『ムスリムNPO』より コミュニティ開啓
ここまでの議論から、イスラーム的な特性を有するNGOには、慈善の傾向が強いことがわかる。魚のとり方を教えるのではなく、困っている人に「はい、どうぞ」と魚をあげているわけである。ハムダルドによる無料診療やエーディー氏の孤児の養育などは、その典型例である。これこそ、本書のサブタイトルを「信仰と社会奉仕活動」としたゆえんである。しかしながら、奉仕の精神はそのままに、ムスリムNGOが、住民参加やエンパワーメントといった概念を取り込んでいく過程は、どのようなものとなるのだろうか。ムスリムNGOがこれらの概念をどのように取り込んでいくのかを考えることは、そのポテンシャルをはかるうえで重要である。
ここで参与になるのが、デビッド・コーテンのNGO世代論である。コーテンは社会変革を求めるNGOにこそ、絶えざる自己変革が求められているとし、一度成果を出したNGOでも、その成果に安住するならば、たちまち存在意義を失ってしまうと鋭く指摘する。そして、第一世代から第四世代までを提示して、NGOに自らの立ち位置を不断に検討するよう求めている。この議論自体は、宗教的なバックグラウンドの有無は問題にしておらず、日本のNGO関係者にも大きな影響を与えてきた。
このモデルにおいて、第一世代のNGOは目前の切迫したニーズに対応する。食料、保健衛生、そして住居などの不足を補うために、サービスや物品を直接、提供するのである。しかしながら、対処療法では問題の抜本的な解決にいたることはない。
第一世代の課題を解消すべく、第二世代は、自立に向けたコミュニティ開発を開始する。ニーズをかかえた人々が自ら必要なサービスや物品を調達できるよう、その能力向上に焦点をあてる。女性や土地なし農民のグループ結成を推進し、予防的な保健衛生活動や農業研修などをおこなう。
第三世代になると、政策や制度変革をつうじて持続可能なシステムの開発へと向かう。コミュニティ開発での成果を挺に、より広範な地域や国レペルのモデルとして展開をはかる。NGOは、日常的なサービスの提供者から、触発者的な役目をおびるようになる。
第四世代のNGOには、なによりも民衆を動かすヴィジョンが求められる。ほかのNGOや政府とも連携して、地球社会の諸制度の変革に立ち向かう。また、草の根レべルでは、地域に根ざした民衆の運動を育て、そのネットワーキングに力をそそぐこととなる。
コーテンは、NGOに対して、つねに次の世代への変容を求めている。もちろん、第一世代に分類される人道支援--災害や紛争発生時における食料配給や医療サービスの提供--がなくなるわけではない。しかし、NGoが物品を配ることにのみ満足し、(例えば)難民が生じる政治・経済的な原因の解明を怠るならば、社会変革の可能性はきわめて小さなものにとどまるだろう。
ここまで紹介したムスリムNGOは、第一世代のカラーが色濃いものであった。困っている人に助けの手を差し伸べなさいという教えに重きがおかれているのだから、そのような傾向が強くなるのは当然かもしれない。緊急時の食料や物資の配布においては強みを発揮するだろう。しかし、コーテンの世代論から明らかなように、平常時の開発においては、参加や自立、あるいはエンパワーメントといった概念が重要である。「魚をあげる」ことから、「魚のとり方を教える」ことへの転換である。さらには「魚のとり方を、人々がおたがいに教え合うこと」を支援する方向へと、NGOの資源を振り向けよと提言している。この点を具体的に考えていくために、本章では、ムスリムNGOによるコミュニティ開発の事例を見ていきたい。住民参加型のプログラムを実施し、その実績をもとに全国モデルヘの格上げをはかる展開であり、コーテンのいう第二・第三世代にあたる。さらに草の根レベルで民衆の組織を育て、そのネットワーキングに力をそそぐという点では、第四世代にも該当するかもしれない。
ここまでの議論から、イスラーム的な特性を有するNGOには、慈善の傾向が強いことがわかる。魚のとり方を教えるのではなく、困っている人に「はい、どうぞ」と魚をあげているわけである。ハムダルドによる無料診療やエーディー氏の孤児の養育などは、その典型例である。これこそ、本書のサブタイトルを「信仰と社会奉仕活動」としたゆえんである。しかしながら、奉仕の精神はそのままに、ムスリムNGOが、住民参加やエンパワーメントといった概念を取り込んでいく過程は、どのようなものとなるのだろうか。ムスリムNGOがこれらの概念をどのように取り込んでいくのかを考えることは、そのポテンシャルをはかるうえで重要である。
ここで参与になるのが、デビッド・コーテンのNGO世代論である。コーテンは社会変革を求めるNGOにこそ、絶えざる自己変革が求められているとし、一度成果を出したNGOでも、その成果に安住するならば、たちまち存在意義を失ってしまうと鋭く指摘する。そして、第一世代から第四世代までを提示して、NGOに自らの立ち位置を不断に検討するよう求めている。この議論自体は、宗教的なバックグラウンドの有無は問題にしておらず、日本のNGO関係者にも大きな影響を与えてきた。
このモデルにおいて、第一世代のNGOは目前の切迫したニーズに対応する。食料、保健衛生、そして住居などの不足を補うために、サービスや物品を直接、提供するのである。しかしながら、対処療法では問題の抜本的な解決にいたることはない。
第一世代の課題を解消すべく、第二世代は、自立に向けたコミュニティ開発を開始する。ニーズをかかえた人々が自ら必要なサービスや物品を調達できるよう、その能力向上に焦点をあてる。女性や土地なし農民のグループ結成を推進し、予防的な保健衛生活動や農業研修などをおこなう。
第三世代になると、政策や制度変革をつうじて持続可能なシステムの開発へと向かう。コミュニティ開発での成果を挺に、より広範な地域や国レペルのモデルとして展開をはかる。NGOは、日常的なサービスの提供者から、触発者的な役目をおびるようになる。
第四世代のNGOには、なによりも民衆を動かすヴィジョンが求められる。ほかのNGOや政府とも連携して、地球社会の諸制度の変革に立ち向かう。また、草の根レべルでは、地域に根ざした民衆の運動を育て、そのネットワーキングに力をそそぐこととなる。
コーテンは、NGOに対して、つねに次の世代への変容を求めている。もちろん、第一世代に分類される人道支援--災害や紛争発生時における食料配給や医療サービスの提供--がなくなるわけではない。しかし、NGoが物品を配ることにのみ満足し、(例えば)難民が生じる政治・経済的な原因の解明を怠るならば、社会変革の可能性はきわめて小さなものにとどまるだろう。
ここまで紹介したムスリムNGOは、第一世代のカラーが色濃いものであった。困っている人に助けの手を差し伸べなさいという教えに重きがおかれているのだから、そのような傾向が強くなるのは当然かもしれない。緊急時の食料や物資の配布においては強みを発揮するだろう。しかし、コーテンの世代論から明らかなように、平常時の開発においては、参加や自立、あるいはエンパワーメントといった概念が重要である。「魚をあげる」ことから、「魚のとり方を教える」ことへの転換である。さらには「魚のとり方を、人々がおたがいに教え合うこと」を支援する方向へと、NGOの資源を振り向けよと提言している。この点を具体的に考えていくために、本章では、ムスリムNGOによるコミュニティ開発の事例を見ていきたい。住民参加型のプログラムを実施し、その実績をもとに全国モデルヘの格上げをはかる展開であり、コーテンのいう第二・第三世代にあたる。さらに草の根レベルで民衆の組織を育て、そのネットワーキングに力をそそぐという点では、第四世代にも該当するかもしれない。
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