<第33回 登山日 2015年4月9日(木)>
先週の木曜日に登ったので、次は今週の火曜日が良いなと思っていた。最初の登山の後は、しばらく使っていなかった筋肉を酷使するので、腰や足それに膝の痛みなどが続くことになるのだけど、その痛みがまだ少し残っている5~6日後くらいに登るのが、その後の体調のことを考えるとベストなのである。それなのに、このところの天気は極めて不機嫌で、雨降りばかりが続いていた。ようやく今日木曜日は晴れるというので、何が何でも登ってやるぞと出掛けた次第。
昨日は雪交じりの冷雨が降り続いた一日だった。山のことは忘れて、寝床の中で本読みを楽しんだのだが、まさか、筑波山に雪が積もっているなどということは思いもしなかったのである。車を走らせながら、筑波山に近づくにつれて、何だか山全体が白っぽくなっているのを見て、あっ、昨日の雪が山を化粧したのだというのに気づいたのである。それでも、まあ、大したことはなかろうと、アイゼンを持参しなかった不安は押し込めることにした。
いつもの駐車場に車を置き、登山口に向かう。山から吹き下ろす風が超冷たい。既に四月になっているというのに、今までの登山の中では真冬のそれを超えた一番の寒さだった。足元にはモクレンや桜の花びらが飛散していた。顔をあげると、まだ咲きかけたばかりの桜があって、強風にもめげずにしっかり花を咲かせていた。神社の参拝路の石段付近からの見上げる女体山の頂付近は、真っ白な雪が朝日を受けて輝いているのが見えた。
筑波山神社の門前にあるご神橋下の階段付近から見上げる女体山山頂付近は真っ白な雪にけぶっていた。
筑波山神社の脇を抜けて、今日は白雲橋コースを行くことにした。少し遠回りになるけど、このコースの方が様々な形の巨岩が迎えてくれて変化があり、楽しみが多い。そう思いながら登山口近くに来ると、民家の駐車場に止めてある車の屋根に10cmほど雪が積もって凍りついているのを見て驚いた。こりゃあ、昨日はかなりの雪だったのだなと、一気に不安が膨らんだ。
登山口の鳥居を潜り、登りを開始する。足元だけを見ながら、しっかり呼吸を整える。この辺りは大して雪は積もっていなくて、ぬかるんでいるだけだった。しかし、5分ほど歩いて迎場という分岐点を過ぎると、俄然雪の量が多くなり出して、白蛇弁天というのを祀る小さな社(やしろ)の屋根には15cmを超えるにが積もり、付近の樹木は雪の重さで枝を曲げているものが何本もあった。こりゃあ、この先は大ごとだなと思った。ここからはかなりの急坂が続くのだが、いつもだと石段代わりにゴロゴロ転がっている石やむき出しの木の根がたくさんある筈なのに、それらは全く見えず、全て雪の下に埋もれており、足元の道を探すのにかなり気を使った。
全くの雪道となった登山道の様子。ここは比較的平らな場所なので、歩きやすいのだが、急斜面には吹きだまりもあり、少々難儀した。
更に30分ほど登り続ける。全くの白銀の世界となった。真冬である。いつもならば聞こえてくる筈の小鳥たちの鳴き声も全く無く、静まりかえった森の中に時々バサッ!という雪の落ちる音が耳を打つだけだった。足元の雪は樹間の道なのに15cmは軽く超えている感じで、しなだれかかる雪を被った枝を避けながらの行進となった。雪がなければ、二輪草やキクザキイチゲの見られる筈の水場近くの道端は、完全に雪に覆われていて、全く春とは思えぬ状況を呈していた。更に少し登って、ようやく弁慶茶屋跡に到着する。ここからは下方のつくば市郊外の展望が利くのだが、それよりも幾つかあるベンチの上に積もった20cm近い雪の量に驚かされた。同じ場所で休んでいた人の話では、今の時節に、こんな景色に出会うのは今まで一度も無かったと所感を述べられていた。もう相当なこの山のファンの方らしかった。
弁慶茶屋跡からは僅かに下界が眺望できるのだが、いつもならリュックを置いて汗を拭うベンチは、こんもりと雪が積もって、今日は除雪が勿体ない感じがした。
その後は巨岩群のコースとなる。先ずは弁慶七戻り、高天原、母の胎内くぐり、などを経て、陰陽石、裏面大黒と進んで、更に登って国割り石、出船・入船を過ぎる辺りから、一面は見事な樹氷の世界に一変した。先ほどまでも、枝に着いた樹氷を何度も見て来ているのだが、一味違うのである。ここは既に標高800mを超えており、昨日の寒気は、ブナなどの樹木たちに強風で雪を吹き付け、それを凍らせたらしく、様々な形の純白のサンゴの大木が、至る所に太陽の光を浴びて輝いていた。このような景色を見るのは初めてであり、少なからず興奮した。登って来た疲れなどは全く感ぜられず、とにかく思いっきりこの景観を楽しもうと、何度もカメラのシャッターを切った。北斗岩から大仏岩を経由して女体山の山頂に到着したのは8時半丁度だった。
久しぶりに見る大仏岩(女体山頂下、200m)の周辺には雪の精をまとったブナたちが、大仏様を取り囲んでいた。
山頂からの景観は、上空には青空が広がっているのだけど、目を遠方に向けると地平線は雲で覆われており、見える筈の富士山も日光や那須の山々も皆雲の中だった。まだ天候は機嫌を治し切ってはおらず、今日の今の晴れは、気まぐれサービスの天気なのだなと思った。その展望よりも、間近にある樹木たちに咲いている氷の花の方に気を取られて、千載一遇のチャンスを逃すべからずと、カメラを向け続けた。10分ほどで下山を開始する。
今日の女体山ご本殿の様子。真上は眩しい青空なのだが、遠く彼方の四方は雲が覆って、富士山も日光連山も那須の山々も見えなくて残念。
帰路は前回の御幸ヶ原コースを辿ることにした。女体山からはガマ石のある道を下って、御幸ヶ原に下りることになる。このコースは、樹氷オンパレードの感じで、様々な樹木に付着した雪と氷の塊が、世にも不思議な造形の美を存分に展開していた。途中にカタクリの里というのがあり、下の観光協会の建物には、その宣伝の幟がはためいていたけど、今はその一帯は完全に雪に埋もれており、カタクリたちにお目にかかれるのは、あと1週間近くかかるに違いないなと思った。御幸ヶ原に下りて、ケーブルカー頂上駅の脇にある休憩所で一息入れて、持参した枇杷茶を流し込む。今日初めての水分補給だった。
カタクリの里下の道から見た御幸ヶ原、ケーブルカー山頂駅の広場と男体山。男体山も樹氷の中。
男体山には上らず、直ぐに下山を開始する。こちらのコースは、下り始めの頃は足元も雪で固められてしっかりしていたのだが、次第に雪が少なくなり、ぬかるみ始め出してきた。気温が上がって樹木の枝などに積もっていた雪が溶け出したのか、滴(しずく)の落ちる音が次第に高くなり出した。登って来る人も次第に多くなってきて、交わす挨拶も忙しくなって来た。間もなく男女川源流の水場に着く。同世代男女と思しき数人の団体の皆さんが、賑やかに休憩をしていた。カタクリの話などをされているので、今日はそれは皆雪の下で、見ることは叶わないけど、それ以上に素晴らしい樹氷の世界を見られますよ、と余計な声を掛けてしまった。カタクリはいつでも見られるけど、この時節に樹氷を見るのは滅多に叶うことではない。でも、おばさん達はその価値をどう見積もるのかな、などと、どうでもいい興味心が動いたりした。
更に下って中間点近くに至り、ケーブルカーのローブを動かす回転音が聞こえ出したので、少し急ぐことにした。直ぐに到着。丁度いいタイミングだった。この登山道でケーブルカーの上下車両を一度に見られるのはこの場所しかない。前回の登山で会った人の話では、ケーブルカーの車両が新しくなったと聞いているので、それを確認する意味でも是非カメラに収めたいと思っていた。下方を覗くと小さく登って来る車両が見える。数分待つうちに見る見る大きくなった車両は「わかば」だった。同時に上方から「もみじ」が下りて来た。短い時間の間にこの両方の車両を撮るのは結構難しい。どうやら撮影は失敗した様だった。それにしても見た限りでは、新車両とはなっていないようで、表面の塗装を改めただけのように思えた。ケーブルカーを利用したのは、昨年一度だけしか無く、良く覚えていないのだが、どうもそのように見えたのだった。模様替えの塗装をしたのかもしれないけど、車両の愛称は同じだったので、何故か安堵した。
そのあとは、溶け出した雪の滴に濡れながら下山を続ける。筑波山神社脇の登山口に着いたのは、10時20分だった。ぬかるみ続きの足元に気を取られての下山は、かなり疲れた。しかし、足も膝も思ったほどショックは受けていないようだったので先ずは安堵した。駐車場に戻り、帰りの準備をする。その後は、途中買い物などをして、家に戻ったのは正午を少し回る頃だった。
今日の登山は、今まで33回のチャレンジの中で、最も印象に残るものだった。昨年も雪の中をアイゼン無しで登って、危険を感じた帰りの下山はケーブルカーとせざるを得なくなったり、或いは持参した杖を雪の中に滑落させて見失うなど、冬の時期での幾つかの失敗の思い出があったのだが、それらは小さな出来事に過ぎなかった。今日のこの思いもかけなかった樹氷オンパレードという夢幻郷の世界を体験できるとは、何と言う幸運なのだろうか。4月に入ってからの、想像をはるかに超えた出来事だった。丁度この日に登山を敢行したこと、登山の時刻も又コースの選択もベストだった様に思う。何もかもがラッキーだった。この思い出を大切にしたと思っている。
以下に今日の数々の樹氷の中から4枚ほどを掲載します
女体山山頂付近の樹氷。真っ青な空に純白の氷の花が、何とも美しい。このような筑波嶺の花を見るのは初めてだった。
「綿飴樹氷」と呼ぶのが相応しい氷の造形。強い北西風が相当長い時間を掛けてこのような不思議を作りだしたのだと思う。
太陽を取り込む樹氷林。純白の樹氷たちも、取り込んだ太陽の光には、その正体を見透かされてしまっているよな気がした。
巨大な白いサンゴ樹。巨木のブナも今日はサンゴと化して青空に聳えていた。今日の代表的な樹氷の姿である。
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