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未唯への手紙

未唯への手紙

オリーブはすばらしい植物

2012年10月18日 | 4.歴史
『137億年の物語』より ギリシア都市国家の繁栄

交易を経済の基盤にするようになった都市国家が競い合う中で、実験約で新しい、さまざまな生活様式が生まれた。

もし、あなたのキッチンにオリーブオイルがあるなら、フライパンに注ぐ前にちょっと考えてみよう。何千年にわたって、オリーブの実からしぼった油は、料理から照明まで、さまざまな用途で使われてきた。食べておいしく、保存が楽で、栄養価が高いオリーブは、古代社会の経済活動に欠かせないものであった。

オリーブの木は、ギリシア周辺の地中海沿岸に自生している。今日では、世界で最も広く栽培される果実のひとつになっているが、すでに2500年前ごろには、誕生したばかりの古代ギリシアの都市国家にとって、中央集権化を進める中国における絹のような存在になっていた。つまり非常に重要な財源だったのである。

紀元前650年ごろから、アテナイ、テバイ、スパルタ、コリントス、アルゴスをはじめとする数十の小さな独立した都市国家は、文明と自然に関わる興味深い実験をはじめる。進取の気風に富むこれらの社会は、オリーブの交易の上に成り立っていた。というのも、マケドニア山脈から地中海の東の島々までは、岩だらけの乾燥した土地が続き、オリーブの他に育つものはほとんどなかったからだ。

オリーブはすばらしい植物で、大きく生長するまでに25年もかかるが、いったん実をつけるようになると、後は放っておいても毎年結実する。痩せた土地でもそれは変わらない。オリーブ園は、鋤で耕したり、植え替えたり、雑草をとったりしなくていいのだ。米作りのように手間のかかる灌漑水路もまったくいらない。オリーブは、ローコスト・ハイリターンの作物の代表格なのだ。おまけに収穫も、熟したころを見計らって木をゆさぶれば、あとは重力まかせだ。

オリーブには、もうひとつ、とっておきの秘密がある。収穫後に1ヵ月ほど日に干せば、皮に付着している菌類の発酵作用で乳酸が作られ、それが何カ月にもわたって、オリーブの実を自然に保存してくれるのだ。冷蔵庫もクーラーボックスも必要とせず、市場に運び、船で外国に出荷しても、腐る心配はない。オリーブの強みは、いったん発酵させて少量の塩水に漬け込めば、賞味期限のことはすっかり忘れてしまっていい、というところにある。

古今の歴史家は皆、古代ギリシアは西洋文明のゆりかごだったというが、その地にこの奇跡の果実が生えていなければ、話は違ってぃただろう。

じきにギリシアの人々は、オリーブを生活に欠かせない品々と交換するようになった。紀元前5世紀のペルシア戦争のころには、すでに100以上の都市国家が地中海沿岸を網羅する交易路をはりめぐらせており、オリーブは、エジプトの穀物や、スペインやイタリアで採れた鉄や銅などの鉱石、船の建造に欠かせないレバノンの杉などと交換されていた。

ミノア文明とミケーネ文明が崩壊した後、新型の鉄製の武器を携えた遊牧民一方言の違いからドーリア人、イオニア人、アイオリス人、アカイア人に区別されるーが、ギリシアや小アジア(トルコ)の西岸に住みつぃだ。彼らは紀元前600年ごろには、オリーブを栽培し、豊かな暮らしをするようになっていた。

交易に頼る生活と、手間のかからない作物という組み合わせは、ギリシアの人々が新しい暮らし方を試すことができた理由を教えてくれる。まず、交易を経済の基盤とするポリス(都市国家)では、おのずと高度な市場システムが発達し、それが豊かな富をもたらした。ポリスに暮らす市民は、必要な物資を得るのに、穀物や米や奴隷と交換するのではなく、硬貨で買ったり、ローンを組んだりした。彼らはオリーブのおかげで、当時、世界の他の地域の人々の大半は持っていなかったもの一自由な時間-を、たくさん持つことができた。その自由な時間と、交易で得た富を使って、彼らはポリスの建設にいそしんだ。

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