『モビリティーサプライヤー進化論』より
変わる都市の姿、インフラ事業者に飛躍の好機
CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)時代における自動車の機能・役割の変化は、同時にモビリティー機能を支える社会インフラの変化を促す。この変化は、それを「造る」プレーヤーにとって新たな事業機会をもたらす。本章では、CASEという卜レンドによる自動車の変化が都市インフラにどのような影響をもたらすのか、そのときに都市インフラを造るプレーヤーにどのような事業機会が生じるのかといった点について考察する。
多岐にわたる都市インフラのプレーヤー
まず、都市インフラを造るプレーヤーを属性別に整理する。近年では、インフラとしての機能を有するものがハードウェアに限らなくなっているが、今回は都市インフラを造る[ものづくり企業]に焦点を当て、都市インフラのハードウェアについて論じる。
また、都市インフラに関わるプレーヤーとしては官公庁の他に、ユーティリティーや各種オペレーターといった都市インフラを「運営する」プレーヤーもいるが、第14章では「造る」プレーヤーに焦点を当てる。
一般的に都市インフラは、計画し、機器や設備を製造し、建設・据付を行うことで利用できるようになる。計画段階におけるプレーヤーは、「デベロッパー」と呼ばれる(ここで言うデベロッパーには、鉄道会社のデペロッパー部門などデベロッパー機能を提供する主体も含む)。都市づくりの計画立案やプロジェクト全体を推進していく機能を担う。
機器・設備の製造段階は、各種インフラ機器・設備メーカーが担う。この中には、通信基地局などを造る情報通信インフラメーカー、道路・橋梁・信号などを造る交通インフラメーカー、エネルギーを「作る」「ためる」「運ぶ」設備などを造るエネルギーインフラメーカー、水処理施設などを造る水インフラメーカーが含まれる。
最後の機器・設備の据付・施工工事は、ゼネコンやエンジニアリング会社、特定の専門工事を担う専門工事業者が担う。また、居住空間を提供するハウスメーカーも、同様の役割を担っている(ハウスメーカーの一部は工場を保有しており、機器・設備メーカーの側面もある)。
情報通信・交通・エネルギー・水インフラが変わる
CASEトレンドによる自動車の在り方の変化と、それに伴う都市インフラの変化を整理したのが図14-2である。「コネクテッド(Connected)」では外部情報を受ける従来のインフォテインメントにとどまらず、モビリティーデータを活用した利便性の高いサービスの実現に向けて、車内情報と車外情報を円滑に連携させていくことが求められる。
インフォテインメントとしての情報も、「自動運転」に伴う車室内の余暇時間の拡大に合わせて、AR(拡張現実)・VR(仮想現実)コンテンツの提供も想定されており、大容量の情報コンテンツ提供が求められ始めている。
また、自動運転では自動走行の利用可能なシーンの拡大に向けて、交通流の複雑な区域や死角が多い区画では、外部環境のより高次な把握が求められる。さらに前述したように、車内空間の過ごし方が変わり、高付加価値空間に代わることで、インフォテインメントヘの質的欲求も変化すると考えられる。
「シェアリング」では利便性の向上に向けて、情報通信接続による位置情報や利用情報の取得に加えて、物理的な結節性も含めたアクセシビリティーの向上が求められている。
コネクテッドと自動運転、シェアリングの台頭により都市インフラでは、まずテレマティクス機能の発展やV2X(車車間・路車間通信)による通信量の爆発的な増大に伴い、「無線通信網の強化(高速化や適用範囲の拡大など)」が求められる。
また、車両の位置・操舵に関する情報を外側から検知するための「車両センシング機能を有するインフラ設備」、車両情報を検知・解析してリアルタイムかつ「アクティブに交通網を整備する交通インフラ(道路・橋梁・信号・標識など)」の拡充が求められる。
シェアリングの視点では、シェアリングサービサーや利用者にとっての拠点となる「シェアリングハブインフラの設置」が求められ、併せて、「ヒト」や「車両」が集まる「ハブ周辺の都市機能の整備」ニーズの勃興が見込まれる。
「電動化]では、これまでエネルギー密度の高い化石燃料を動力源にしていたものが、電気エネルギーの蓄積量が限られる電池に代わることで、外出先での“電欠”に備えた充電インフラを整備する必要がある。また、過剰に電池を積むと車両質量の増大を招くことから、電池レス化を進めるための走行中給電の考え方も必要になってくるだろう。
電池性能の限界に起因する航続距離や充電時間、積載量制約の問題への対策に向けて、場所や時間を選ばないフレキシブルな充電インフラの整備が求められる。また、再生可能エネルギーの普及や送電網の維持管理コストの低減などを背景に、小規模分散型電源の整備が進む。いずれは、充電インフラの側で発電し、一時的に蓄電して充電するといったエネルギーの「作る」「ためる」「使う」を一体化した充電インフラ設備に変化していく可能性があるだろう。
結果として、電気自動車(EV)の充電に使う再生可能エネルギーは、太陽光発電や風力発電、水処理施設の汚泥からのバイオマス発電など地域によって最適なものからもたらされることになり、地域のエネルギーインフラを大きく変える可能性があるだろう。
このようにCASEのトレンドは自動車産業だけでなく、都市インフラ、その中でも情報通信、交通、エネルギー、水などの各種インフラの変化を促すことになるだろう。そのような都市インフラの再構築の流れの中で、都市インフラを造るプレーヤーにとって、事業機会はどのようなものがあるだろうか。以下、都市インフラサプライヤーの視点と、自動車部品サプライヤーの視点の双方を検討する。
都市インフラサプライヤーに豊富な事業機会
都市インフラの変化によって、各都市インフラサプライヤーにどのような事業機会が生じるかを整理したのが図14-3である。
無線通信網の強化といった都市インフラの変化に対しては、情報通信インフラメーカーには5G基地局向けハードウェアの製造販売、通信系の専門工事業者にはそれらの据付工事や既存基地局の改良工事といった機会が期待できる。
車両センシング機能を有するインフラ整備といった変化に対しては、都市開発デペロッパーには、安全かつ円滑な交通網を備えた都市機能計画を立案する機会が考えられる。情報通信インフラメーカーには、そのための車両の位置・操舵情報を検知するためのセンシング用ハードウェアを製造販売する機会が生まれるだろう。
また、交通インフラメーカーには、センシング機能を搭載した信号機や道路などの交通インフラを整備する機会、ゼネコンやエンジニアリング会社、専門工事業者にはそれらの据付工事という機会が考えられる。
アクティブに交通網を制御するインフラの整備においても同様である。都市開発デペロッパー、情報通信インフラメーカー、交通インフラメーカー、各種コンストラクタ一にとって、専用ハードウェアの製造販売や据付工事の機会が生まれる可能性がある。
シェアリングハブの設置やハブ周辺の都市機能整備といった都市インフラの変化に対しては、都市開発デペロッパーにはシェアリングハブ機能を活用した都市計画の立案、交通インフラメーカーにはシェアリングハブ拠点用ハードウェア製造、コンストラクタ一にとっては八ブ拠点の据付工事の機会が考えられる。
一方、電動化のトレンドによって生じる充電インフラの整備や小規模分散型電源の整備といった都市インフラの変化に対しては、エネルギーインフラメーカーに給電設備用ハードウェアや太陽光、風力、バイオマスなどの小規模分散発電装置の製造販売の機会が期待できる。
水インフラメーカーには、水処理に関連する小規模分散発電装置の製造販売、ハウスメーカーにはEVの普及によって生じる充電設備が設置された住宅の販売、各種コントラクターにはこれらの機器・設備の設置工事の機会が生まれるだろう。
自動車サプライヤーの事業機会は期待薄?
都市インフラと自動車の接点として、自動車側でも都市インフラを「作る」プレーヤーとして取り組むべき領域はある。
ただ、CASEのトレンドを受けた自動車部品サプライヤーとしての事業機会は、都市インフラサプライヤーほどは期待できないと見られる。都市インフラを造るプレーヤーにとってCASEトレンドは、あくまで都市インフラサプライヤーとしてとらえることが重要になるだろう。
各事業者が注目すべきCASEトレンド
最後に、これまで見てきた各プレーヤーにとっての事業機会を整理する。都市開発デペロッパーが注目すべきトレンドは、コネクテッドと自動運転、シェアリングだろう。
コネクテッドカーや(高レベルな)自動運転車、シェアリングの普及に伴い、大規模なインフラ整備ニーズが勃興し、行政を含む様々なプレーヤーを巻き込んだ都市インフラの大規模な「造り直し」の機会が到来することが期待できる。
情報通信メーカーや交通インフラメーカーが注目すべきトレンドは、コネクテッドと自動運転と思われる。増大する情報通信ニーズや車両情報を検知して、アクティブに交通網を制御する次世代交通インフラ(道路、信号など)は、新たなハードウェアの供給機会が期待できる。
また一部の交通インフラメーカーにとっては、シェアリングのトレンドも無視できない。シェアリングの普及に伴い、白走式駐車場をシェアリングハブとして活用するためハードウェア供給の機会などが生まれそうだ。
エネルギーインフラメーカーや水インフラメーカー、ハウスメーカーは既存の事業戦略の中で、電動化のトレンドに目配せすることが欠かせないだろう。
EVへのエネルギー供給用のハードウェアの供給機会だけでなく、自社のキーとなるハードウェアを武器にして、EVから電力系統に電力を供給する「V2G (Vehicle to Grid)」や、家庭に電力を供給する「V2H (Vehicle to Home)」などを組み込んだソリューションを提供していく機会が期待できる。
電動化のトレンドをとらえた事業展開を行うことで、いずれは地産地消のエネルギー循環チェーンといったエネルギーインフラを再構築する機会も生まれそうだ。
最後にゼネコン、エンジニアリング会社、専門工事業者といったコントラクターにとってCASEのトレンドは、多様な事業機会を生み出す可能性がある。確実に案件を獲得していくためには、トレンドに目配せすると共に関連プレーヤーとの関係性を構築していくことが重要になるだろう。
これまで、都市インフラを造る多くのプレーヤーにとって、自動車産業は必ずしも事業の主戦場ではなかった側面が強い。しかし、100年に1度の大変革期と言われる自動車産業におけるCASEのトレンドは、これらのプレーヤーにとって多くの事業機会が期待できる潮流である。そのトレンドをとらえていくことで、都市インフラを造るプレーヤーに大きな飛躍をもたらす可能性がある。