山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

熊出没注意

2010-06-28 04:56:28 | くるま旅くらしの話

先日群馬県はみなかみ町にある道の駅、「たくみの里」を訪ねた時の話です。みなかみといえば、水上と書くのが今までの町名だったのですが、平成の大合併で、水上町は隣接の月夜野町、新治村と合併して、新しいひらがな名の「みなかみ町」となりました。たくみの里は、旧新治村にあります。冬には冠雪の谷川岳を間近に見ることができる山国にあるといっていい所です。この道の駅は、その昔の三国街道の須川という宿場町があった所で、現在の国道17号線からは、少し外れて中に入りますが、宿場町全体が道の駅とつながって、様々な土地の農産物・園芸品や伝統工芸品などが、体験施設などを伴って紹介・販売されており、なかなか特徴のある場所となっています。人気のある道の駅の一つでもあり、観光バスなども頻繁にやってくるようです。この道の駅が気に入っていて、時々訪ねるようになりました。今回も何か獲物はないかと立ち寄り、一晩ご厄介になったのですが、生憎の雨で、残念ながら目ぼしい物はありませんでしたが、静かな山里の風情を楽しむことができ、大満足でした。

ところで、この道の駅に向かう途中の坂道の脇に「熊出没注意」の看板を見つけて、少なからず驚きました。えーっ、このように車や人の通りの多い場所に熊が出たの!と、信じられない状況でした。「熊出没注意」の警告注意の看板は、北海道ならば、山道に入ればどこに行っても普通に見かけることが多いのですが、内地の、しかも関東エリアにおいてこの看板を見たのは初めてのことでした。

この「熊出没注意」という看板は、どのような基準で掲出されるのかご存知でしょうか?噂話があったとか、推定で危ないと考えた時に看板を出すのでしょうか。実は私も一昨年の北海道で危うく熊さんたちに出会いそうになって、歩きの帰りを知り合いのキャンプ場の方に車で自車まで送っていただいたことがあり、その時初めて看板の意味を知ったのです。その時のキャンプ場の管理人をされていた方の話によれば、「熊出没注意」の看板は、実際に熊が出没した証拠があった時に掲出されるのだそうです。証拠というのは、勿論実際に見かけた場合や、糞などが発見された時などで、明確に熊が付近で活動していると判断された場合なのです。ですから、この看板を安易に考えるととんでもないことになります。いわば熊が居たことの実績に基づいて掲出されているのですから、事故や災害に遭わないためにも、危うきには近寄らずの心がけが大切です。

   

国道17号線から、道の駅:たくみの里に向かう途中の坂道の脇に建てられていた、「熊出没注意」の危険・警告の看板。この付近に熊がいたことを証明していると理解し、本気での注意が必要。

しかしまあ、この道の駅近くの看板掲出の場所は、全く予想外のエリアでした。人家も結構多く、車も日中はかなり頻繁に行き交っているのに、どうしてこんな所に出没するのかと、不思議な感じがしました。熊さんの方が、ニコニコして挨拶に来られるのなら良いのですが、人間の思いとは違って、野生の熊たちは、さん付けで呼ばれるほど甘い存在ではありません。出て来る理由はただ一つ、人間に対する恐怖すらも乗り越えて、いわば危険の掟を破ってまでも来なければならないのは、生死に係わる飢えを凌ぐためなのです。ニコニコなどしているわけがありません。だから危険なのです。

このエリアに現れる熊は、ツキノワグマで、これは本州と四国にしか棲息していないとのことです。九州には熊は居らず、北海道の熊はヒグマという種類です。ツキノワグマは、その名の由来は、真っ黒い身体の喉の部分に三日月形の白い毛があるということからのようですが、これは個体によって差があり、そのような印が無いものもいるとのことです。体長は110~150cm、体重が40~150kg程度といいますから、それほど大きい動物ともいえないようですが、しかし体重が100kg前後となれば、これはもうその野生のパワーは人間を凌ぐことは間違いないことでしょう。こんな奴に出合ってしまったら、無事で済む筈がありません。黙って引っ込んで逃げてくれれば良いですが、立ち向かってくる可能性も大だと思います。とにかく要注意です。

何年か前、熊の生態調査やイヌワシの観察などを行なっておられるIさんに、鳥取県の旅先で出会って、いろいろと興味ある話をお伺いしたことがありますが、その時も山陰エリアでの熊による事故が何度かニュースになっていました。Iさんによれば、これらの主原因は殆どが人間サイドにあるというお話でした。人間の自然破壊(これを人間は開発という名で正当化していますが)行為が、彼らを山奥に追い詰め、更なる天候不順が木の実などの稔りを損なわせる飢饉となり、命をつなぐために餌を求めて山里の人間世界にやってくるのだとのこと。又人間は飽食の果てにゴミを山中に投棄し、これが彼らを人間の世界に引き出す要因の一つにもなっているとのことです。いわば、事故の加害者である熊の方こそ、もっと大きな意味で被害者そのものであるという話でした。

このような話を伺って、熊に対する誤った認識に気づき、これからは姿勢を改めなければならないなと反省したのを思い起こします。現在ツキノワグマが何頭棲息するかは不明だそうですが、4~5年前の調査では、1万頭前後だったということですから、それを上回ることはないと思われ、やがては彼たちも朱鷺と同じように絶滅危惧種となってしまうのかも知れません。

とんでもない場所で危険・警告の看板を見て、改めて人間と野生動物たちの関係の難しさを思ったのでした。

コメント
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