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被災自治体財政の分析--宮城県南三陸町を事例に

『ゴーストタウンから死者は出ない』より 被災自治体財政の分析--宮城県南三陸町を事例に

本稿においては、東日本大震災の被災地となった地方自治体の財政が震災によってどのように変化したのかについて、宮城県南三陸町を事例に分析を行う。分析にあたって、まずは歳出入の変化について検討する。そして、今後の南三陸町の財政に関する予測について議論する。そのなかで、じつは進みつつある復興事業のなかに、将来の町財政の悪化につながる要因が潜んでいることを明らかにする。さらに、基幹税である固定資産税の税収見通しを示す。これらのことから復興が進んでも被災自治体の財政は厳しい状況に置かれる可能性が高いことを指摘する、。

本稿の分析対象である南三陸町は、人ロ一万四二五六人(二〇一四年一〇月末現在の住民基本台帳人口)の町であり、二〇〇五年一〇月に旧志津川町と旧歌津町が合併してできた町である。震災直前の二〇一一年二月末の人口は一万七六六六人であり、台帳上は約三千人の人口減少がみられる。多くの被災地と同じように、震災によって町の様子が大きく変化した地方自治体である。

まずは歳出入総額の変化について見てみたい。表は二〇一〇~二〇一四年度における歳出入総額の推移を見たものである。この表から読み取ることができるように、震災後に歳出入規模は大きくなっている。とくに二〇一三年度は六六四・七億円となっており、二〇一〇年度と比較して約九倍となっている。一方で、町税は減少している。表2は二○一〇~二○一二年度における町税の推移を示したものである。この表から読み取ることができるように、震災前には一三億円であった町税が二〇一一年度には五・八億円と四割程度にまで減少している。なかでも固定資産税が減少しており、税収減のなかでもっとも大きなウエイトを占めている。

さらに、より詳しく歳出入について見ていきたい。表3は二〇一三年度における歳入の内訳を示したものである。この表から読み取ることができるように、歳入のなかでウエイトの高い項目は、繰入金、国庫支出金、地方交付税の順となっている。

歳入のなかでもっとも多いのが繰入金である。繰入金とは、一般会計、特別会計、基金等の会計間の現金の移動のことをいう。基金繰入金三一八・三億円のうち三一六・六億円が復興交付金繰入金である。復興交付金は基金による執行も可能であり、事業の進捗に合わせて基金を取り崩している。

次いで多いのが国庫支出金である。国が地方自治体に対して交付する負担金、補助金、委託金等を総称して国庫支出金と呼んでいる。国庫支出金は使途が特定される特定補助金である。総額一五七・七億円のうち復興関連のものは国庫負担金が六五・五億円、国庫補助金が九二・八億円となっている。

前者のうち五〇・二億円が農林水産業施設災害復旧費負担金であり、漁港、道路橋りょうおよび河川災害復旧事業に充てられた。後者のうち九一・五億円が災害復旧費国庫補助金であり、東日本大震災にともなう災害廃棄物処理委託料(ガレキ処理費)に充てられた。災害復旧事業については、国庫負担金と国庫補助金を充当した残額に震災復興特別交付税(以下、震災特交)が措置される。したがって、地方自治体の負担なく事業を行うことができる。震災特交とは、大震災の復旧・復興事業に係る被災自治体の財政負担を解消するとともに、被災自治体以外の地方自治体の負担に影響を及ぼすことがないよう、通常収支とは別枠で確保し、事業実施状況に合わせて決定・配分するものである。

三番目に多いのが地方交付税である。地方交付税とは、国税の一定割合の額で、地方自治体が等しく行うべき事務を遂行することができるよう、一定の基準により国から交付されるものである。地方交付税は国庫支出金とは異なり、使途が特定されない一般補助金である。総額一二七・八億円のうち三六・八億円が普通交付税、二・四億円が特別交付税、八八・六億円が震災特交となっている。

では、歳出はどのような内容になっているのであろうか。表4は二〇一三年度における歳出の内訳を示したものである。この表から読み取ることができるように、歳出のなかでウエイトの高い項目は、復興費、民生費、災害復旧費の順となっている。

歳出のなかでもっとも多いのが復興費である。この復興費は二〇一二年度予算から新たに設けられた款である。復興費のうち復興総務費の項以外はすべて復興交付金が財源として充てられる。復興費総額三八三・四億円のうち復興土木費が三三一・六億円となっている。このうち二一三・二億円が防災集団移転促進事業費であり、うち一〇六・四億円が公有財産購入費(事業用地)である。これに次いで多いのが災害公営住宅整備事業であり、事業費は四二・七億円である。三番目に多いのが津波復興拠点整備事業費であり、事業費はニ八・八億円である。このうち一〇・一億円が公有財産購入費(事業用地)である。四番目に多いのが道路事業費であり、二四・九億円である。

次いで多いのが民生費である。民生費とは、社会福祉の向上を図るために、地方自治体が、児童、老人、心身障害者等のための各種福祉施設の整備および運営、生活保護の実施等の諸施策を推進するのに要する経費のことである。総額一二四・五億円のうち災害救助費が一〇五・五億円である。そのうちガレキ処理費が一〇一・七億円であり、二〇一三年度で事業は完了している。

三番目に多いのが災害復旧費である。災害復旧費とは、降雨、暴風、洪水、地震等の災害によって被害を受けた施設等を原形に復旧するために要する経費のことである。総額六六億円のうち漁港施設災害復旧費が五四・八億円である。この事業は原形復旧を基本に町管理施設一九港の復旧を行うものであり、二〇一五年度の事業完了を見込んでいる。また、このほかに公共土木施設災害復旧費が九・六億円となっており、道路橋りょうや河川の災害復旧に充てられてしる

ここまで二〇一三年度における歳出入の状況について見てきた。歳入においては復興交付金、復興特交、災害復旧費国庫補助金が、歳出においては復興費、災害救助費、災害復旧費が大きなウエイトを占めていることが明らかになった。復興に関連した歳出額は非常に大きいが、国からの交付金でまかなわれている。

このような巨額の予算に関しては、執行の遅れと繰り越しがメディアにおいて問題として取り上げられているが、問題はそれだけではない。じつは進みつつある復興事業のなかに、将来の南三陸町の財政に問題を生じさせかねない要因が潜んでいる。要因はいくつか考えられるが、本稿においては次の二つの要因を挙げたい。第一に、災害公営住宅整備事業による財政の硬直化である。第二に、数十年後のインフラの維持補修費の増加、更新時期の集中である。
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