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ノルウェー 図書館の未来とは?

『ノルウェーを知るための60章』より 図書館の未来とは? ★あらゆる人々と知識、文化が出会う場所★

「図書館なんてもう古い、インターネットの時代には無用の長物」と考えられる方は少なくないだろう。ノルウェーでもこんな議論が新聞上で交わされた。南北に長い国土の住民に情報を素速く伝えるには、インターネットはかけがえのない手段だ。実際ノルウェー社会では、インターネットが著しく発展しており、一般家庭や学校、会社でもコンピュータやタブレット、スマートホンでインターネットを使わないと生活できないといっても過言ではない。週末や休暇を過ごすためのヒュッテという簡易なセカンドハウスにいても、インターネットアクセスが当然になりつつある。こういったヒュッテは、積雪の多い山や静かな海辺や小さな島にあったりするにもかかわらずである。あるいは通勤通学の電車(船の場合もある)のなかでも、インターネットにアクセスできることを当然の権利と考えている人は増えている。

しかし、一方で国中全ての人にインターネットアクセスの機会が十分にいきわたっているかというと、そうとはいえない現状も確固としてある。職場や家庭でインターネットにアクセスする手段がない人もまだまだいるのだ。そのため公共図書館は、従来の図書貸し出しに加え、インターネットによる情報にアクセスする機会の少ない人たちをサポートする役割を今日では担っている。それには設備提供とともに高齢者に無料で使い方を支援することも含まれている。

ノルウェーの図書館の特徴として、各種図書館が垣根を越えて連携していることが挙げられよう。一口に図書館といっても公共図書館、学校の図書館、大学や研究機関付属の図書館などあり、それぞれ利用者は異なったカテゴリーに属している。しかし、各図書館はこれらの垣根を越えて図書館間の貸し出しをしたり、一般利用者も自分の地元の公共図書館の貸し出しカードを持って大学図書館を訪ね、そのカードで大学図書館の本を借りることが可能なのだ。大学図書館が遠ければ、地元の公共図書館を通じて大学図書館の本を注文することも可能である。

2013年6月に改定されたノルウェーの公共図書館法では、それまでの図書館の使命「ノルウェーに住むあらゆる人のために質の良い資料を集め、保管し、提供する」という文言に加え、新たに、「それらの資料にアクセス可能であることを積極的に広く知らしめる」ことも図書館の義務としてあげられている。これを実現する格好の例が今首都のオスロ市に計画されているオスロ市ダイクマン中央図書館だろう。

敷居が低く無料で誰にでも気軽に立ち寄れる文化施設。2016年末から2017年にオープンを予定しているオスロ市のダイクマン中央図書館は、中央駅と海辺のオペラ座とを結ぶ道の真んなかに位置する。わざわざ出かけなくても何かのついでに気軽に立ち寄れる場所だ。地下I階地上5階の6フロアーの中央に吹き抜けがあり、あらゆる年齢に適した図書に加え、DVDやコンピューターゲーム、音楽CD、漫画などの貸し出し、多目的ホール、レストランも設置し、さまざまなレベルの文化活動が可能なように設備を備えている。近くには「叫び」で有名なノルウェーの画家ムンクの美術館が移築されることも決定した。国内文化の最先端を行くこの地区にある図書館で、オペラやバレエ、美術鑑賞に向かう途中で大人も子どもも気軽に無料で立ち寄れる最新設備の公共図書館。それが新たなオスロ市ダイクマン中央図書館である。

こういった時代の先端を行く図書館が常に新たなサービスを模索しながら提供している一方で、近代図書館の原点とも言える、あらゆる人に情報アクセスの機会を保障するという原則を守ろうと日夜努力をしている地方の小さな公共図書館が大多数を占めているのが実際の姿でもある。限られた予算のなかで利用者のニーズ合ったサービスをどう実現するのか、司書たちがいろいろな企画を組んだりアイデアを出しあっている。作家の夕べや読書会を開いたり、図書館のウェブサイト上で読者が書評交換する場を作ったり、フェイスブックやツイッター、インスタグラムを積極的に取り入れている図書館も少なくない。電子図書の貸し出しも試みられている。

無料で利用できる公共図書館は実は移民家庭の子どもたち、特に女の子にとって安心して放課後を過ごせる場所であり、移民の多い地区ではこのような利用者のために学習支援を提供したり、クラブ活動の場ともなっている。日本と違って放課後の課外活動は学校制度とは切り離されていて有料なので、無料で提供されるこういった活動の場は地元の子どもたちにとって貴重である。図書館はまた司書のおめがねに叶ったコンピューターゲームを楽しめる場でもある。毎年一晩中コンピューターゲームを楽しめる「ゲームの夕べ」を催している図書館もある。コンピューターゲームがメディアとして社会に定着している以上、その効果を積極的に捉えてゲームの利点を図書館から発信し利用してもらおうという試みである。

小さな地方のコミューンでは、公共図書館に潤沢な予算をつけることはできない。それでも図書館サービスを維持するために、同じコミューンの予算内で運営されている小中学校内の学校図書館に公共図書館を併設しているところも少なくない。毎日開館するのではなく、週に2・3回時間を決めて開館するところもある。同じコミューン内の司書が掛け坊ちで複数館の責任をもち、日によって移動して仕車をしているわけだ。あるいは、空間としての図書館を維持する代わりに、スーパーマーケットの一部に図書館コーナーを設け、司書がやはり週に何度か弐れて書籍を入れ替えたり管理をしたりしているところもある。こういった所では基本的に利用者がセルフサービスで本の貸借をしている。ブックモービ心は日本も含め色々な国でも見られるが、ブックボー卜というのはフィヨルドの国ノルウェーならではであろう。陸地に深く入り組むフィヨルドの奥まで半年に一度やってくるブックボートは、本だけでなくお話の会や、ちょっとしたお芝居も楽しめる大切な文化施設だ。

社会格差を少なくという点では、障がい者サービスも図書館の重要な課題であり、視覚障がい者や難読症者を対象とした資料の提供も図書館の重要なサービスで、図書館のなかに特別コーナーを設置している。少数言語サーミ語を守る図書館は北極圏の町カラショークにある。ここはさまざまな意味でサーミの人たちにとって重要な町だが、サーミ議会の建物内にサーミ特別図書館が設置されており資料が集められている。また、移民による多文化化の進むノルウェー社会において、公共図書館の多文化への対応も重要な課題である。先に挙げた新中央図書館も含む、オスロ市全体の公共図書館組織であるダイクマン図書館。ここには、国立図書館からの支援で多言語図書館も置かれており、オスロ市内だけでなくノルウェー全土の公共図書館に対し、ことに移民の間で多く使われている言語の資料をそろえサービスを行っている。
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