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未唯への手紙

未唯への手紙

道徳および立法の諸原理序説 ベンサム

2014年04月01日 | 1.私
『世界の哲学50の名著』より 新しい統治の方法 最大幸福原理

ベンサムは立法者の指針としてそれまで用いられてきたさまざまな原理を検討し、一つひとつ退けている。功利性の原理が正しいならば、それはどんな場合でも正しいはずだとベンサムは主張する。だとすれば、その他の原理はすべて間違っているはずであり、その誤りは功利性の基準を使えば十分に判断できる。

それらの原理の一つが「禁欲主義」である。禁欲主義は修道院で実践されていたが、統治の原理として実際に適川された例はなかったし、それは当然だとベンサムは言う。人間はたいてい利己的で、欲望を抑えるよりはむしろ欲望に駆り立てられるものである。

べンサムは無神論者ではなかったが、宗教は政治に関与すべきではないという点では明確だった。神の意志を知るのはどこまでも主観的な行ないである以上、必然的に欠陥があるのは避けられない。

一方、功利主義の原理を採用すれば、すべての人にとって何かよいのかが明確になり、神の意志が実践されることになる。なぜならば、最大多数の幸福の増進以外に、神の御心にかなうものはありえないからである。

もう一つの原理は「反感と共感」である。人びとは、自分があるものを好きかどうかに基づいて行動したり判断したりするものだ。普遍的なもの(たとえば功利性のような)に基づいていない以上、これは原理でも何でもなく、ただの気まぐれにすぎない。

また、「善悪」の原理は、より厳粛に見えるが、単に好悪の延長にすぎないとベンサムは言う。政府の政策は、結局はその政府内の人間の好みを反映したものになる場合が多い。そこでは功利性、すなわち最大多数にとって実際に最善なものは何かという問題は考慮されていないのだ。

政府が政策を決定する理由として、世俗的な「道徳観」を隠れ蓑にする場合もあるが、それは彼らの根本的な不合理さをごまかしているだけである。刑事司法は合理的な功利性や、犯罪者や社会にとって何か最善かに基づいているのではなく、どの犯罪を最悪と考えるかという、人びとの道徳的偏見をよりどころにしている。「共感と反感の原理は、きびしさという点でもっとも誤りを犯しやすい」とベンサムは指摘している。ある行為を嫌悪する人びとの集団は、その犯罪が実際にもたらす被害の程度を超えて、その行為を犯した人物を過度に罰したいと考える。そしてそのような刑罰は、望ましくない連鎖反応を引き起こすものだ。

「社会を構成する個々人の幸福、すなわち彼らの快楽と安全が、立法者が考慮しなければならない目的、それも唯一の目的である」とベンサムは主張する。立法者が配慮しなければならないのは、できる限りの自由の容認と、他人の幸福を減少させる可能性のある行動の抑制との問でバランスをとることだ(ジョン・スチュアート・ミルは、この問題を『自由論』でさらに発展させている)。

たとえ功利性の原理を支持しないという人びとでも、人生のさまざまな場面で自分たちの行動を秩序だて、次の行動を考え、他人の行動を検討するために功利性の原理を適用しているとベンサムは指摘する。われわれは基本的に幸福を追求する機械であり、他人が自分の幸福の量を増大させるか減少させるかによってその人を判断している。

アダム・スミスと同様に、ベンサムも人間は本質的に利己的であるとみなした。だとすれば、ペンサムは政府の適切な役割をどのように考えていたのだろうか。

ベンサムがこの本を執筆した目的は、「理性と法律の手段によって、幸福の構造を生み出すこと」である。言いかえれば、法律によって幸福を実現することだ。これはおそらくほとんど実現不可能な計画だが、功利性の原理のみが国家の行為を合理的に秩序づけられるとベンサムは主張する。この考えは革新的だった。なぜならイギリスの法体系はコモン・ローで、裁判竹の判決が以後の判決を拘束する判例法だったからである。

最大多数の最大利益という目標を達成するために、何もない状態から法典を編纂するというもくろみはほとんど実現しそうになかったが、「習慣ではなく理性を案内人にせよ」というベンサムの主張は、やがて法に関する思想を活性化し、形作る力になっていくのである。

ペンサムの壮大な計画の中では、歴史もその他の文献も立法の根拠として利用できなかった。なぜなら、ある事柄について一つの文献を「典拠」として掲げても、すぐさま別の文献によって覆されてしまうからだ。moh川性(とりわけ功利性の原理)だけが政策と法律の基礎になり得るものだった。

実際、個々の人間が必ずしも制度や法律を気にいるとは限らなくても、人びとが〝気にいるはず〟の目的を持った制度や法律には、功利性の原理が働いているのに気づくはずだとベンサムは述べている。

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