昨日も一昨日も寒かった。今年は、北国ではマイナス30℃を超えた所もあるという。冬は寒いのが当たり前というけど、長い間暖冬に慣れてきた身には、この冬の寒さは少し異常性を感じたりしている。
真冬だというのに、何故か夏のオホーツク海の一日を思い起こしたりしている。旅への郷愁なのだろうか。斯様(かよう)な天邪鬼(あまのじゃく)も時には良いのではないかと思ったりしながら。
昨年の夏は、何年かぶりに枝幸(えさし)のかに祭りに行った。枝幸のことを、北海道では北見枝幸と呼ぶ。エサシとはアイヌ語では突き出した岬という意味らしい。確かに枝幸町はそのような地形にあるようだ。北海道には無数のエサシが存在するのであろう。
今日は、かに祭りのことではなく、3日ほど過ごした枝幸のウスタイベ千畳岩キャンプ場から見た、夏のオホーツク海の夜明けと青い世界の思い出を引き出してみたい。
ウスタイベ千畳岩というのは、枝幸の市街から少し北に行った所にある、海に突き出た岩の上に広がる台地で、まさに千畳といえる広さがあるといえよう。そこが無料のキャンプ場となっており、枝幸のかに祭りは、毎年このキャンプ場の横にある広場で開催されるのである。かに祭りの2日間は、広いキャンプ場はキャンピングカーなどの車で埋め尽くされ、はみ出た車は更にもう一つの広大な臨時駐車場に溢れることになる。
ここに来ると、われわれはいつも海近くの定位置に居座ることにしており、そこからは眼下にオホーツク海の広がりを見渡すことが出来る。夏のオホーツク海は、冬よりは安定した天気なのだろうけど、それでも過ごした3日間の内で、晴れた日は少なかった。その分、晴れた時間の海と空の青さが心に染み付いて離れず、いつでもそれを思い出せるのである。
オホーツクの日の出 (3時57分 7.7.2007)
7月7日というのは七夕の日なのだが、旅をしていると殆どそのような季節の行事に気づかないことが多い。去年もそうだった。その日は3時には目覚めていた。北海道の夏の夜明けは早い。3時には既に空は明るみ出し、4時前に日が昇るのである。携帯でブログの記事を書いていたら、何だか外が明るくなってきたの気づき、慌てて外を見たら、何と日の出ではないか!水平線に今まさに日が昇りだしたのである。直ぐに飛び出してカメラのシャッターを切った。急いでいたので相棒を起こすことも忘れ、せっかくのチャンスを、どうして起こしてくれないのだと、何故かその後文句を言われる破目となった。
その日の朝は快晴だった。僅かにあった雲も水平線から離れた上方にあり、日の出を遮(さえぎ)るものは何も無かった。ご来光というのは、山の上からも神秘的だが、水平線からのもまた神秘的である。その昔から、人間が太陽を神と崇(あが)める気持ちは解るような気がする。日の出を見ても、敬虔(けいけん)な気持ちを感じない人は、かなり心を病んだ人ではないかと思う。紅く染まった空と海は、やがて次第に透明感を増しながら青く、紺碧(こんぺき)なそれへと変わって行った。その日は、午後まで快晴が続き、十二分にオホーツクの海と空を堪能(たんのう)することが出来たのだった。
海辺のくらし 少し殺風景だけど、心は満たされている
私たち、というよりも自分自身のことなのだが、普段、日常の暮らしの中では、海や空を仰ぐことは滅多にない。青い色といったら、交通信号のランプくらいのものだろうか。真(まこと)に殺伐(さつばつ)とした砂漠の中に住んでいるような感じがする。ここへ来ると、下や脇を向くことを忘れて、しばし眼前の青い海と、真っ青な空を仰ぐことが出来るのである。
キャンピングカーというのは、このような大自然の中にいるのが、一番似合っているようだ。人ごみの中にうろうろ、おろおろしているのは、哀れな感じがする。北海道に来ると、たくさんの大自然がくるま旅くらしを包んでくれるのがありがたく、嬉しい。エゾニュウの向こうに広がるマリンブルーに心を染めながら、限られた夏の、ここに居るひと時を感謝せずにはいられなかった。夏のオホーツクの海辺の満ち足りた時間だった。
巨大なエゾニュウの向こうには、真っ青なオホーツクの海と空が広がる
さて、今頃のオホーツクはどうなのだろうか。流氷が押し寄せて、身動きの出来ない海に、冬は固まってしまっているのだろうか。それとも吹きすさぶ寒風に目も開けられぬほど、激しい灰色のカオスの世界となっているのであろうか。ウスタイベ千畳岩の冬の現在を私は想像することができない。
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