古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

人間の死とエントロピー

2016-03-26 | サイエンス
昨日、義姉の訃報が届きました。本日は通夜。明日が葬儀です。
身近な人がだんだん去っていきます。
先日、中学・高校の男女の同級生からハガきが着信しました。
「脳梗塞で10日あまり日赤に入院しました」(女性)
「肺がんのステージ3と判定され、昨秋入院しました。
2月末退院しましたが、老骨にダメージは大きく、ひたすら体調回復に努めます」(男性)そういう齢になってきたのですね。
ところで「やわらかな生物」(福岡伸一著、文春文庫、20016年3月刊)を読みました。週刊文春に連載したコラムを単行本にしたものです。私は、このコラムが好きで、図書館に行くたび、週刊文春を手に取り、読んでいます。ですから、ほとんどが読んだことのある文章ですが、今回あらためて印象に残るくだりを紹介しましょう。

『私の身体は流れの中にある。分解と合成のさなかにあり、常に新しい原子や分子が食物として取り入れられ、その時点で私を構成している原子や分子は捨てられる。
 身体の中でもっとも高速に入れ替わっているのは外界との最前線にある上皮細胞で、消化管の上皮細胞は2日ほどで更新される。だからうんちの主成分は食べかすではなく、自分自身の分解産物である。脳細胞ですら例外ではない。脳細胞や連結部(シナプス)を構成するタンパク質、細胞膜の脂質、DNA、すべてが分解されつつ、合成される。』
身体の分子や原子は常に入れ替わっている。だから昨日の自分と今日の自分とは別人です。
だから
『約束なんていうものも生物学的にはやぶってよい。だってそれ(約束)は過去の別人がしたことだから。』
『生物はわざわざエネルギーを使って積極的に自らを壊してはつくりかえている。最新の生物学が明らかにしたことは、タンパク質の合成経路は一通りしかないけれど、分解経路は何通りもある、という事実だ。・・・なにゆえに、そこまでして壊し続けるのか。』
昔、工場で働いていた頃、工場の機械は何故使い込むとガタが来て劣化する?人は使い込むほど熟練するのに?と思ったことがあります。人が劣化しないのは、身体を構成する臓器、細胞を時々刻々作り替えているからだというのです。
『秩序は無秩序の方へ、形あるものは崩れる方へ動く。エントロピー増大の法則である。時間の矢はエントロピーが増大する方向にしか進まない。』
『エントロピー増大の法則は、生命の上に、細胞の一つ一つに情け容赦なく降り注ぎ、タンパク質を変性させ細胞膜を参加させDNAを傷つけようとする。
すこしでもその法則にあがらうために生物はあえて自らを壊すことを選んだ。率先して分解することで、変性、参加、損傷を、つまり増大するエントロピーを必死にくみ出そうとしている』
『しかし強大な宇宙の大原則のもとではその努力も徐々に損なわれ、排出しきれない煩雑さが少しづつ細胞内に留まっていく。やがてエントロピー増大の法則は、こうした生物の(分解して更新する)営みを凌駕する。それが個体の死である。』
 『人の心は変わる。人は必ず死ぬ。この当たり前のことを思い出すことで大抵のことはやりすごすことができる。
明日も頑張って生きましょう。』と、福岡ハカセは言う。