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ウクライナの対ヨーロッパ外交の3要因

『ロシア・拡大EU』より

ウクライナのヨーロッパ外交を見るうえで、3つの要因が重要である。第1は、そのヨーロッパ・ロシアに挟まれた地理的要因である。ウクライナは国土面積60万Km2、人口4600万人(2009年現在)を抱える「大国」である一方で、より強大なロシアと拡大ヨーロッパに挟まれた「小国」でもある。たとえば、ウクライナの経済規模は、EUの1%、ロシアの10%にすぎない。国民1人当たりの国内総生産(GDP)はEU・NATOの新加盟国たるポーランドと比べて4分の1以下である。他方で、ロシアから見ると、ウクライナは単なる経済的小国にとどまらない。両国はともに9世紀から13世紀にかけてキエフ・ルーシを自らの民族発祥の起源としており、その後、帝政ロシア、ソ連を通じて共通の歴史を歩んできた。そのため、ロシアの政治家、一般大衆にはウクライナをロシアと不可分なスラブ兄弟民族国と見なす意識がある。ソ連崩壊後も、ロシア黒海艦隊の駐留地、あるいはロシアのエネルギー輸出のヨーロッパ向け基幹パイプライン保有国として口シアから見たウクライナの重要性は減じていない。一方で、アメリカは、こうしたロシアの影響力拡大を防ぐため、ウクライナをNATOをはじめとしたヨーロッパ国際機関と結びつけようとしてきた。EUはアメリカに比べると慎重であり、ウクライナの民主主義・市場経済進展に応じた関係拡大を志向してきた。このような欧米・ロシアを中心とした地政学的環境の中、小国ウクライナは受動的にならざるを得ず、その外交は、ロシアとアメリカ・EUそれぞれの意向に配慮したバランス外交とならざるを得ない。

第2の要因はウクライナ国民の世論である。今日のウクライナは、複雑な領土変遷を経てソ連期に初めて国家が形成・拡大したため、地域ごとに異なる意識を持っている。単純化すると、ウクライナ東部・南部はウクライナ国家成立以前から帝政ロシアの植民地として発展したため、正教徒、ロシア語話者の比率が高く、現在のロシア政府、ロシア国民に対する親近感が強い。またロシア帝国・ソ連を通じてロシアと経済的につながりが深い重工業が発達しており、対口関係の維持に強い利害を有している。また、1955年にロシアから譲られたクリミア半島は、最も親ロシア意識が強い地域である。一方で、ハプスブルク帝国、ポーランド領を経て第2次世界大戦後にウクライナに編入されたハリチナ地方はカトリック教徒、ウクライナ語話者の比率が大きく、ヨーロッパ意識と反ロシア感情が強いと見なされている。これら諸地域は各々が独自の民族主義観を有しており、その意味では、ウクライナにはすべての地域で共有される民族主義観がない。こうした意識の違いは、選挙等を通じてウクライナ政府の政策決定過程に反映される。なお、一般に東西ウクライナで二分される印象を与えるが、ウクライナの人口分布は東部・南部に偏っており、上記のような明確なヨーロッパ志向を示す「西部」人口は少数である。

第3の要因は、エリートの動向である。一般に、国民の多数は対外政策に関心・知識がなく、逆にこうした分野に知識と意見を持つエリートと呼ばれる少数が、政治へのアクセスを通じて、外交政策の形成過程に影響を与える。ウクライナの場合、エリート集団として民族主義エリートと経済エリートの存在が設定可能である。ウクライナ西部地域の民族意識に立脚する民族主義エリートは、彼らの歴史認識からロシアを自国に対する脅威と見なし、EU・NATO加盟に象徴されるヨーロッパとの統合により安全保障を確保しようと考える。逆に対口経済依存はロシアの影響力行使を許すことになる。そのため、たとえ一時的な経済的不利益を蒙ろうともロシアとの経済関係を可能な限り減らし、ヨーロッパ市場に参入することが国益からみて重要となる。経済エリートは、ウクライナ経済の利益および彼らのビジネス利益を重視する。ソ連の一部として発展したウクライナ経済は、重工業偏重でロシアを中心とするソ連共和国との相互依存と輸入エネルギーの大量消費を前提としていた。国営企業を中心とした「産業企業家同盟」やウクライナ貿易輸出額の4割を叩き出すと同時に国内最大のガス消費産業となっている鉄鋼産業が典型として挙げられる。現在でも、ウクライナはエネルギーを中心とした経済の対口依存が高く、結果としてロシアは貿易相手国の第1位を占め続けている。経済エリートにとっては口シアとの安定的な経済関係が最優先であり、ロシアを刺激するような外交政策は抑制されねばならない。

・・・やはり、ウクライナにも寄らないと。
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