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指定管理者制度が切り拓く次世代型公共図書館の可能性

『大学生が考えたこれからの出版と図書館』より 指定管理者制度が切り拓く次世代型公共図書館の可能性 ⇒ 豊田市図書館は4月からTRC配下に入ったけど、言われているような兆候は出ていない。ポイントがずれているとしか思えない。まあ、ゆっくり見ていきましょう。

指定管理者が切り拓く利用者サービスの新局面

 さて、そこでようやく本題である。「指定管理者制度」について考えるためには、当然のことではあるが「指定管理者」が実際に行っている図書館運営と利用者サービスをしっかりと見る必要がある。ここでは紙幅の都合から、公共図書館における障害者サービスについて、2016年4月の「障害者差別解消法」施行に向けた、「音声読み上げ機能を活用した電子書籍貸出サービス」の提供という事例だけを取り上げて検証してみよう。

 この取り組みは、私が所属する立命館大学IRIS(電子書籍普及に伴う読書アクセシビリティの総合的研究プロジェクト)が研究協力し、兵庫県の三田市立図書館の指定管理者である図書館流通センター、そして大日本印刷、日本ユニシス、ボイジャーが「障害者差別解消法」施行の2016年4月の実用化に向けて共同開発したものである。

 三田市立図書館における電子書籍による音声読み上げサービス導入の経緯は簡単に示すと以下のとおりである。

  (1)2014年5月、私がコーディネートした、図書館流通センターが受託する公共図書館の館長等責任者向け研修会である「TRCライブラリーアカデミー大阪」において、視覚障害を有する植村要・立命館大学専門研究員をゲストに迎え、「TRC-DLに音声読み上げ対応を期待する」と講演してもらったところ、公共図書館長ら参加者の反響を呼ぶ。

  (2)これを受けて、大日本印刷、図書館流通センター、立命館大学IRISメンバーで「図書館における電子書籍サービスを活用した読書アクセシビリティ実証実験に関する検討会議」を立ち上げ、2015年2月から3月、視覚障害を有する利用者の協力を得て「図書館における電子書籍サービスを活用した読書アクセシビリティ実証実験」(実施主体:立命館大学IRIS、大日本印刷、図書館流通センター、日本ユニシス、協力:三田市役所まちづくり部生涯学習支援課)を行い、産官学連携によって研究開発を進める。利用者向け実証実験と並行して、「公共図書館で働く視覚障害職員の会」(通称「なごや会」)会員向けに実証実験を実施。

  (3)そして「障害者差別解消法」施行に合わせて2016年4月、全国の公共図書館で初めて、三田市立図書館「三田市電子図書館」に「視覚障がい者向け利用支援サイト」を開設し、音声化対応の電子書籍3135点の貸出サービスを開始したのである。

 この視覚障害者支援を目的とする電子書籍貸出サービスは、2016年9月から兵庫県・明石市立図書館、大阪府・堺市立図書館にも導入され、全国展開が期待されるところである。

利用者の情報行動の変化と公共図書館の役割

 このように産官学連携によるICTを活用した障害者サービスの新局面は、今後さまざまな応用が考えられる。私自身は例えば、日本語を母語としない外国人に向けた「多文化サービス」における電子書籍や電子海外新聞の利用、あるいは「児童サービス」におけるデジタル絵本を使った読み聞かせや子どもたちによるデジタル絵本の制作、さらにレファレンスサービスにおける「ディスカバリーサービス」(ウェブ上のデータベースや電子ジャーナル、電子書籍などを本文検索できるサービス)の活用など、これまでの紙媒体の図書や逐次刊行物では実現できない新たな公共図書館サービスを構想している。

 ここで重要なことは、このような新しいサービスを創出する際、指定管理者制度によってきわめてスピーディな展開が期待できることである。

 2014年4月に直営から指定管理となった三田市立図書館では、さっそく8月から図書館流通センターが提供する電子図書館システム「TRC-DL」が導入された。三田市広報紙『伸びゆく三田』(2014年7月1日付け1面)では次のように障害者サービスヘの利用について触れている。

 「今後は従来の書籍との役割分担をしながら、電子書籍の収集にも努めます。また、市の歴史・文化に関わる資料の電子化や、障がいのある人向けの朗読機能の付力日などについても導入に向けた研究を進めていきます」

 そして、『伸びゆく三田』(2016年2月15日付け1面)では、「今回の視覚障がい者の利用支援システムは、現行の電子図書館サービスに、テキスト版サイトを追加するものです。追加後はパソコンの音声読み上げソフトの利用により、本の検索が簡単に行えるようになります。システム開発は、電子図書を活用した視覚障がい者の読書環境整備の研究に取り組む立命館大学の研究グループや、利用者となる視覚に障がいのある皆さんの協力も得て進めてきました。(中略)図書館では、ボランティアの皆さんの協力を得ながら、対面朗読やマルチメディア資料の提供なども行っています。引き続き、より多くの人が図書館を利用し、本を楽しんでもらえるようサービス充実への取り組みを推進していきます」としている。

 指定管理者制度は、このように民間企業の旺盛な図書館事業への意欲とスピーディな手法によって、「電子書籍」を導入すべきかどうかの議論に終始しているタイプの「直営」図書館ではなかなか進展しない具体的な利用者サービスを促進している。三田市では教育委員会ではなく、まちづくり部(現市民生活部)が図書館を管轄し、自治体としての総合計画にある「ユニバーサル社会の推進」を、指定管理者による電子図書館システムに新たな音声読み上げ機能を付加することによって達成しようとしているのである。

 「指定管理者制度が障害者サービスの大きな足かせになりつつある」どころか、「直営館」が「予算がない」「専門的知識をもつ人員がいない」と避け続けているICTを活用した利用者サービスに、迅速かつ明らかな成果を出す形で収り組んでいる姿は、むしろ全国の公共図書館のモデルケースとすべきだろう。

 第1節でも述べたとおり、2016年12月、国内初の「電子図書館サミット」が大阪で開催された。 TRC-DLの導入実績が約170館(46自治体)となったのを機に、「電子図書館サミット2016 1n大阪」(図書館流通センター主催)として30館の導入館が集まり、私がコーディネーターとなって現状と課題を分析し、率直なディスカッションを行ったのである。

 スマホやタブレットの利用など、市民の情報探索行動は大きく変化している。そして公共図書館は旧来の「貸出中心型」から「滞在型」へ、つまり「無料貸本屋」から「情報センター」へと大きくその役割を転換することが重要である。デジタル・ネットワーク社会の動向に迅速に対応できる指定管理者による図書館運営は、利用者サービスのあり方を、提供側でなく利用者側の視点から考えることによって市民的価値を創造していくものとして、三田市立図書館を利用する視覚障害等を有する利用者からは高く評価されている。

 公共図書館の運営が、社会的環境の変化に対応できない組織、自分たちの既得権益を守ろうとする組織によって行われる場合、公共図書館は「成長する有機体」としての真価を発揮することはないだろう。メディアの変遷に対応し、利用者の情報行動の変化に即してみずからが変わり続けることこそが、これからの公共図書館にとって最も重要なのではないだろうか。

 ニーチエが言うように「脱皮できない蛇は滅びる」のである。
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