『ゴーストタウンから死者は出ない』より 再生可能エネルギーの意志ある波のゆくえ--エネルギー政策の経路依存と構造転換 再生可能エネルギー固定価格買取制度による市場環境の変化
二○一二年三月に電源種ごとの買取価格が決定してから、太陽光発電はとくに増加した。出力一〇キロワット以上の太陽光は、一律四〇円/キロワット時(税抜き)で二〇年間買い取られることとなったため、短期間で投資回収の見込みが立つと判断されたのである。
すでに建設・稼働を開始している事業をいくつか紹介しよう。
金ケ崎町内で宿泊施設「みどりの郷」を経営するジュリアン(岩手県奥州市)は、同施設の敷地内に一五〇〇キロワットのメガソーラーを建設し、二〇一三年三月から発電を開始した。事業費は五・二億円で日本政策金融公庫と地元地銀から融資を受けた。地元地銀からの融資は、岩手県が新たに設けた再生可能エネルギー立地促進のための融資制度を活用した。
被災した大船渡市では、五葉山の中腹にある牧野に二万キロワットのメガソーラーが二〇一三年六月から建設されている。事業主体は前田建設工業(東京)を代表社員とし、地元企業も出資する合同会社で、事業費六六億円は、都銀・地銀五社が協調融資を行った。
雫石町では、エトリオン(スィス)と日立ハイテクノロジーズ(東京)が合同会社を設立して、二〇一四年一〇月から二万五千キロワットのメガソーラーを建設している。
このように岩手県内でメガソーラーを行う事業者は県内・県外・外資系企業までじつに多様であり、その全体像や詳細は明らかになっていない。そこで私は、県内各地で調査を行うとともに、岩手県内の新聞各紙、事業者のホームベーダやプレスリリースを収集し、四六件の事業の概要に関する情報をまとめた。
事業者や規模など詳細が把握できた四六件のメガソーラーの出力合計は二三万五八九八キロワット、二〇一四年一一月末時点で稼働しているものは二五件・四万六三四七キロワットであった。上述した資源平不ルギー庁の発表(二〇一四年八月末時点)における稼働済みメガソーラーが二〇件であることから、すでに稼働している施設については、おおむね網羅的に把握できていると考える。
詳しく見ていこう。まず、県外企業(国外を含む)による事業は二七件・一五二二八六キロワットであるのに対して、県内企業による事業は一二件・一万九七二三キロワットにとどまる。県内外の企業が合同で設立した特別目的会社(SPC)による事業も二件一三万二〇〇キロワットあるが、ともに地元企業の出資比率はきわめて少ないとされる。このほか、自治体が所有する土地に事業者を公募した公共関与的性質の強い事業が五件・三万三六八九キロワットあるが、選定された事業者は県外に本社を置く企業か、県外企業が主導した共同事業体(JV)に地元企業が参加するケースである。
買取価格は一キロワット時あたりで設定されているため、事業の件数ではなく出力ペースで集計すると、図1のような比率となる。県内企業あるいは自治体が経営に関与するメガソーラーは、全体の二二%にすぎない。つまり、岩手県内に降りそそいだ太陽光を資源に発電した施設でありながら、その利益は、八割近くが県外へ流出する可能性がきわめて高い。
一件あたりの事業規模の比較においても、県外企業による事業規模の平均は五六四〇キロワットであるのに対して、県内企業による事業のそれは一六四四キロワットであり、差は歴然としている。
こうした現状は、各地でどのような問題を顕在化させているのか。
県南部に位置する金ケ崎町の例を挙げよう。町の農業用水路などを管理運営する岩手中部土地改良区では、仙台藩の時代から濯漑用水源として整備してきた「千貫石ため池」を活用して、二○○九年に小水力発電可能性調査を実施した。採算がとれることがわかり、二○一二年、概略設計に着手、出力一三八キロワットの発電設備を導入し、収益を施設の維持管理費に充て、組合員である地元農家の負担金を軽減する事業計画を立てた。ところが二〇一三年に入り、東北電力に送電網に接続するための事前相談を行うと、「可能」の回答とともに「じつは変電所の空き容量がもうすぐなくなる」と説明を受けた。その後、近隣でメガソーラーが二つ、送電網に新たに参入したため、小水力発電の計画は頓挫したままである。次に接続可能な変電所までは一六キロメートル離れており、その間の送電線を自前で整備するには億単位の追加的投資が必要なことが判明した。小水力発電は河川管理者と水利権の協議が必要であるなど、太陽光発電に比べて計画から完工までに時間がかかる。同土地改良区の事業課長は「(太陽光発電と)同じ土俵で戦っても負けてしまう。せっかく目の前に自然エネルギーが眠っているのに歯がゆい思いだ」と話す。
メガソーラーと小水力の優劣を判断するつもりはない。どちらも重要なエネルギー源だ。しかし、特性が異なり、必要な手続きや事業化の所要時間も異なる電源種の受け入れを、一律に先着順にすれば、てっとり早く着手できる太陽光発電が有利になってしまうのは明白であった。この制度運用上の問題は解決されぬまま、東北電力は二〇一四年一〇月、家庭用を除く太陽光と水力、地熱、バイオマスの、出力五〇キロワット以上の施設の新規接続申し込みへの回答を、管内全域で中断すると保留した。その後、二〇一五年一月に改正された省令(後述)にもとづいて、接続申し込みへの回答を再開している。
二○一二年三月に電源種ごとの買取価格が決定してから、太陽光発電はとくに増加した。出力一〇キロワット以上の太陽光は、一律四〇円/キロワット時(税抜き)で二〇年間買い取られることとなったため、短期間で投資回収の見込みが立つと判断されたのである。
すでに建設・稼働を開始している事業をいくつか紹介しよう。
金ケ崎町内で宿泊施設「みどりの郷」を経営するジュリアン(岩手県奥州市)は、同施設の敷地内に一五〇〇キロワットのメガソーラーを建設し、二〇一三年三月から発電を開始した。事業費は五・二億円で日本政策金融公庫と地元地銀から融資を受けた。地元地銀からの融資は、岩手県が新たに設けた再生可能エネルギー立地促進のための融資制度を活用した。
被災した大船渡市では、五葉山の中腹にある牧野に二万キロワットのメガソーラーが二〇一三年六月から建設されている。事業主体は前田建設工業(東京)を代表社員とし、地元企業も出資する合同会社で、事業費六六億円は、都銀・地銀五社が協調融資を行った。
雫石町では、エトリオン(スィス)と日立ハイテクノロジーズ(東京)が合同会社を設立して、二〇一四年一〇月から二万五千キロワットのメガソーラーを建設している。
このように岩手県内でメガソーラーを行う事業者は県内・県外・外資系企業までじつに多様であり、その全体像や詳細は明らかになっていない。そこで私は、県内各地で調査を行うとともに、岩手県内の新聞各紙、事業者のホームベーダやプレスリリースを収集し、四六件の事業の概要に関する情報をまとめた。
事業者や規模など詳細が把握できた四六件のメガソーラーの出力合計は二三万五八九八キロワット、二〇一四年一一月末時点で稼働しているものは二五件・四万六三四七キロワットであった。上述した資源平不ルギー庁の発表(二〇一四年八月末時点)における稼働済みメガソーラーが二〇件であることから、すでに稼働している施設については、おおむね網羅的に把握できていると考える。
詳しく見ていこう。まず、県外企業(国外を含む)による事業は二七件・一五二二八六キロワットであるのに対して、県内企業による事業は一二件・一万九七二三キロワットにとどまる。県内外の企業が合同で設立した特別目的会社(SPC)による事業も二件一三万二〇〇キロワットあるが、ともに地元企業の出資比率はきわめて少ないとされる。このほか、自治体が所有する土地に事業者を公募した公共関与的性質の強い事業が五件・三万三六八九キロワットあるが、選定された事業者は県外に本社を置く企業か、県外企業が主導した共同事業体(JV)に地元企業が参加するケースである。
買取価格は一キロワット時あたりで設定されているため、事業の件数ではなく出力ペースで集計すると、図1のような比率となる。県内企業あるいは自治体が経営に関与するメガソーラーは、全体の二二%にすぎない。つまり、岩手県内に降りそそいだ太陽光を資源に発電した施設でありながら、その利益は、八割近くが県外へ流出する可能性がきわめて高い。
一件あたりの事業規模の比較においても、県外企業による事業規模の平均は五六四〇キロワットであるのに対して、県内企業による事業のそれは一六四四キロワットであり、差は歴然としている。
こうした現状は、各地でどのような問題を顕在化させているのか。
県南部に位置する金ケ崎町の例を挙げよう。町の農業用水路などを管理運営する岩手中部土地改良区では、仙台藩の時代から濯漑用水源として整備してきた「千貫石ため池」を活用して、二○○九年に小水力発電可能性調査を実施した。採算がとれることがわかり、二○一二年、概略設計に着手、出力一三八キロワットの発電設備を導入し、収益を施設の維持管理費に充て、組合員である地元農家の負担金を軽減する事業計画を立てた。ところが二〇一三年に入り、東北電力に送電網に接続するための事前相談を行うと、「可能」の回答とともに「じつは変電所の空き容量がもうすぐなくなる」と説明を受けた。その後、近隣でメガソーラーが二つ、送電網に新たに参入したため、小水力発電の計画は頓挫したままである。次に接続可能な変電所までは一六キロメートル離れており、その間の送電線を自前で整備するには億単位の追加的投資が必要なことが判明した。小水力発電は河川管理者と水利権の協議が必要であるなど、太陽光発電に比べて計画から完工までに時間がかかる。同土地改良区の事業課長は「(太陽光発電と)同じ土俵で戦っても負けてしまう。せっかく目の前に自然エネルギーが眠っているのに歯がゆい思いだ」と話す。
メガソーラーと小水力の優劣を判断するつもりはない。どちらも重要なエネルギー源だ。しかし、特性が異なり、必要な手続きや事業化の所要時間も異なる電源種の受け入れを、一律に先着順にすれば、てっとり早く着手できる太陽光発電が有利になってしまうのは明白であった。この制度運用上の問題は解決されぬまま、東北電力は二〇一四年一〇月、家庭用を除く太陽光と水力、地熱、バイオマスの、出力五〇キロワット以上の施設の新規接続申し込みへの回答を、管内全域で中断すると保留した。その後、二〇一五年一月に改正された省令(後述)にもとづいて、接続申し込みへの回答を再開している。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます