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ボランティア・NPOをめぐる最近の動向

『ボランティア白書2012』より

「担い手を広げる」「協働を広げ、地域を元気にする」をキーワードに最近のボランティアとNPOの動向と、地域における協働の動きについて紹介する。

(1)担い手を広げる--プロボノという社会貢献-

 もしも「2010年度ボランティア・NPO流行語大賞」というものが存在したら、「プロボノ(プロボノパブリコ)」を挙げたい。 NHKの番組「クローズアップ現代」で「プロボノ~広がる新たな社会貢献」(2010年7月1日)として放映され、その存在が注目されたボランティア活動である。プロボノパブリコはコンピュータ企業のソフト開発、ウェブデザイナー、ビジネスアナリスト、金融機関の財務管理など、民間企業の社員が仕事で培った経験や知識を生かし、NPOなどを支援するボランティア活動である。ラテン語のPro Bono Publico (公共善のために)が語源である。米英の弁護士が始めた無料もしくは低額な報酬で行う法律相談がその始まりと言われている。資金力や組織力に乏しいNPOや、社会問題解決のためベンチャー企業を起こす「社会起業家」などが主な支援先となる。

 先の番組にも登場した特定非営利活動法人サービスグラントは、ボランティアを希望するプロボノとNPOをマッチングさせ、スキルやノウハウを提供することによってNPOを支援することを目的とした団体で、さまざまな専門的技術を持った多数の社会人が「プロボノワーカー」として登録している。サービスグラントは4~6人からなるプロボノワーカーのプロジェクトチームを支援先のNPOに派遣し、約6ヵ月間のプロセスを経て、具体的な成果物の提供を通じてNPOを応援するというユニークな「プロジェクト型助成」を行っている。プロボノを経験した社員は社会的課題の解決のために働くNPOの人々と直接関わることにより、自分自身の本来の仕事の中にも新たな社会的意味を見いだし、働き方や企業文化を変えることにもつながっているようだ。

 米国では企業が積極的にプロボノを支援する動きが加速している。日本においてもCSR(企業の社会的責任)の一環として組織的に社員のプロボノを後押しする動きも出ており、企業の社会貢献活動の新しい形として認識され始めている。企業はこれまでNPOに対しては協働事業や寄付金、あるいは法人会員として支援してきたが、企業の持っている人材や知識やネットワークをNPOに提供するという、従来の企業とNPOの協働関係に新たな要素が加わることになった。

(2)協働を広げ、地域を元気にする

 「フードバンク」という活動がある。フードバンクとは、消費期限は十分にあるが、包装の破れなどで店頭には出すことができずに廃棄せざるをえない食品を企業から寄付してもらい、福祉施設などに無償で配付する活動である。福祉的な側面だけでなく、食品の廃棄量を抑え、環境への負荷を減らす目的もある。 1960年代後半に米国で始まり、日本では「セカンドハーベスト・ジャパン」(東京)が2000年代初めに活動を開始し、全国に広がってきた。 ここで紹介する特定非営利活動法人フードバンク山梨(米山けい子理事長)は、2008(平成20)年10月に設立された。各地のフードバンクと同様に福祉団体などへ配付する活動を展開してきたが、2010年から、おそらく全国的に例がない画期的な取り組みを始めた。それは、福祉施設などに対しての寄贈ではなく、明日の食料に事欠く困窮世帯や個人に直接、食料を送るという「食のセーフティーネット」事業である。特に生活保護などを受けていない“見えない貧困”層を対象とし、市町村や社会福祉協議会、民生委員、民間ボランティアなどと連携・協働して、貧困世帯の情報を把握したうえで、宅配業者を通じて自宅に米や乾麺、缶詰などを送っている。個人情報に関わることだけに、自治体や関係団体との連携なくしては成り立たない活動である。この取り組みを実現させた背景には、自治体独白の提案型公募事業という制度を活用したことにある。今後は、NPOと自治体にとどまらず、地縁組織、企業などの複数の団体を巻き込んで協働した事業が、全国各地に広がっていくものと期待される。

(3)地域づくりの新たなモデルー市民参加型映画プロジェクトー

 映画製作会社ものがたり法人Fire Worksは企画・制作・上映展開までを、一貫して地域住民と映画プロが共創して展開する、前例のない「市民参加型映画プロジェクト」のモデルを社会に提出してきた。数多くの市民参加型映画を製作し、その過程でソーシャルキャピタルを創出してきた。その実績が評価され、2010年度「地域づくり総務大臣賞」を受賞した。今春上映がスタートする消防団をテーマにした最新作「ふるさとがえり」は岐阜県恵那市を舞台にした映画である。恵那市は2004 (平成16)年の市町村合併により、13町が合併して誕生した人口5万6、000人の市である。

「一つの市になり、地面はつながっているが、一体感、心のつながりがない」と課題を抱えていた市の職員が、2005 (平成17)年にFireWorksのオフィスを訪ねたところから、このプロジェクトは始まった。「映画で恵那の心を一つに!」をスローガンに、草の根の募金活動、スタッフ募集活動、映画関連イベントを展開していった。その過程で、これまで交流のなかった恵那市13地区の地域づくりキーパーソンの出会いと交流が生まれた。プロジェクトメンバーは映画製作が終わったあとも、継続的に市内全域で文化振興を図っていくことを目的に、NPO法人「エナジー」を設立した(2009年6月)。「えな“心の合併”プロジェクト」は映画をPRする人、つくる人、出演する人、まかないを出す人、お金を出す人、映画を観る人など、さまざまな形で1本の映画を通じた「住民全員」参加を目指している。

「市民参加型映画プロジェクト」は、地域内の活性化のみならず、日本各地の「ふるさと(地域コミュニティ)」の活性化にアプローチする可能性を持っているのではないだろうか。
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