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複雑性の原理

『Xイベント』より 複雑性の七つの顔

①創発:互いに作用をおよぼし合う個体の集まりが「システム」を構成する。そして、システムは全体として、個体のレベルでは見られない独自の特性を持つことが多い。そのような創発特性は個体の相互作用から生まれるものであり、システムを構成する個体の特性に対して、「システム特性」と呼ばれる。創発特性の好例は、高速道路の渋滞、フットボールの試合での得点、金融市場の価格変動などだ。高速道路を降りようとする車が一台なら渋滞は起こらない。だが、キックオフの時間までにスタジアムに着こうとして何百台もの車が同じ出口から降りようとしたら、渋滞が発生する。また、フットボールの試合では、どんなにうまい選手だろうと、一人の選手の動きだけでプレイの結果が決まるわけではない。プレイがタッチダウンで終わるかどうかは、数人の選手の相互作用によって決まるのだ。だから、得点が生まれることは試合の創発的側面と言える。同様に、金融市場では、買うか売るかホールドするかというトレーダーたちの決定の相互作用が、価格を上げたり下げたりする。その価格変動も、トレーダーの決定とその相互作用の両方によって決定される創発現象である。

②赤の女王仮説:ルイス・キャロルの名作『鏡の国のアリス』で、赤の女王がアリスに言うセリフがある。「ここでは、同じ場所にとどまるためには全力で走り続けなければならない」。この考えは一九七三年に生態学者のりI」ヴァン・ヴェーレンによって科学の世界に持ち込まれた。適応し、進化する生命体の集まりで構成されるシステムでは、それぞれのメンバーが絶滅を避けるために進化して、他のメンバーとの競争に勝たねばならないということに、ヴァン・ヴェーレンは気づいたのだ。要するに、ゲームにとどまるためには、できるだけ速く進化しなければならないのである。この原理から出てくる必然的な結果は、システムの包括適応度は複雑性の階段をどんどん上っていく傾向があるということだ。だが、やがてこれ以上は上れないというときがくる。その時点で、システムは一般にそのシステムとの競争に勝った別のシステムの作用によって崩壊する(社会の複雑性の増大は最終的にはその社会の崩壊を招くという、先述したジョセフ・テインターの主張と相通ずる見方である) 。

③代償は避けられない:経済システムであれ、社会システムであれ、他のシステムであれ、システムを高い効率性レペルで作動させたいと思うなら、作動環境で発生する未知の--そしてもしかしたら不可知の--衝撃や変化に対するシステムの柔軟性を大幅に低下させるという形で、システムの作動を最適化する必要がある。これはとりもなおさず、きわめて不確実な環境における適応力や生存力という便益を得るためには、効率の低下という代償は避けられない、ということだ。免責条項などどこにもないのである。

④ゴルディロックスのポリッジ:システムが最も開放的かつダイナミックに、適応力を持って作動するのは、システムが活動するための自由度が、イギリスの童話『3びきのくま』で主人公のゴルディロックスが食べるポリッジ(訳注一米やオートミールを牛乳で煮込んだおかゆのような食べ物) のようなとき、すなわち熱すぎもせず、ぬるすぎもせず、ちょうどよい温度のときだ。システム理論の用語では、これは「カオスの淵」と呼ばれることが多い。カオスの淵とは、新しい挙動レジームを探るための自由度が少なすぎてシステムが不活発になりすぎるときと、自由度が多すぎてシステムがなんでもありのカオス状態になるときの間の細い線のことだ。現在の仕組みを有効に利用し、それでいてタイミングと環境の変化に応じて新しい仕組みに移行する十分な余地を確保するためには、中間が適切な居場所なのだ。

⑤決定不能性/不完全性:行為や挙動が発生するかしないかに関するあらゆる主張に決着をつけるためには、合理的論証だけでは足りない。別の言い方をすると、論理的な演縄的推論の連鎖をたどることでは予見できない事象が、必ず起きるのだ。予測を成功させるためには、直観的な思考の飛躍と入手できるデータそのものには含まれていない情報のどちらか一方、もしくは両方が必要だ。

⑥バタフライ効果:MITの気象学者、エド・ローレンツは、一九七〇年代に大気の変化の数理モデルを研究していたとき、複雑なシステムの代表的な特徴の一つを発見した。システムのある部分に生じた一見、取るに足りない変化や乱れが、ネットワーク全体に伝わって、別の部分に、もしくは別のときに、大きな変化を生み出すことがあるという特徴だ。ローレンツはこれを「バタフライ効果」と名づけた。ブラジルのジャングルで今日、チョウが羽ばたいたら、メキシコ湾で来週ハリケーンが発生するという作用を言い表したものだ。要するに、複雑なシステムは、システムの当初の状態の一見小さな変化に対して、病的と言えるほど敏感な反応を示すことがあるわけだ。この特性をはっきり示している実例を紹介しよう。

⑦必要多様性の法則:最後に、複雑性の原理のうち、少なくとも本書の目的に照らすと最も重要なものについて説明しよう。これはXイベントが一般に、相互作用する二つ以上のシステムの複雑性レペルの持続不可能なギャップを埋める手段として登場するのはなぜかを説明するものだ。
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