goo

知的財産権 私的独占

『経済法』より 知的財産権と独占禁止法違反行為

JASRAC事件

 音楽著作権団体の音楽著作権の使用料金の決定方法が、新規参入者を排除する効果をもつとして私的独占の排除に問責された例がある。

 JASRACの料金は、音楽ューザーであるラジオ、テレビ放送事業者の収入に一定率、例えば1.5%を乗じる方法で算定して徴収していた。これは音楽の実際の放送回数が反映されない料金制度(「包括徴収」制度)である。公正取引委員会は, JASRACの料金の決定方法が、音楽ューザーが放送回数を減らしJASRACに支払う料金を節約して他の音楽著作権団体が管理する楽曲を使うというインセンティブを殺いでいるから、私的独占の排除に該当するとして、これを取りやめる排除措置命令を出した。

 JASRACはこれを不服として審判を請求した。公取委は、排除効果があることの実質的証拠がないとして、自らの排除措置命令を取り消す審決を下した。これに対し、審決の名宛人でないイーライセンスが、公取委の事実認定には誤りがあるとして東京高裁に審決取消訴訟を提起した。東京高裁は、イーライセンスの原告適格を認めた上、排除効果があることを示す証拠はあるとしてイーライセンスの主張を認め、公取委の審決を取り消す判決を下した。

 公取委は、上告受理の申請を行い、受理されたが、最高裁は、JSRACの行為は「排除性」があるとし、特段の事情がない限り、通常の競争手段の範囲を逸脱するとみとめられるので、2条5項の「排除」に当たるとして、公取委の請求を棄却した。現在、本件は、公取委で再び審理中である。この問題は, JSARACとイーライセンスの審判手続外の交渉で解決される可能性があり、その場合、この審判は違法宣言審決となるにとどまり、特段の措置はとられないであろう。

ぱちんこ機メーカー(特許プール)事件

 複数の事業者の特許権を共同で特定の事業者に管理委託する方式が濫用された事件がある〔ぱちんこ機メーカー事件〕。ぱちんこ機メーカー10社は、日本遊戯機特許運営連盟と共謀して、ぱちんこ機製造業の分野への新規参入を妨害する目的で、10社を含む工業組合の組合員以外の事業者には特許ライセンスを与えないとする排他的な管理を実施した。それが10社と連盟の通謀による排除行為として、私的独占に問われた。

 「権利の行使と認められる行為」(独禁法21条)は、個々の単独の特許権者のみが行うことができる。特許権者が特許プールを組織し集積した特許権に基づいて行う共同の意思による権利の行使は、外形上または形式的には権利の行使であっても、権利の行使の実質をもたない。「排除」行為とされるのを避けるために、なんらかの開放性が確保されなければならない。

 特許プールは、同一業界に複数存在し、その間で、特許の集積競争、ライセンスの競争、さらに研究開発競争を含む競争が行われていることが望ましいだろう。

その他の排除行為

 「排除」行為には、違法な計画の一部に知的財産権を流用する行為も含まれる。都立病院の病院用のベッドの仕様入札に、事情に疎い入札担当者に働きかけて自己が実用新案権をもっベッドの仕様を指定させて、他社を入札参加できなくした例がある〔パラマウントベッド事件〕。新しい新聞社が自己の地域に進出するのを阻止するための一連の排除行為の一部として、進出者が使用する可能性のある複数の商標を先んじて商標権出願した例〔北海道新聞社事件〕がある。

検索エンジン等における双方向市場の独占化

 悪手と買手の間にたち、取引を媒介するアマゾンや楽天のような電子商取引の事業者は、デジタル・プラットフォーム(以下、単に「プラットフォーム」とする)といわれる。プラットフォーム事業は、売手を買手に仲介をする事業と、買手を売手に仲介をする事業を接続させるので、それらは双方向市場(もしくは2面市場)といわれる。双方向市場においては、概して、買手側の参加者が増加すれば、売手側の参加者も増え、逆に、売手側の参加者が増えれば、買手側の参加者も増えるという効果が発生しうる(いわゆる「ネットワーク効果」)。そのことから、プラットフォーム事業は、一般に、急速に独占を形成する傾向が認められる。 LineやFacebookのようなソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)は、ユーザーの数が多いことがューザーに大きな効用をもたらすので、このような効果は顕著である。

 検索エンジンも、検索連動型広告により、広告主と買手をつなぐことから、双方向市場のプラットフォームの1つであるが、GoogleやYahooのような検索エンジンが独占傾向をもつのは、直接には、検索技術の卓越性によるものであろう。ユーザーの数が多いのはその結果である。そしてユ-ザーの数の多さが検索連動型広告事業において成功を生み出している。

デジタル・プラットフォームにおける排除行為

 プラットフォーム事業は、ユーザーが増えても、サービスを提供するのに追加的費用がかからないことが多い(経済学に言う「限界費用ゼロ」)。そこで、一方の市場でサービス料を無償としてユーザーを増やし、プラットフォームのユーザー規模を大きくすれば、他方の市場の様々なサービス業者が高い料金を支払ってもプラットフォームに加盟することが期待できる。ユーザーを獲得するための競争は激しく、独占企業でも厳しい競争にさらされる。そのプロセスで破綻し、他の企業に買収される独占企業も少なくない。

 無償で提供される検索サービスは、独禁法上の不当廉売に該当するとはされない。双方向市場の一方でサービスを無償としても、他方の市場で利益を得ており、これは不合理な競争行為ではないとみなされる。無償サービスに、ポイント制を付加して、限界費用以下でサービスを提供する行為もある。このような行為が排除効果をもつとしても、「正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性」を有するかの否かの判定は難しく、独禁法が過剰な規制とならないような配慮が求められる。

 そのようななかで、競争当局は、支配的な検索エンジンが独占力を濫用した疑いのある行為に対しては、独禁法の積極的な適用を行っている。欧州委員会は, Googleが、商品・サービスの価格比較サイトの検索結果の表示順位において, Google系のサイトを上位に表示させるプログラムを組んでいるという疑いで、市場支配的地位の濫用の調査を始めている。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« ポーランド 絶... OCR 化した13冊 »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。