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うつ病患者に「頑張れ」と励ましてはいけない根拠は?

492.9『ケアの根拠』より

私は「頑張れ」という言葉は好きで、気持ちを鼓舞する言葉として自分自身に向けて使っています。「こんなことでくじけてどうする。頑張れ、頑張れ!」というふうに。また精神を病んで入院されている患者さんに対してもよく使っています。「頑張っているね。この調子だと元の生活に早く戻れそうだね」「ちょっと頑張りすぎだね。休み休みやったほうがいいよ。からだもこころも疲れちゃうからね」など。私が患者さんに使う「頑張れ」には、これ以上無理しないでリラックスしてという願いが込められています。言うなれば“期待"ではなぐ労い"とでもいうべきでしょうか。ただこれは自分自身に向けて使う「頑張れ」とは異なり、私と患者さんとの関係ができているから言えることであって、初対面の人にいきなり「頑張れ」とは言えません。「いったい何を頑張れというのだろう」とマイナスの印象を与えてしまうことになってしまいます。「頑張れ」という言葉はややつき放したような印象があるため、っらい思いをしている人には「頑張れ」ではなく「頑張ろう」と言ったほうがいい、と1995年に発生した阪神淡路大震災以後、いわれるようになりました。「頑張ろう」には「共に」という意味が含まれており、「頑張れ」よりは柔らかな表現であるために、っらい状況にある人や被災者を応援する言葉として使われるようになっています。うつ病患者に対して「頑張れ」という言葉を使ってはいけないといわれます。他に「絶対治るよ」「大丈夫」「元気だして」「大変だね皿代わってあげたい」という言葉も使ってはいけないといわれています。何とか励まそうという思いが、多くの言葉を使わせてしまうのでしょう。そのように精神科領域のみならず一般診療科においても、落ち込んでいる人を励ます言葉としで頑張れ"は使ってはいけないと広く浸透しています。それは「頑張れ」という言葉に過度のプレッシャーが含まれるからなのです。

実際にうつ病の患者さんに聞くと、「落ち込んでいるときの頑張れは、さすがにきついね。まだ頑張れというのかって感じだね。まあ、頑張れって言いたい気持ちはわかるけど」なんて返ってきます。では、「頑張れ」ではなく「頑張ろう」ならいいのでしょうか。「頑張ろう」ならば、回復してほしい思いが患者さんのこころに届くのでしょうか。実は「頑張れ」でも「頑張ろう」でもうっ病患者にとっては同じなのです。「頑張れ」という言葉が禁句なのではなく、「週度の励まし」がやってはいけない行為なのだと考えてください。うつ病はちょっと落ち込んでいる程度の状態ではありません。脳の機能が低下して、こころもからだもすべてのパワーを使い果たしている状態です。何もしないでゆっくりと休ませることが治療では優先とされます。しかしそこでの励ましは休ませることを阻害させてしまいます。だから「頑張れ」という励ましの言葉を使ってはいけないのです。

私が落ち込んでいるときに、どんなふうにされたいかと考えてみると、「頑張れ」と励まされるよりも、ニコッと笑顔で接してもらえるほうが、何十倍も気持ちいいです。笑顔は緊張をほぐし、こころを安定させる効果があります。そして接してもらえるということは、関心を寄せられていることにつながり、決して1人ではないことを意識づけてくれます。人とつながっている、誰かが関心を寄せている、そう思うことで安心感が生まれます。その安心感が最大の励ましになるのではないでしょうか。
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