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衝動と不安のもつ意味 心のなかの異性的なもの

『中高年がキレる理由』より 衝動と不安のもつ意味 生きてこなかった「もうひとりの自分」

得体の知れない衝動に駆られて、なぜか不似合いな女性に夢中になる。女遊びをしたり、浮気をしたりするようなタイプではなく、生真面目で、物事を理詰めで考えるタイプの堅物で知られる人が、中年期になって突如として女性に狂う。それも、真面目につきあうような相手ではなく、娼婦のような妖しい魅力を発する相手に夢中になる。これも人生の折り返し点である中年期にありかちなことと言える。

本人は、もちろん本気なのだが、その道にかけては、はるかに上手の女性に手玉に取られているのか周りでみている人にはよくわかる。周囲の人は、あんなバカなことをする人じゃなかったのにと、あまりに意外な展開に驚く。

結局、そのような女性に狂うことによって、自分も家族も苦しむことになり、地道に築いてきたキャリアを失ったり、家庭を失ったりして、人生の坂道を転げ落ちていくこともある。

娼婦的な女性でなくても、いつも冷静沈着なタイプである本人とは正反対の性格で、感情豊かな女性に夢中になったりする。感情というものに慣れ親しんでいないため、その女性か何を思っているのかかわからず振り回される。

中年期の恋というのは、往々にして、このように周囲からみてあまりに意外な相手に夢中になるということになりがちである。

このようなことが起こるのも、人生の後半には、それまでに未開発なままに生きてきた自分の内面を開発することか重要な課題になるからである。自分のなかに眠っている性質、ある意味では意外な側面を開発し、自分の潜在的な性質や能力を現実化していくのか、いわゆる自己実現である。

ユングは、これを個性化の過程と呼ぶが、自分の影を認識することと並んで、心のなかのアニマを認識することも、生き方の偏りを正し、バランスのよい人生にしていくために必要となる。

アニマというのは、男性の無意識のなかの女性像のことである。現実を生き抜くために意識面を理詰めで固め、感情的なものを抑圧していると、無意識のなかには感情豊かなアニマが形成されていく。そのアニマは、意識面の偏りに対して補償的に作用する。つまり、よりバランスの取れた生き方へと導く働きをする。

 「アニマは、男性の心のすべての女性的心理傾向か人格化されたもので、それは漠然とした感じやムード、予見的な勘、非合理的なものへの感受性、個人にたいする愛の能力、自然物への感情、そして--最後に、といっても重要でないわけではないが--無意識との関係などである」(C・G・ユング他、河合隼雄監訳『人間と象徴--無意識の世界[下]』河出書房新社)

男性がある女性と出会ったとたんに一目惚れしてしまい、恋に落ちるとき、そこにはアニマの力が働いている。初めて会ったはずなのに、ずっと前から知っていたような気持ちになる。不思議と身近に感じる。そして、周囲からみれば恋に狂ったと心配せざるを得ないほどにその女性に夢中になり、恋に溺れていく。

そのような場合、男性は自分の心のなかに潜むアニマを目の前の女性に投影している、つまり自分か求めているものをその女性のなかにみたつもりになってしまうのである。その女性そのものをみているのではない。

 「このように、突然で、情熱的な恋愛としてのアニマの投影は、結婚問題に大きい障害を与え、いわゆる三角関係とそれにともなう困難さをひき出してくる。このような人生劇における解決は、アニマか内的な力であることを認識することによってのみ見いだすことかできる。そのようなもつれを生ぜしめる無意識内の秘密の目的は、その人を発展せしめ、無意識の人格をより統合し、それを実際生活の上にもたらすことによってその人自身の存在を成熟せしめることにある。(中略)アニマが演する、より大切な役割は、男性の心を真の内的価値と調和せしめ、深遠な内的な深みへと導いてゆくことである」(同書)

人生の前半では、感情面を抑えて、理詰めで、ある意味冷徹に生きることが必要だった。そうでないと厳しい職業生活を乗り切ることができなかった。だが、人生の折り返し点を過ぎると、

 「このままでいいんだろうか」

という心の声が聞こえるようになってくる。アニマ的な女性に惹かれるのも、そうした補償的な心の声を象徴するものと言える。

目の前の感情豊かな女性に惹かれるのは、その女性そのものか魅力的だというのではなく、自分のなかの感情的な面をもっと意識面に取り込むときがきたことをほのめかすシグナルと考えることができる。

アニマの投影による突然の恋は、自分が抑圧し、未発達のままに押し込めてきた性質を開発し、よりバランスの取れた大きな人格、安定感のある人格へと発達していく、つまり自己実現の道を歩むきっかけを与えているのである。

ゆえに、その女性とくっつくというよりも、その女性に象徴される自分の感情面を無視せずにもっと大事にして生きるようにすべきなのである。
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