古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

工場見学記

2009-06-24 | 経済と世相
「22日、工場見学をさせてください」とD社の総務にメールを入れたら、「どうぞ。9時に犬山駅までお迎えにいきます」との返信がありました。生憎の雨になりましたが、9時前、犬山駅の階段を下りていくと「お早うございます」と声がかかる。見ると、F製造所長だ。「やぁお久しぶり。忙しいところをすみません」と謝意を表してから彼の車に乗せてもらう。10分ほどで到着。
応接室でしばらく製造所長の話を聞く。以下、100年に1度の不況の直撃状況。
「去年の9月までは、いけ行けどんどんで、工場建屋を増設して新規設備を発注していたのが、10月以降急転直下で受注がなくなり、2月が能力の20%台、今も4~50%の操業率。派遣社員やパートに申し訳ないが辞めていただいた。今度は3直で動かす人員が不足する。2直操業だから熱効率のロスが大きい」
「従業員は残業がなくなったので極端な人は月収が12万円も減ってしまい、会社は従業員の副業を認めることにした。」
「再雇用もなくなったの?」、「いや、希望する人は再雇用で残っています。労組との契約で、希望すれば65歳まで再雇用は継続することになっているのです。」
「発注した設備を停めるのに大苦労。なんとか、設備は停めたが、建物は作り始めていました。」
「発注した鋼材(材料)も、なんとか鋼材メーカーに保管してもらっていたのが、今になって入ってくる。鋼材倉庫が満杯です。」
素材工場の見学に入ったが、何しろそんな操業状態で、しかも、月曜朝だから炉の温度が上がっていない。「メンテだけはきっちりやらせています」と製造所長は言う。

次に、平軸受けの加工工場に行く。今度は工場長のOさんが案内してくれたが、大部分の加工設備は、岐阜県関の子会社に移転。小ロット用の試作ラインとメッキ設備が残っているだけだった。「将来的に此処はメッキのみで、自動車用は関に集中です。」と工場長は言う。40分ほどで、見学を終え、応接室で工場長と話す。
「こんな状況ですが、従業員の士気を損なわないように気をつけています。」
「自動車は在庫管理が徹底しているから、車が売れなくなると、一挙に注文はなくなってしまう。少しは在庫を作らせてくれると、ここまでの落ち込みはないだろうネ。」と私が言うと、「そういう面はありますね。造船などはリードタイムが2年もあるから、今までは影響軽微でしたが、これから厳しくなりそうです。」

次にその船舶用平軸受を作るM工場に行く。I事業部長が案内してくれました。つい先期までは、順風万帆だったが、「今期は警戒が必要」とのこと。
「リードタイムが長いから、これから不況の影響が出てくるの?」
「それもありますが、鋼材価格が高いので、もう少し待てば安く船が造れる、と船主が発注を控えているのです。実際、韓国で一頃の6割、中国では5割に下落していますが、日本の鋼材価格はまだ9割にしかなっていない」
「荷動き自体が減っています。だから船の需要が減っています。不景気になれば原料の運搬も少なくなるし、自動車運搬船も稼働率が下がります」。

昼食は社員食堂で、Iさんの馳走になる。
午後は、関までの移動。「K常務がご案内します」と、R&Dの建物へ。ロビーで待っていると、Kさんが現れ、「いらっしゃい。車、持ってきますから。」
関の工場までおよそ40分。車中で聞く。
「米国の子会社の清算で、T社とH社に挨拶に行きました。H社は何も言いませんでしたが、T社は“なんで今引き上げるの!これから出るべきなのに!”と叱られましてね」。(それは、対応した先方の役員の個性?それとも会社としての姿勢?)
「でも、T社系の部品会社がどんどん米国から撤退してるんですよ」

関では、FORDが監査に来ているとのことで、社長は顔を見せなかったが、M部長が案内してくれました。ピークの半分の操業率ということだが、37本のラインが整備されていた。
新しい試みとして、直線になっていたラインをUの字に配置したラインを見る。
「直線とU字と使い勝手はどちらがいい?」
「チョコ停の対応で歩く距離がUの方が少なくてすみます」と部長が応えると、K常務が、「トヨタのN重役さんがこれを見て“Kさん。ここは運動場なの?”と皮肉られました。」
U字ラインとは、通常、振り向けば直ぐ後ろの機械が操作できるぐらいの間隔で機械を配置するのに、ここは、U字の空間が運動場みたいに広いという意味。
D社の加工機は、付属する搬送装置が大きい。だから、そういう機械をUに配列すると、真ん中が大きく空いてしまう。搬送装置が大きいから、そのコンベヤ上に並ぶ製品も多い。
「Nさんから“何故何十個も(機械間の)コンベヤに乗せる必要がある?”とも言われました。
結局、トヨタ方式を真似したレイアウトを試みても、機械の設計思想自体が違うから難しいのだ。
「でも、Nさんは正直で、“工場内はそうした管理が徹底していたが、出荷後の管理が甘い。それが今回のトヨタの失敗だ“と言っていました」。
 K常務は付け加えて言った。「今、生産技術に“短いラインを造れ”と指示して研究させています。景気が回復したら直ぐ作れる様にと」。

 2時15分、工場を辞し、犬山駅に送ってもらった。駅には3時に着き、小生のために、わざわざ時間を割いてくれたK常務に謝意を表して、別れました。
4時に帰宅しましたが、久しぶりに、勉強になった一日でした。

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