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中国を中国たらしめる八つの特色

『中国が世界をリードするとき』より 中国を中国たらしめる八つの特色

第一に、中国は現実には従来的な意昧での国民国家ではなく、文明国家である。国民国家を自称してはいるが、中国が国民国家という扱いに甘んじたのは、一九世紀後半以来、西洋列強に対して弱い立場に立たされた結果である。

第二に、中国の対東アジア関係においては、国民国家体制に代わって朝貢時代の過去がしだいに影響を及ぼしつつある。朝貢国家体制は二千年にわたって存続し、ようやく一九世紀末に姿を消したにすぎない。そしてその後も完全に消えたわけではなく--長い歴史のなせるわざで、惰性や慣行として--新たに支配的制度となったウェストファリア体制の下に埋もれる形で存続した。

第三に、中国特有の民族・人種観というものがある。漢族はみずからを、中国全人口の九〇パーセント以上を占める単一民族と考えている。こうした認識が成り立つのは、中華文明の悠久の歴史の中で、数限りない民族がしだいに混血し、融合したからである。中国統一が神聖にして不可侵であることは、漢族はひとつであるという強い自己認識に裏打ちされている。

第四に、中国の国家運営は現在も将来も他の国民国家とは大きく異なり、大陸規模のスケールでなされる。大陸規模といえる国はほかにも四つほどある。米国は、面積のうえでは中国にわずかに及ばないだけだが、人口では四分の一にすぎない。オーストラリアは大陸国で、面積は中国の約八〇パーセントだが、人口はやはりたった二一○○万人とマレーシアや台湾より少なく、その大部分が沿海部に住んでいる。ブラジルの国土は中国の約九〇パーセントだが、人口は一億八五〇〇万人と少ない。

第五に、中国の政治体制のあり方はひじょうに特殊である。西洋の経験とくにヨーロッパの経験とは異なり、中華王朝は教会や商人層といった競合する社会組織や利益集団との間で権力分担を余儀なくされることがなく、その必要もなければそう要求されることもなかった。中国には過去千年の西洋社会でみられたような組織的宗教が存在せず、また中国の商人層も、組織化による利益追求よりはむしろ個人的な働きかけによって便宜を得ようとした。王朝時代・共産党時代を通じて、国家がほかの社会勢力と権力を分かち合うことがまったくなかった。国家のみが、最高権力として誰からの反対も受けずに社会を支配したのである。

第六に、中国近代は東アジア諸国の近代と同じく、経済発展の速さにおいてきわだっている。西洋の近代経験とはある意昧でひじょうに異なる形で、過去と未来が現在の中に共存しているのだ。第5章ではアジアの虎諸国について、時間が圧縮された社会だと述べた。これらの国の人びとは急激な変化に慣れているので、西洋とくにヨーロッパ諸国よりも、新しい事物や未来というものに直観的に親しむことができる。

第七として、一九四九年以来、中国は共産党支配体制下にある。皮肉なことに、おそらく過去半世紀でもっとも重要だと思われる二つの年度は、一見すると矛盾するような二つの事件が起きた年である。すなわち、ヨーロッパ共産主義とソ連圏がともに消滅した一九八九年と、史上にもっともめざましい経済発展の始まりとなったのみならず、それを共産党が主導したという点でも注目すべき一九七八年である。一九八九年はひとつの大きな時代の終焉であり、一九七八年はそれよりさらに重要な時代の始まりである。

第八に、中国は今後数十年にわたって、先進国と発展途上国の性格を併せ持つことになる。グローバル大国としては異例だが、これは国が大きいので近代化の進展に時川がかかるためだ。中国の発展は大陸そのものの発展なので、そこには一国家どころか大陸的規模の格差がともなう。その結果、農村の後進性が近代化を抑制するとともに相互に作用しあい、そうして生まれた近代化の「ずれ」が、経済や政治や文化の上に数々の効果をもたらす。中国近代においては、国民の多くが、これからもたがいに異なる歴史上の時代を生きていくのだという現実を否定することはできない。このために中国は、将来も長きにわたって過去の歴史と向かい合うことになる点はすでに指摘した通りだ。しかしこのことはまた、国益ならびに対外関係についての中国の考え方にも影響を与えずにおかない。
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