『大学4年間の社会学が10時間で学べる』より
社会に走る見えない線引き
1章で見たように、〈社会〉は個人をその構成要素としています。そして、個人が相互作用したり、あるいは集合体を作ったりすることで成り立っています。同時に〈社会〉は政治の世界、経済の世界、教育・学校の世界、親族家族の世界など、複数の領域からできあがっています。それらの領域は互いに重なっており、とても複雑です。
社会学では、そのような〈社会〉を維持するために何か必要か、そして、社会の維持を担う集団や制度は何かを明らかにしようという観点から、〈社会〉の線引きを行います。〈社会〉を存続させるには、生産と再生産を維持し続けなければなりません。ここで言う生産とは、労働によって衣食住に必要な物資を作り出すことを意味します。他方の再生産とは、生産を担う労働者を生み出したり(出産・育児)、エネルギーの摂取や休息を通して労働力の回復を目的とする活動(家事労働)を指します。
前者のような領域を生産領域あるいは公的領域と呼び、後者の再生産を担う世界を再生産領域または私的領域と呼びます。
近代社会の特徴は、生産と再生産の世界を明確に区別し、前者を資本主義制度、後者を家父長制家族としての近代家族とした点にあります。昔の商家や農家であれば、家族は現代と同じく再生産の場であると同時に、家族全員が労働者となって生業を支える生産の場でもありました。しかし、資本主義経済の発達とともに両者は分離し、再生産・私的領域としての近代家族が形成されます。本章では生産から切り離された家族(近代家族)の歴史と特徴について学んでいきましょう。
私たちの家族は特別
近代家族とはどのような家族のことを言うのでしょうか。私たちが家族に対して抱いているイメージを少しあげてみましょう。「男女が恋に落ちて結婚し家庭を作り、子どもが誕生する」「家族は職場とは切り離され、プライバシーで守られている」「家族は強い愛情で結ばれており、その主役は子ど乱父が主にお金を稼ぎ、母が家事を担う」などが一般的なところではないでしょうか。
およそこうした三つの特徴を持つ家族のことを、社会学では時代区分にしたがって近代家族と呼びます。最近の研究によると、都市の中産階級を中心にこうした近代家族の風景が完成するのは、欧米では1920~30年代、日本では1950~60年代だと言われています。
近代家族の特徴の一つ、恋愛結婚を例に考えてみましょう。右の図を見てください。日本の場合、いわゆる恋愛結婚の割合が見合い結婚の割合を上回るのは1960年代後半です。それ以前の社会では、愛し合って結婚するというより、紹介されて結婚するのがごく一般的でした。これは一つの事例にしか過ぎませんが、家族や愛のカタチも、それぞれの時代の社会の中でその姿を大きく変えていることが理解できると思います。
1章では、社会学では個人の思考、心理(動機)、嗜好を〈社会〉が生み出す現象として捉えると紹介しました。社会学を理解するうえでもう一つ大切なことは、その〈社会〉は時代(歴史)によって変化するということです。
男性と女性の役割はなぜ違う?
右の図を見てください。この図は近代家族の特徴である性別役割分業を典型的に表すと言われます。
私たちの社会が存続していくためには、二つの活動が必要だと述べました。一つは、生存に必要な食料・物資を調達する活動(生産)です。もう一一つは、食事をとって1日の疲れを癒やし、翌日の生産活動に備える活動(労働力の再生産)です。また、誰しもやがて死を迎えるので、次の世代の労働力を生み育てておかなければなりません。この活動も労働力の再生産に含めることができます。
資本主義が発達し、社会全体が効率性を求めると、社会を支える生産労働と再生産労働は分担されるようになりました。こうして社会は生産を担う公的領域と、再生産を引き受ける私的領域に分かれていくのです。これがおよそ「職場」と「家族」に対応します。
農業を主とする伝統社会では家族と職場は未分化で、家族全員が生産に従事していました。やがて子を生む性である女性が私的領域(家族)で再生産活動に、男性は公的領域(職場)で生産活動に専念することになります(男は外で仕事、女は内で家事)。江戸時代の武士の家では子どもの教育に責任を持っのは父親でしたが、近代家族では父親の役割は薄れ、母親が子育てにおいて重要な存在になります。
性別役割分業の存在を表すのが、女性の就労人口が表すM字型就労です。女性は結婚前と出産後は男性と同じく外で働きますが、家事と子育てに専念するために一時的に公的領域を離れます。それがM字となって現れるのです。
愛しているのは君だけ、あなただけ
男性と女性が結ばれ、子どもを産み育てる家族は、いつの時代にも存在しました。しかし近代では、子どもを中心に、内(家事)と外(仕事)の役割分担がはっきりした近代家族が構成されました。この近代家族は、ロマンティック・ラブという考え方によって支えられています。ロマンティック・ラブとは、唯一のパートナーとの愛と性の関係を永続的に望み、結ばれることを言います。
現代に生きる私たちを支配する性道徳として、愛と性行為の一致があります。性行為は愛情の延長にあり、両者は切り離すべきではないという考え方です。また、愛情と性行為のパートナーは、1人に限定すべきだとも考えられています。さらに、男女の性的関係は結婚を前提としています。つまり、私たちが持っている性愛の道徳の原則は、愛と性行為は一致し、かつ一夫一婦制の家族の中でだけで公認されるというものです。
しかし、ロマンティック・ラブを女性の側から見ると、両義的な性格を持っています。この場合、ロマンティック・ラブによって、昔の一夫多妻の時代から女性と男性の平等が進んだと見ることができます。他方、こうした観念の結果、無償の愛の名の下に女性が家族の内部に隔離され、すべての家事負担を負わされると見ることもできます。この場合、ロマンティック・ラブは家事負担のためのイデオロギー(支配的な社会制度を正当化するための思想や観念)と見ることも可能です。このように、―つの現象や制度が持つ二面性につねに注意を払うというのも社会学の特徴の一つと言えます。
新しい家族のカタチ
私たちがこれまで前提としていた男女の区別と異性愛に支えられた家族(再生産を担う近代家族)に対して、本章ではそうした家族の姿にとらわれない多様な性のあり方についてお話ししてきました。しかし吐の多様化だけでなく、家族そのもののあり方も大きな転換期にさしかかっています。
離婚するカップルの割合は、およそ3組に1組と言われ、かつ結婚するカップルのうち、男女いずれかが再婚である割合も上昇傾向にあります。離婚した男女が再婚すると、新たな子どもをもうけるケースも含め、生みの親が異なる子どもたちが生活を共にする可能性が高くなります。こうした家族をステップファミリーと言います。
また、現代では生殖補助医療技術の進歩によって、新たな家族のカタチが生まれます。代理出産によって、生みの母と育ての母が異なるケースはいうまでもなく、人工授精によって夫婦以外の提供された精子もしくは卵子での出産が可能となり、遺伝子上まったく血縁関係のない親子が誕生するようになります。
全世帯のうち、単独世帯の割合が増える傾向にある一方、一つの住宅を複数の個人や世帯で共有するシェアハウスやコレクティヴハウスという生活形態に注目が集まっています。高齢化が進むと、家族との同居ではなくシェアハウスやコレクティヴハウスのような共同生活を選ぶ人も増えると予想されます。こうした社会学の知見に立てば、血縁のある家族とは別の他人との共同生活の可能性に社会が目を向ける時期にさしかかっていると言えるでしょう。
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