山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

九州・山陰他エリアくるま旅でこぼこ日記:第8日

2010-04-12 01:14:15 | くるま旅くらしの話

〔これは6年前の記録です〕 

第8日:11月24日(水)

行程:日向市:お船出の湯 ~ 道の駅:青雲橋 ~ 道の駅:高千穂 ~ 神楽奉納:高千穂町黒口集落研修所(終夜見学)〔泊〕       <106km>

6時半起床。よく眠れて気分がいい。今日もよい天気なのだが、残念なことに海面はかなりの高さまで水平線上に雲があり、日の出の写真は諦めるしかない。広い駐車場には我々の他1台の車があるのみ。近くの林間にツワ蕗がたくさんあり、今日も澄んだ黄色の花を咲かせている。どうしても家に連れて帰りたくなって、2、3本採らせて貰った。ビニールに包んで濡れ新聞に包んでおけば大丈夫だと勝手に決める。持ち帰って庭の隅に植えるつもり。このようにして山のお花畑は荒らされてゆくのかなどと、少し後ろめたさも感ずるが、ツワ蕗ならば許されるのではないか。高山植物なら絶対にしないことなのだが。

今日は高千穂へ行くことにした。27日に元勤務していた会社の保養所がある湯布院へ行くことが決まっているので、それまでの間は高千穂などでゆっくりしたいと考えた次第。高千穂はその昔一度行ったきりで、どうだったかもあまりよく覚えていない。神話や伝説の里でもあり、神楽などの盛んな地方でもある。今回はそれらをじっくり訪ねてみたいと思っている。

延岡からR10を左折してR218へ。この道はその名も神話街道というらしい。高千穂峡につながる五カ瀬川沿いの道を進むと、やがて道は川から離れて次第に高さを増し、川は下方に細く見えるようになっていった。川沿いに鉄道が走っているのも見える。終点が高千穂駅で、この線を高千穂鉄道というらしい。詳しいことはよく分からないが、鉄橋やトンネルがたくさんあって、鉄道の旅人には憧れの一つなのかもしれない。暫く走って道の駅青雲橋というところで小休止。かなりの山の中だ。日之影川という五ヶ瀬川の支流に架かる橋の名が青雲橋というらしい。その橋の袂につくられた道の駅だった。

高千穂の道の駅には12時少し過ぎに到着。ここを基点に2、3日ゆっくりする予定。駅構内に観光案内所があり、そこで夜神楽の予定などを聞いてみた。神楽は邦子どのの昔からの関心事である。拓の方はそれほどでもないが、高千穂に来ればやはり本物の夜神楽とやらを見てみたいという考えはある。聞くと、丁度最近神楽が始まったばかりで、今日は一つだけ黒口という集落で奉納されるという。さっそく行って見ることにした。案内図を貰って、直ぐに出発。神楽の始まりは16時頃からだというが、道に迷いながら我々が到着したのは13時少し過ぎたばかり。開始には随分と時間前だが、駐車場が少ないので早く来てよかった。先ずは昼食。拓はその後一杯やって午睡。邦子どのが何をしていたのかは知らない。いずれにしても今日はここで一夜を過ごすことになるのだから、眠っておくことは大切だという考えである。

さて、ここから先は翌日の夜明け7時過ぎまで神楽の舞いは続いた次第であり、それらを逐次書くのは大変なこと。拓は3時頃まで見学の記録を書き続けたが、ついに寒さと睡魔の誘惑に負けて車に戻ってしまった。邦子どのが最後まで見続けたのには少々驚いた。昼寝もせずに寒さも忘れて頑張れるのは、やはり並々ならぬ関心事だからなのであろう。少しは見直してもいいか。

神楽のことは初めてのことでもありよく分からない。そもそも神楽というのは何なのであろうか。午睡から醒めると、邦子どのが何やら神楽についての立派なプリント資料を貰ってきていた。この町の歴史民俗資料館の学芸員の方から頂いた資料だとか。とても読む気になれないほどの膨大な厚さの高千穂神楽に関する本格的な論文だった。福島明子という方が書かれたものである。拓には、それをここに書けるほどの力は無いので難しい話は止める。要すれば高千穂の夜神楽とは、代々集落の人たちが氏神様に対して今年の実りの御礼と来年の豊穣を願って自分たちの気持ちを伝えるために、この高千穂の地に伝わる神々の天岩戸の伝説を中心とする寸劇を、舞という形で表現して神前に奉納する儀式のようだ。この様な書き方は些か問題があるかもしれないが、拓のレベルで簡単にいえば神楽とは、つまりはそのようなものではないかという理解である。

学芸員のOさんの解説などから分かった主なことといえば、

①神楽というのは踊りではなく「舞い」である。踊りと言ってはいけない。

②舞い手がつける面を「オモテサマ」と呼び、面(めん)といってはいけない。

③奉納される舞いは、全部で33番ある。舞の順序は初めと終わりのいくつかは決まっているが、そのほかは集落やその時々によって異なること。

④舞いの音曲は太鼓と横笛と鈴だけであること。それから舞いは男中心であり、女は舞い手にはなれないこと。(すなわち女人禁制) 

⑤舞の舞台は基本的に注連縄の張り巡らされた2間四方の座敷(内注連)で行われること。舞によっては外の場所で行われるものもある。

夕方16時ごろ集落の氏神様を、神主や氏子代表たちなど衣装を整えた人たちが迎えに出かける。やがて笛や太鼓の音を鳴り響かせながら小さな神輿に担がれたご神体がやって来た。何と今頃の神様は軽トラに乗ってやって来るのだ。その中に鎮座しているご神体は、何か陶器のようなものでつくられているようだった。そのあといろいろな儀式があって、我々も集落の皆さんと一緒に中に入って神主のお払いなどを受けた。何しろご神前に一封を奉納させて頂いたので、壁に拓の名前を書いた奉書が張り出されている。祭りに金一封などを寄付すると名前を貼り出されるあれと同じようなものだが、拓としては初めてのことなので記念にそれらをカメラに収めた。

     

集落の守り神様(=氏神様)が、神主や村の役員の方たちと一緒に、神輿に担がれて神楽の奉納される会場へと向かう。途中までは軽トラに乗ってやってきた。

   

神様のご本体は小さなお姿で、陶器の様なものでつくられていた。真に質素な感じのする、しかしどこか気品のあるものだった。

18時15分、いよいよ舞が開始となった。最初の舞は彦舞というのだそうな。彦というのは神様たちが天から降りてこられる時に道案内を務めるという猿田彦大神のことをいうとのこと。天狗のような魁偉なオモテサマをつけた舞であった。これが明日の朝まで続く長い夜神楽の始まりであった。

   

神楽の舞で使われるオモテ様の数々。題目によっていろいろな形で使い分けられている。   

次々と舞が続く。拓はそれらを一々メモしながら鑑賞していたのだが、それが可能だったのは、3時近くまでだった。前記の通りである。神楽というこの素朴な舞の音曲は、僅かに太鼓と笛とそして舞手が手に持つ鈴だけである。しかも見ていると、限られた人たちでそれらの全てが上演されており、出演者は殆どの人がオールマイティのようだった。すなわち、舞だけではなく笛も吹くし、太鼓も叩くのである。集会所の中はかなりかなり冷え込みがきついのだが、舞手たちは皆大汗をかきながらの熱演であった。きっと皆神楽が大好きで、この時が来るのを待ちかねていたのではないか。もし自分がこの土地に生まれたら、さてどうなのか、この人たちと同じようにやっぱり神楽に入れ込むのではないかなどと、踊りの類の苦手な拓も人並みな感興に打たれたりしていた。

     

演目は忘れてしまったけれど、きらびやかな衣装をまとっての舞の一つだった。

零時には少し間がある頃、小用を兼ねて外へ出てみると、天空に月が輝き、その周辺にオリオンややカシオペア座の星などがいつもの数倍の大きさで輝いていた。冬に近いはずなのに、それほどの寒さを感じないのは、神楽の熱気のせいだけではなく、やはり今までの暖かさの続いた今年の異常気候の所為なのであろうか。この神楽の里は、霧の名所でもあるとか。これから明け方に向けて五ヶ瀬川に注ぐ幾つかの細い支流が霧を生み出し、里全体を包んで行くのかもしれない。

   

数ある舞の中でも人気のある「ご神体」という演目の舞の一場面。この演目は、後で見た高千穂神社の観光用の上演にも登場していた。

そしてその霧は3時過ぎ車に戻る時には、まさにその通りの世界が展開していた。里を囲む峰々の黒い頂を残して、真っ白な川霧が地面から湧きあがり、神楽の灯りを朧にしながら、空に向かって広がっていた。まさに夢幻という光景である。この光景がもう何百年も続いているのであろうか。その広がり行く白い霧は、まさに里に鎮座する神々を包む棉のような気がした。下手な句を詠む。

夜神楽の里は眠らず霧の中  馬骨

3時過ぎ邦子どのを置いて拓は車に戻り仮眠へ。朝7時過ぎ目覚めると、既に神楽は終わってしまったらしい。邦子どのの話し声が聞こえてきた。一眠りすれば目覚めて最後の舞を見られるのではないかと思っていたのだが、油断が過ぎたようである。残念。車の外へ出てみると、霧が晴れかけていた。今旭日が昇るところらしく、僅かに色づいた空が白い霧の帯の上に澄んで輝いていた。如何にも神楽の里の夜明けという感じである。

   

真に幻想的な霧の里の夜明けの風景。この写真は邦子どのが撮ったもので、今回の旅の中では最も印象的な一枚となった。

邦子どのはオートバイでやって来た舞手の一人と何か話していたようだったが、後で聞くと雲海の上に輝く日の出を見るのなら、近くに「国見が丘」という所があるので、そこへ行くといいと教えて貰ったとのこと。今日は時既に遅し。明日にでも行ってみたいなと思った。

コメント
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