントで快調にリールを巻き上げる釣友に助けを求めようとしたが、みっともなさが先に立つ。
行きつけの歯科医に飛び込んで処置してもらうことも考えたが、周囲の嘲笑を浴びる場面が想像できた。
そんな時、監察のおばちゃんが回ってきた。
ドカベンの岩鬼正美の葉っぱ宜しく、口からチチワの着いたハリスを覗かせたままオラは愛想よく対応。
そしてその直後、何気なしにハリスを優しく奥へ押し込んだ拍子に、奇跡的にその危険物は外れてくれた。
硬いハリスで作っておいた自作鈎であったことが功を奏した嬉しい一瞬であった。
引いてダメなら押してみよ・・・を忘れていたオラ。
かくしてオラは30分ぶりに深刻かつ恐怖の状況から解放された。
この日の頑として口を使ってくれない小石川ワカサギに代わって、オラ自身が口を使ってしまったと言う、なんとも情けないお話なのである。