新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

原田マハ『暗幕のゲルニカ』

2018年11月25日 | 本・新聞小説

単行本『暗幕のゲルニカ』がやっと文庫本になったので早速購入しました。
森ビル森美術館設立に携わり、ニューヨーク近代美術館勤務の経験を持つ原田マハさんならではの力量と知識が満杯の小説です。

2001年9月の衝撃の同時多発テロ、その報復とも言えるアメリカのイラク攻撃。パウエル国務は国連安全保障理事会でイラクを糾弾します。彼がそのロビーで記者会見した時に後方の壁に掛けられた「ゲルニカ」には暗幕が掛けられていました。「なぜ?誰が指示した?」。それがマハさんがこの本を書く契機になったのです。



主人公八神瑤子は子供の頃「ゲルニカ」を見た体験がもとで今ではMoMAのキュレーター。婚約指輪の代わりにピカソのハトのドローイングを送った夫はアメリカ人。その夫が前触れもなく突然に貿易センタービルのテロに巻き込まれました。アメリカはイラクへの報復に踏み出します。憎しみに憎しみが・・・。

そんな時にMoMAはアートの力で平和を訴えるべくピカソ展を企画し、「ゲルニカ」の展示をめぐって瑤子が行動を起こしスペインを往復します。それが目次の2001~2003年。
そのゲルニカを描いたパリ在住のピカソと愛人ドラ・マールの生活とヒトラーも参加しての故郷スペインの内戦が交錯します。「ゲルニカ」完成までの準備と制作過程、苦悩と曲折がドラ・マールの語りで事細かに説明されています。それが目次の1937年~1945年。

この二つの時代の話が並行して進み、ここがマハさんの上手さです。この二つの時代をつなぐのが「ゲルニカ」であり、その絵を守るべく奔走するスペインの若き資産家パルドです。
マハさんのアート小説には欧米の大富豪が絵のコレクターとして文化人としてたびたび登場し、読者を夢に誘う要素にもなっています。
「ゲルニカ」を狙うのは大戦中はヒトラー、終戦後はスペイン本国やゲルニカ爆撃を受けたバスク地方に発生したテロ集団。
瑤子はこのテロ集団に拉致され一時は生命の危険にさらされますが、ロックフェラーやパルドの尽力で「ゲルニカ」を無事里帰りさせて国連に飾ることができました。

瑤子がバスクのテロ集団に襲われた時、その中のひとりの女性がピカソのハトの絵を持っていたことから、ピカソの別れた愛人ドラ・マールの孫娘だったことが分かります。ちょっと作為的な不自然さを感じ、そこは無かった方がよかったかな・・・とは私の感想です。

スタートから最後までハトの絵を登場させたことは、ピカソとマハさんの思い「平和」を伝えたかったのでしょうか。

MoMAの内部に精通したマハさんの豊富な知識がしなやかでメリハリのあるストーリーになっていて、誰が実在で何が創作か分からなくなり何度も検索、検索、検索。


ピカソは「ゲルニカ」をパリ万博のスペイン館に展示するために速乾性のある工業用ペンキを使いひと月で仕上げました。そのために劣化が進むそうで、貸し出しを禁じた今はソフィア芸術センターに厳重に保管されています。
私もマドリッドでこの絵を見ました。内容は図録で見ていた通りですが、先ず3.5m×7.7mの巨大さに驚き、そしてモノクロのインパクトの強さに衝撃を受けました。


貿易センタービル、MoMA、「ゲルニカ」のあるスペインのソフィア美術館、の3拠点をめぐるストーリーの展開は、その場所を訪れた事があるだけに映像の如く鮮明に映し出され、ドラマのように楽しみました。


コメント    この記事についてブログを書く
« 便利!「ジャンボタクシー」... | トップ | ふるさと納税 »