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1日5000人の学生が集まる明治大学図書館

『あの明治大学が、なぜ女子高生が選ぶNo.1になったのか?』より

 1日5000人の学生が集まる図書館

  こうした一連の取り組みのベースにあるのが、「学生目線」だ。土屋学長がインタビューで語っていた「すべては学生のため」を貫いてきたのである。だからこそ、一連の変革は可能になったのだともいえる。

  その象徴ともいえる存在が、和泉キャンパスにある。2007年度の終わりに計画され、2012年に開館し、全国の大学関係者からの見学が絶えない「和泉図書館」だ。徹底的な学生目線に立つことによって、大学図書館としての「あり方」を大きく変えてしまった。

  実際、いまの大学図書館はこんなにすごいのか、と驚かされてしまった。4階建て、約8800平米の図書館は、日本図書館協会建築賞、東京建築賞など、たくさんの賞を受賞している。

  約1万人が学生生活を過ごす和泉キャンパスだが、入館者数は実に1日5000人ほどになるという。試験期ともなれば、7000人を超えることもあるのだそうだ。図書館では、ノートPCを無料で借りることができる。

  実際、図書館の入り口に立っていると、学生がひっきりなしに入っていく。恥ずかしながら私など、大学時代に大学の図書館にほとんど行ったことがなかった。ところが、当たり前のように学生が図書館に入っていくのだ。明治大学の職員で学術・社会連携部和泉図書館事務長の折戸晶子氏は言う。

   「本を借りに来たり、資料を調べに来たり、勉強するために図書館を利用している学生はもちろん多いですが、そもそも居場所になっているんです。キャンパスの中に、居場所になる、いい場所がなかった。そこで、図書館を学生の居場所にしたかったんです」

  キャンパスに入って右手に図書館はあるが、全国から見学者が来る、というほどに外観にインパクトがあるわけではない。しかし、これもあえて狙ったことだったのだという。

   「カッコ良すぎてもダメ、貧弱でもダメ。高校から明治大学に入ってきたばかりの学生の目線に合った建物にしたかったんです」

  だからこそ、ひとつ、図書館の建て替えにあたって特徴的なことがあった。〝普通の図書館〟をつくる気はさらさらなかった。大学側の意向をよくわかってつくってくれる業者を選定したのだ。

   「誰が利用者なのか、という利用者に合わせた建物づくりにこだわりました。それは学生です。では、明治大学の学生を一番よく知っているのは誰か。職員である私だちなんです。そこで、私たちが感じていることと、設計会社の素敵なデザインをバランスよく融合しながら、つくっていったんです」

  2008年に建設委員会がつくられ、14ヵ月の設計期間と18ヵ月の工事期間を経て完成した新しい図書館は、以前とはまったく違ったものになった。

   「老朽化など、いろいろな理由はありますが、端的にいえば、いまの学習環境にそぐわなかったんです。昔の図書館は、いわゆる平たい机があって、椅子があって、本が並んでいるだけ、でした」

  明治大学の職員がっくりたかったのは、もっと学生が主体的に学べるような、学生たちがワクワクするような、そんな学習空間だった。

   「そうでないと、明治大学の学生は勉強しないんじやないか、と。でもいまは本当に学生さんがよく来てくれます。明治の学生は、よく勉強しますよ」

 いまの大学図書館はこんなにすごいのか!

  工夫は随所に散りばめられている。エントランスをガラス張りにすることで、明るく、入りやすい建物になっている。入り口の上は吹き抜けになっていて、空間の広がりが感じられる。全体の見晴らしがよく、奥まで見通せるのも、学生には入りやすさにつながる。

  ICの入った学生証でゲートを通ると、まず右手にあるのが、カウンター。

   「入ってすぐにカウンターがあって、人がいると安心できますよね」

  カウンターの裏手に事務室があるが、壁で仕切られずにガラスになっている。中からも、学生の様子が見られるように、という考え方からだ。

   「カウンターでの対応で、もし人数が足りなければ、すぐに応援に入ります」

  入ってすぐ、見上げて吹き抜けスペースの上に見えるのは、やはりガラスの向こうにいる大勢の学生たちがカラフルなインテリアに囲まれて会話している姿だ。

   「いまの学生には、1人で静かに勉強できる空間と、学生がコミュニケーションしたり、ディスカッションしたりする空間。2つの要素が必要なんです。だからこの図書館は、入り口から離れるほど静かな空間になるようつくられています。1階もエントランスは賑やかですが、奥に行くにつれて緩やかに音が静かになっていくよう設計されています。ソーニングを強く意識しているということです」

  実際、1階は奥に行くほど静かだ。そして2階、3階、4階と階を重ねるごとに、さらに静かなフロアになっていく。音が広がりそうな場所は、すべて二重ドアになっている。特に、「静かに」といった貼り紙が貼られているわけではない。勝手に静かになっているのだ。思わず、だんだん静かにしてしまうようなつくりになっているのである。

  そして入り口に近いコミュニケーションやディスカッションのゾーンでは、学生たちが賑やかに談笑したりしている。プロジェクターが完備された会議室のようなスペースが用意されており、予約すると学生たちはミーティングやディスカッションの場として使える。

  ちょうど、4人の2年生が部屋でミーティングをしていたので声をかけてみたら、情報コミュニケーション学部の次の授業でチームによるプレゼンテーションがあるのだという。そのための準備を、チームで行っていたのだ。

  パワーポイントを映し出せたり、より本番に近い感じで使えるので、活用しているという。授業の合間には、1人で勉強に来ることもあるそうだ。

  3、4階はじっくり勉強するスペース。直射日光ができるだけ入らないよう、ルーバーで日光を拡散させ、ほのかな日光が入るようになっている。

  居心地のいい空間をつくるためのライトの使い方にもこだわった。蛍光灯が使われているのは、書架の天板の上のライトとリーディングの下向きのライトだけ。天板の上のアッパーフイトで上を照らし、それが跳ね返ってきて空間全体をほんのり明るくしている。

  インテリアも、ホップな家具が置かれた1、2階から階を上がるごとにだんだんシックなものに変わっていく。中には、オリジナル設計のデスクもあるという。

  1人用の閲覧席にはきちんとパーテーションが設けられている。

   「実は上層階に行くほど、インテリアは四角くなっているんです。もしかすると、四角い形は、なんとなくここは静かなところだよ、と視覚でメッセージできているのかもしれません」

  2階から4階にかけての突き当たりには、積層集密書庫がある。ガラス張りにして、中の本が見えるようになっている。

   「昔の図書館では、この書庫は地下にあったんです。学生さんはなかなか地下に本があることは気づかないんですね。見学ツアーに連れて行ったりすると、こんなにたくさん本があるのか、と驚かれていて。そんな話を設計者にすると、じゃあこれはガラス張りにしたら、というアイディアが出てきたんです」

  ユニークなのは、図書館内がアシンメトリーになっていることだ。左右対称ではないのである。各フロアの書庫も、建物正面から見ると斜めに配置されている。だから、歩くと背表紙が目に入ってきて、本を探しやすい。これは、建物の形が偶然、そうさせたのだという。

  2階の奥には、戦前の文芸書の初版本など、貴重な本が保管されていた。学生も見ることができるという。

  現在の蔵書は35万冊。60万冊までは収容できるようになっている。館内はメールはOKだが、通話は禁止。なので、通話をするときのためのボックスがつくられていた。電卓を使って勉強をする学生用の部屋も別に用意されていた。

  コミュニケーションができるスペースを除いては、館内はとても静かで快適だった。本を読むためのものだろう。ゆったり座れる椅子も、いろいろな形のものが置かれていたが、ぐっすり眠り込んでいる学生もいた。光の加減といい、空調といい、静けさといい、ちょっと昼寝して休憩するのも、最適な場所になるのだ。

  もちろん勉強する場として、友達とコミュニケーションしたり、グループで討議したりするには、とてもいい環境だ。学生がひっきりなしに訪れるのも、合点がいく。

  開館は午前8時30分。閉館は夜10時。都市型大学だけに、この時間帯まで開館しているのだという。ちなみに、受験生の見学でも、この図書館はとても注目度が高いのだそうだ。

  和泉図書館ができて、実は多くの大学が図書館のリニューアルプロジェクトに乗り出した。これは図書館に限らずだが、明治大学はとにかくいろいろな大学にベンチマークされている。これぞ、というものはパクられるのだ。しかし、意に介している様子はない。もとより、積極的に情報を公開している。図書館も、もっといいものをどんどんつくっていってほしい、という。

   「大事なことは、誰のための図書館なのか、ということなんです。もし、駿河台に図書館をつくるなら、こうはならなかったと思います。3、4年生が過ごすキャンパスですから。ここは、文系の1、2年生が過ごす和泉キャンパスだから、こうなったんですね。その意味では、真似ることに意味はないんです。そういう話もよくします」

   とにかく利用者目線に立つ。和泉キャンパスの学生目線に立つ。こうして、驚きの図書館は、できあがったのである。
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