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未唯への手紙

未唯への手紙

同調圧力の罠

2015年06月29日 | 2.数学
『ソーシャルメディアの罠』より

同調圧力の罠から述べよう。冒頭で女子大生のコミュニケーション風景を眺めてみたが、その中で最も強く感じられるのが、この同調圧力である。

人間にとって、他人や仲間と同調することは、ときに必要である。仲間で何かを決めるとき、仕事である課題解決の方向を見出すとき、そのほかいろいろな場面で同調する。それが、協調であったり、妥協であったりと、意味合いはさまざまだが、相手の意見、場の主流となる考え方を受け入れることは少なくないだろう。

そこで、最初に社会心理学での「同調」といわれる考え方を、まずおさえておきたい。

同調とは、「判断、態度を含む広義の行動に関して、他者あるいは集団が提示する標準や期待にそって、他者あるいは集団の標準と同一あるいは類似の行動をとること」だ。そして、同調は「内心からの受容をともなったもの(内面的同調)」と、「外面だけの同調(外面的同調)」とが区別されるという。

また、同調行動が起こる要因には、他者の判断や行動を参考にしようとする「情報的影響」と他者からの賞罰を考慮することによる「規範的影響」の2つがあるそうだ。前者では「他者の情報源としての信憑性」が、後者では「他者との好意的関係またはそれへの希求」が同調を促進する。

このようにみてくると、同じ同調でも、内心から信用して同調する場合と、うわべだけで嫌われたくないから心ならずも同調する場合まで幅広い。女子大生がゼミの場で見せる同調傾向は、どちらかというと空気を読んで周りに合わせようとすることが多いため、規範的影響による外面的同調の色彩が強い。ただ、ゼミというオフィシャルな場であることや、人数が10名程度で、メンバー間でかなり結びつきの強さが認められることから、同調傾向がより強まるのも無理はないともいえる。

ただ、彼らのソーシャルメディアでの状況を考え合わせると、「規範的影響」がさらに強化され、リアルなゼミの場面での同調傾向をさらに強める関係が作られていることを感じる。それは、とくに彼らの世代が子ども時代を過ごしてきた環境を踏まえると、「いじめ」の与えてきた「規範的影響」は看過できないレペルにあり、大学生になってもそのような仲間関係であり続けているからである。

考えてみれば、LINEにしろFacebookにしても、同調傾向を強める方向に働く同調圧力を発揮するものばかりが目に付く。LINEの頻繁なやり取り、とくに「既読機能」を通したそれぞれの存在確認は、同調圧力に間違いなく機能している。Facebookの「いいね」機能による同調の強制、さらに申請・承認を迫る「友達機能」の頻繁な働きかけも、それらを無視することはかなり勇気が必要だろう。なぜなら、彼らが日々利用するソーシャルメディアの現実的な広がりは意外と狭く、そこをうまく乗り切っていかないと、リアルな日常場面にも直結するからである。

若者ばかりではない。社会人でも職場での関係、仕事を通した取引先との関係で、ソーシャルメディアを通して同調圧力をかけられる場面は少なくないだろう。「既読スルー」に関するLINEのフリーアンサーで、「すぐコメントを求められる。返事に迷う(とくに目上、先輩)」といったコメントに、同調圧力の強さを改めて感じる。「「いいね」が少ないとかわいそうな気がする」「「いいね」のやりとりも億劫になり、とりあえず登録しているだけ」のようなFacebookのコメントにも同調圧力の匂いを感じてしまう。

では、なぜ同調圧力がソーシャルメディアを通して機能しやすくなっているのだろうか。少し考えてみよう。

同調による関係を強めることによって、手に入れられるものとは何か。まず挙げられるのは、自己防衛だろう。いじめのことを考えてみればわかりやすい。味方として固まることによって、集団の中で身を守りやすくなる。他には、孤独の解消ではないかと考える。1人でいることは、ある意味で自己責任が常に問われることでもある。人とつながることによって、責任への負担感が相対的に減るとともに、一緒でいることの安心感が生まれる。

しかし、その反面、口を閉ざし、うわべだけの関わりになりがちである。そして、それが当たり前の行動スタイルになってしまえば、そこから抜け出すことは容易ではなくなる。

ソーシャルメディアを絡めた同調圧力は、世論にも少なからず影響を及ぼすだろう。マスコミ理論の中に「沈黙の螺旋理論」がある。これは、1980年代にノエル・ノイマンにより提唱された、以下のような考え方である。

 「ある争点に関する立場Aが立場Bに対し、ひとたび優勢であると認知されると、立場Aの人々は公共的な場でみずからの主張を訴えやすくなり、逆に立場Bの人々は訴えにくくなる。このことが立場AをBに比して現実の意見分布以上に優勢であると認知させるようになる。この過程が繰り返されると、立場Aに対する同調行動が広範に生じ、一方立場Bは沈黙を強いられる…」

少し引用が長くなってしまったが、同調行動が世論レべルに広がることを指摘しておきたいからである。ソーシャルメディアによる同調圧力が、従来のマスコミによる世間への働きかけに加え、ある考え方を補強するように働くとしたら、「沈黙の螺旋理論」も従来より一段と強いものになることが予想される。

ソーシャルメディアは、リアルな現実と当然のことながら無関係ではない。個人や狭い集団における仲間関係にとどまらず、広く世間へも影響を及ぼすだろう。昨今の企業不祥事を絡めた、Twitter上を中心とした企業叩きは、その影響力の大きさを物語る一例である。

いずれにしても、ソーシャルメディアは、すでに内在化された機能により同調圧力を高める方向に働くものであること、さらに社会にも広くその影響を及ぼしかねないものであることを、ユーザーは忘れてはならない。さもなければ、同調圧力の罠にまんまと陥り、周りに縛られ、たびたび振り回されるような関係の中で、生きていかざるを得なくなることが懸念される。

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