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ICT革命に活路

『自分が変わった方がお得という考え方』より

進む製造業のサービス化

 製造業は工場でモノをつくり、販売すればそれで終わりという時代を卒業しなければならない。最近、IOT(インターネット・オブーシングス)という言葉が新聞やテレビなどで盛んに登場しているのをご存知だろうか。自動車や家電、工場施設などさまざまな「モノ」にセンサーをつけ、それをインターネットにつなぎ、得た情報を使い動作の制御やデータを分析することで、製造業の生産性向上や質の高いアフターサービスに結びつけようとする試みである。

 たとえば、建設機械・重機メーカーのコマツが取り組んでいる自動運転を可能にしたICT建機だ。まず建設機械に取り付けたセンサーや通信機器から機械の稼働時間、故障履歴、燃料残量、現在位置などの情報を収集できる体制を整える。一方、全自動無人ヘリを飛ばして施行する場所の範囲や形、土の量などを把握し、そのデータをICT建機に飛ばすと、ICT建機は無人運転で現場まで行き、所定の作業を自動で施行する仕組みだ。ICT建機を開発したことで、適切なメンテナンスサービスを提供できるほか、遠隔操作でエンジンを停止させることが可能になり、盗難予防効果もある。建機に新たなサービスを付加することで、建設会社など顧客の費用削減は大きく、新たな需要拡大につながると、コマツは見ている。

 家電メーカーが一般家庭のエアコンや冷蔵庫、さらに太陽電池、エネファーム(家庭用燃料電池コージェネレーションシステム)などとインターネットを直接結びつけることで、家庭内の効率的な干不ルギー消費などのアドバイスも可能になる。

 製造業のサービス化はICT革命の進展によってさらに大きな潮流になってくるだろう。

六次産業化の推進

 農業従事者の中にも危機感が強まり、現状打破への動きが目立ってきた。たとえば農業の六次産業化である。農業や水産業は第一次産業に属し、農畜産物や水産物の生産に従事してきた。六次産業とは一次産業従事者が生産だけではなく、食品加工(第二次産業)、流通・販売(第三次産業)にも積極的に関わることで、加エマージン、流通マージンなど、これまで第二次・第三次産業の事業者が得ていた付加価値を農業や漁業従事者が得ることで、第一次産業の活性化を進めようとする動きである。六次産業は第一次、第二次、第三次を足して名付けられた名称である。

 六次産業化路線に乗って、農業従事者の中には、日本の良質なコメを香港や上海、シンガポールなどに輸出し利益を上げる試み、またイチゴやリンゴ、モモ、ナシ、カキなど日本で改良された高級果実も、アジア新興国の富裕層の間で人気が高まっている。

 ICTの活用によって、外国の市場動向が瞬時にわかる時代を迎え、農業従事者の創意工夫が利益を生み出している。「時代が変わったので、自らも変わることが結局お得」。こんな意識転換が農業従事者の間に急速に広がり初めている。

サプライチェーン・マネジメントの深化

 ICTを活用することで、サプライチェーン・マネジメント(SCM=供給連鎖管理)が徹底し、製品の需給調整が急速に進んでいる。特に製造業の場合は、原材料や部品の調達、製造、製品流通、販売までの製品のライフサイクルを全体的にとらえ、関連する部門や企業にその情報を即座に伝えることができるようになってきた。

 たとえば、ある大手複写機メーカーは、SCMを使って、数日単位で複写機の需要動向が把握できるまでになっている。このため、注文生産に近い形で、その日、あるいは数日間にその工場で生産する複写機の数量が把握できるため、製品在庫が山のように積み上がる心配はない。今後、ICTの活用によってSCMの精度がさらに向上してくれば、労働生産性の一段の向上が期待できる。

一億人いれば、一億件のビジネスが誕生

 これからの日本はICT革命によってサービス産業をはじめ製造業、農林水産業などの分野でさまざまなニュービジネスを誕生させていくことになるだろう。それが人口減少時代の日本の活力源になる。

 無人工場化に対しては、製造業の雇用が減ってしまうのではないかと懸念する向きもある。心配無用である。工場の無人化は製造業の労働生産性の向上を促進させる。製造業に余剰労働が生まれれば、これから労働需要が拡大するサービス産業分野に労働力を移動させればよい。そちらの分野に有能な人材が集まるようになれば、サービス産業の多様化がさらに進み、サービスの質も向上してくる。

 ICT革命は一億人の国民がいれば、一億件のビジネス(事業)を生み出すと言われる。

 人々の価値観が多様化し、それぞれが便利で快適で満足度の高い生活を送るためには、さまざまなサービスが必要になる。それらを埋めるビジネスはまだ始まったばかりで少なく、これから数限りなく登場してくるだろう。

 化石燃料をエンジン役にした経済発展過程では、物的生産性を高め競争に勝ち残った大企業が多数誕生した。これに対し、ICT革命は大企業をそれほど生み出さないかもしれない。それに代わって、多くの中堅、中小企業が付加価値の高い技術、ノウ(ウ、サービスなどを提供しながら共存する新しい産業社会を形成することになるだろう。中堅、中小企業のほかに個人経営、家族経営なども堂々と市場経済の一員として参加できる賑わいのある市場が誕生してくる。
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