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クラウドの矮小化

『次世代インターネットの経済学』より

クラウドを仮想化と捉える?

 そのための必須の技術要件が「仮想化」である。コンピューターとは突き詰めて言えば、マイクロプロセッサやメモリーなどのハードウェア部分、OS、ミドルウェアなどのプラットフォーム部分、アプリケーションなどのソフトウェア部分に大別される。仮想化技術とは、巨大なコンピューター定確にはデータセンターを多くのユーザが効率的に使えるようにした技術である。仮想化技術さえあれば、一人一人のユーザが使いもしない高性能なコンピューターを自前で用意する必要はない。ハードウェアも、ソフトウェアも、必要があれば必要なときに、クラウドから必要な機能をサービスとして借りればよいのだから。自分のデータすら、クラウド側に置いておけば、自分で持ち運ぶ必要もない。

 インターネット全体がコンピューター。一人一人が自前でパッケージ型のコンピューターを持たなくて済む時代が来る。同じ二〇〇六年に、サンーマイクロシステムズ社のグレッグーパパドポラスが、「世界にコンピューターは、Google、Microsoft、Yahoo!、Amazon、eBay、Sales-force.comの五つがあれば足りる」と発言して物議をかもした。インターネットの世界で寡占化か進むと予言したわけである。

 クラウドは、伝統サービスを代替する

  インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス

   ユーザはクラウドから、インフラストラクチャ(またはハードウェア)をサービスとして利用する。AmazonはEC2(Elastic Compute CloudⅡ)というサービスで、保有する強大なコンピューター施設を仮想マシンとしてユーザに必要な機能をばら売りしている。ユーザは好きな性能のマイクロプロセッサ、ハードディスク、メモリーを一時間あたりの従量料金で利用できる。

   ユーザはクラウドから、プラットフォームをサービスとして利用する。

   ここでいうプラットフォームとはアプリケーションを実行するために必要な動作環境でありWindowsのようなOS、楽天のようなネットショッピング向けユーザID管理サービスも含む。Googleが提供するApp Engineは、自前で設備を持たなくてもGoogleのデータセンター上で自分の好きなウェブ・アプリケーションを作ったり、動かしたりすることができる。

  プラットフォーム・アズ・ア・サービス

  ソフトウェア・アズ・ア・サービス

   ユーザはクラウドから、ソフトウェアをサービスとして利用する。ここでいうソフトウェアとは、会計ソフトや表計算ソフトなど、アプリケーションのことである。Salesforce.comのビジネス向けアプリケーションが日本でも人気である。自分の好みに応じて、あれこれ機能を追加することは難しいが、必要最低限の機能を無料または低廉な料金で利用できる。

 クラウドの利点は、ユーザが自ら多大なコストをかけて、ハードウェアやソフトウェアを購入する必要がないことだ。ユーザはクラウドから機能をサービスとして必要なときに必要なだけ借りて、使っただけの料金を支払えばよい。

 規模の経済性は諸刃の剣だ。多量の利用が見込める場合は自前で設備を所有すれば、使えば使うほど費用を下げることができる。しかし、少量の利用しか見込めない場合は十分な費用効果が期待できないので、他人の設備を拝借し、多少割高でも利用料を払った方がよい。いわば、自家用車を購入するか、レンタカーで済ませるかの違いである。クラウド事業者から見れば、巨大な設備を所有しておいて、多くの人にばら売りし、規模の経済性を最大限発揮できる。クラウド・ユーザから見れば、巨大な投資を必要とせず、他者の設備上で規模の経済性を共有できる。クラウド・サービスは、仮想化技術を用いて、クラウド事業者にも、クラウド・ユーザにも、双方両得となるような、規模の経済性の分配メカニズムと言えよう。
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