古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

「はやぶさ」秘話

2018-01-08 | 読書

『ニッポン宇宙開発秘史」の第5章は、小惑星探査機「はやぶさ」にまつわるエピソードです

最初はターゲットマーカーの話。「はやぶさ」が小惑星に降り立つ際にどこに着地するか、目印を置く必要がさります。そこで、ターゲットマカーという。ソフトボール大の目印を着地の寸前落とす。地球の場合、ちょっとはずむだけですぐ着地します。ところが小惑星は重力が小さいので、弾んだ勢いがちょっとでも大きいと、宇宙へ飛んで行ってしまう。ターゲットマーカーをいかにして弾まないようにするか、担当者は悩んで、飲み屋で議論していた。近くで飲んでいたおじさんが、「お兄さんたち面白い話をしているね」と議論に混じり「お手玉がいい」という。「お手玉ならあるよ」と店の主人が持ってきて落としてみると全く弾まない。お手玉の詰め物が、弾むエネルギーを吸収するからです。翌日出勤した担当者はあのヒントをくれたおじさんは誰かと飲み屋に電話した。近所の町工場の社長だった。あらためてその社長を訪ねてターゲットマーカーを作ってもらった。

 ターゲットマーカーを目安にして無事に着陸したら、今度は小惑星のカケラを拾う。このカケラを拾い方を飲み屋で議論した。スコップで掬い取る方法は確かに確実だが、装置が重くなって「はやぶさ」に載せられない。

「電気掃除機のようにやれば」と言い出した人がいて考え込んでいたら、隣にいた女子学生が「あんた、ばかじゃないの?」と反論してきた。「電気掃除機は外に大気があって、なかを真空にするから、ものを吸い込むことが出来る。小惑星の表面は真空なのに、どうやって吸い込めるの?」

最終的に「サンプラホーン」という装置を使ってサンプルをあつめることになりました。探査機が着地したあと、漏斗を逆さにした形のサンプラホーンを地面に覆いかぶせ、接地した瞬間に中から地表に向かって弾丸を発射する。弾丸で砕かれた地表のカケラが舞い上がるからそれを集めるというのです。

「舞い上がったカケラが落ちてしまったら、サンプラホーンにはいらない?」と発言したら、くだんの女性、「小惑星にはほとんど重力がないから、一度舞い上がったらどこまでも上に行く」と言ったので脱帽!この方式に決まった。

2003年5月9日、「はやぶさ」は3億㎞かなたの「イトカワ」に向かって打ち上げられました。2005年秋口に「イトカワ」の近くに到着しました。最接近後、地表に降りることになる。単純に降りて行くといっても、これがなかなか難しい。「イトカワ」は地球の10万分の1の重力しかない。「はやぶさ」をほとんど引っ張ってくれないのです。太陽から降り注ぐ光の圧力を使いながら、非常にゆっくり降りて行く。着陸には別の困難がある。地表に降りている最中に問題が発生したら、地球から指示を出してもとても間に合わない。光速で片道16分か17分かかる距離ですから指示が届いたころには手遅れです。着陸段階で、トラブルが起きると「最悪の事態」です。皮肉にもその「最悪の事態」が現実になった。リアクシヨンホイールの故障です。最後の段階でオペレートを変更しなければならない。オペレーターの猛訓練が行われます。さらに問題!

 サンプラホーンから弾丸が発射されるとき「はやぶさ」の角度が一定以上傾いていると、発射の反動であらぬ方向に行ってしまう。だから。「はやぶさ」の角度が一定以上なら弾丸を発射しないプログラムになっていた。そのプログラムが作動したのです。担当差は断言しました。「舞い上げた誇りは必ずカプセルに収納されます」

2010年6月13日地球に帰ってきました。「はやぶさ」のカプセルはパラシュートで回収され線数百粒もの微粒子がみつかった。それらは45億4000万年前のものでした。

科学雑誌『サイエンス』は「イトカワ」の特集号を発行し、編集長は「わが光栄ある『サイエンス』誌を「はやぶさ」ミッションだけで一冊独占させて頂きありがとう」とメッセジをおくってきた。

クローズアアップ現代に出演したとき、「はやぶさ成功の原動力をひとことでいってください」と聞かれ筆者は「適度な貧乏が原動力だ」と答えた。