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街の本屋に求められる「土づくり」とは

『マイクロ・ライブラリ』より なぜ本屋がコミュニティをつくるのか

いま、街の本屋にとっては本当に厳しい時代です。だから、街の中にあることを活かして、リアルな店舗でしかできないことを徹底してやっていかなければならない。僕は、本を通してお客様とコミュニケーションを図ることによって街を活性化することが大事だと考えています。これはいってみれば街における「土づくり」のようなものです。肥料に依存するのでなく、土そのものの力、言い換えればまず街そのものの力をつけることが大切です。街中で本をテーマにしたイベントをしたり、まちライブラリーの立ち上げに加わったりしながら、「街の本屋っていいな」「街には本のある空間が必要だな」という気分を醸成し、例えば若い人が、「本屋をやってみたい」と思ったら街中で本屋を支えるような環境を作っていきたいと思っています。

これは、二〇〇四年に東大阪で始めた二〇坪程の小さな本屋での経験が大きく影響しています。店を始めた頃、来店したお客様から本の在庫を聞かれ、取寄せに二週間ほどかかると答えると、「ほな、頼むわ」と言われました。おかしいなあと思い、僕が、「いや二週間ですよ、場合によっては三週間になるかもしれないし、紀伊國屋だったらすぐ手に入りますよ」と言うと、「そんなとこ行くのかなわんな、二週間経ったら入るんやろ、頼むな」と注文して帰っていきました。僕は、難波の高島屋で、売り場面積が一二○坪、レジも八ヶ所ある、いわゆる繁盛店を経営していた経験から、お客様はスピードを求めるものと思い込んでいたことに気付きました。また、この店では、様々な音楽雑誌を一、二冊ずつですが各種必ず置いていました。ある時店にいると、若い主婦が「近所のスーパーにある大きな書店より、ここの方が音楽雑誌の種類が豊富」と言う声が聞こえてきました。彼女は常連になってくれ、どんなに小さくても自分の身近にある本屋に期待してくれているんだと、そのときに気付かされました。街から本屋がなくなったら、小学一年生も電車に乗って遠くまで買いに行かなければならない。それは失くしたらいかんな、と思ったわけです。

で現実的には、どうしたらいいのか。僕は、まず、自分たちのマーケットを広げていかなければならないと思っています。つまり、本を読まない人が増えているわけですから、離れてしまった人たちに対してどのようにしてアプローチするか、です。「本の品揃えがいい」と言っても、そもそも本屋に行く習慣のない人たちには全く通じません。だから僕は、これまでとは違う切り口、方法で、どうしたら本に親しんでもらえるかを必死で考えたいと思います。

「なんだか面白いことをやっている」と感じてもらえたら、次は、どうしたら本を買っていただけるかです。スタンダードブックストアでは、カフエだけを利用するお客様もいらっしゃいますから、本を手にとっていただけるように工夫していかなければならない。また、店の中に一歩入っただけで「お、なんだろう」と思ってもらえるよう、視覚に訴えることも必要です。それは、決して売れている本ばかり置くことではありません。立地のいい本屋や大規模書店と同じことをやっていても勝ち目はないでしょう。小さい本屋は、他の店にない本、店に置いてあるけれどみんなが面白さに気づいていない本を揃えるなど、こちらから積極的に仕掛けていかなければならない。街の本屋がそれぞれの特徴を活かし、互いに補い合う関係であってもいいと思います。一番危険なことは、お客様の期待に応えるために何でも揃えようとし、便利そうな店になってしまうこと。それは、お客様にとっては「欲しいものがない店」なのだと思います。

けれども、小さな街の本屋を専業で続けることは、利益率も低く大変厳しい。僕も、スタンダードブックストアを始めると、タイプの違う店をいくつも運営できず、結局は東大阪の店を閉めてしまいました。こうした二〇坪程の小さな店は、一旦閉めてしまうと本屋として再開することは難しい。一から本屋を始めるとなると内装資金も必要でしょうし、取次との関係を考えると、月三〇〇万円程度(あるいはそれ以上?)の売上がないと続かないでしょう。そこで、僕は、こうした本屋が続けられるような仕組み、例えば、本屋の店主が独立心とやる気のあるスタンダードブックストアで表現したいこと若い人に店の経営権を譲ることによって、彼らに店を任せることができないかと思っています。取次も売上を確保でき、店主も多少の家賃がもらえる。カフェを併設し、グッズも扱うことで粗利益率を改善し、また街の人たちが集う場所として機能すれば街にとってプラスになるはずです。大儲けする必要はない、関わる人たちの仕事がうまく噛み合い、続いていくことが大切だと思います。

僕は、スタンダードブックストアを特別おしゃれな店にしたいとは思ってませんが、「行くことを自慢したくなる本屋」にしたいと思っています。品揃えはもちろん、棚の並べ方や照明の明るさ、スタッフの立ち居振る舞いなど全てが混ざり合ってそれが店として認識されるのですが、大切なことは、僕自身の考えやスタイル、やりたいことについてスタッフと話をし、共有することだと考えます。僕は、スタッフには極力ルールを設けず、常識的な範囲でゆるゆるでやってほしいと思っており、これは僕自身がそうしたいからですし、お客様にもそうあってほしい。「組織化」というのはちょっと気持ちが悪い、緩やかな関係がいいと感じています。それがスタンダードブックストアの「居心地の良さ」かもしれません。デザイナーのナガオカケンメイさん曰く、「いい店の条件は、店の親父の顔が見えること」、店が二つある場合は、「片腕みたいな分身がいたらいい」のだそうです。確かに、僕のやりたいことをスタッフみんなに理解してもらえると、店の雰囲気にも現れるのだと本当に思います。当たり前ですが、お客様がいて店のカタチが見えてくる。ある時、徹夜明けでお客様のいないカフェにたった一人でいたら、カフェがいつもと全然違う場所に感じられ、「お客様がいての店なのだ」と実感したことがあります。例えば、クレームばかり言う人、マナーの悪い人が来るということは、実はお店が悪いのではないか。そういうことをしてしまう雰囲気に店がなっているのではないか。自分たちが思うこと、すべきことに共鳴する人が来てくれているのであれば、基本的にそうした行いはしない。お客様は自分たちの鏡みたいなものだと思います。

本とカフェのスタイルは、自分自身がコーヒーを飲みながら本を読めたらいいなあとずっと思っていたからで、実際に二〇年ほど前にアメリカでそれを目の当たりにし、「これはすごい!」と、「コーヒー飲みながら本が読めるって、確かに日本にないなあ」と思いました。カフェは、お客様の顔が見えますから本当に面白い。例えば、スタッフが、コーヒーカップにつけるスリーブにメッセージを書いて渡したら、お客様も喜んでそれに返事を書いてくれたりと、コミュニケーションが起きやすい。立ち読みをしている人に声をかけることはないですし、レジでもそんなに会話は多くありませんから、本だけよりもリラックスしてもらえるのではないかな。カフェでイベントを開催するときは、さらにコミュニケーションが広がります。今はカフェでゲストを招いたトークを行っていますが、僕は、売り場や本棚も使ったり、また、トークだけでなく様々な活動に広げ、どうしたらもっと「オモロく」なるか、様々な人のアイデアを取り入れながら、どんどん交流を図っていきたいと考えています。大きな話になりますが、ヘンリー・ミラーメモリアルライブラリーの館長や、アメリカで知り合った面白そうな本屋を大阪に呼び、次は、世界とつながりたいと思っています。また、劈阪の服部さんが主催するファンタスティック・マーケットと本を結びっけ、マーケットを目的に来た人たちに本に出会うきっかけを提供したい。本に興味を持ってもらうには、何でもいいと思っています。積極的にタレントなんかを使ってもいい。本屋の説明は耳に届かないけれど、タレントが紹介したものには飛びつく。誤解を招く言い方ですけど…問題はそれを持続させることですよね。こうした活動を通して、「本を読んだほうが、より豊かになりますよ」というメッセージを、多くの人たちに気持ち良く受け取ってほしいと思っています。


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