古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

男と女のお話

2013-08-29 | 読書
 『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』(ジャレド・ダイアモンド著、2013年6月刊、草思社文庫)という本を読みました。
 著者は、『銃・病原菌・鉄』で、朝日新聞「ゼロ年代の50冊」1位に選ばれたサイエンス・ライターです。
 特に面白いのは、第3章の「なぜ男は授乳しないのか?」
なぜ授乳しないかって、オッパイがないじゃない?・・・・それが、「エストロゲンを投与されている男女のガン患者はプロラクチンを注射されると乳を分泌するようになる」そうです。
 ある夫の例。彼はつねづね妻の胸が「貧弱」だとこぼしていたのだが、気がつくと、なんと自分自身の胸が発達し始めた。実は、彼の妻が夫の願いに従って乳房の成長を刺激するエストロゲンのクリームを塗りたくっていたところ、そのクリームがこすれて夫の胸についてしまっていたのだ。
 つまりホルモンの作用で、男でも乳はだせるのだが、何故そのように男性は進化しなかったのか?というのが、章題の意味です。

 ヒとの23対の染色体は、それぞれ外観が異なっているので、番号を振って他と区別することができる。1番染色体から22番染色体までは、顕微鏡でみると、対になっている同志が互いにそっくりな形状をしている。ところが23番染色体だけは対の二つが全く異なる。これが性染色体である。ただし、その違いがあるのは、男性の場合だけだ。男性の性染色体は、大きな染色体(X染色体)と小さな染色体(Y染色体)が対になっている。女性の場合は二つのX染色体が対になっている。
 性染色体はどんな働きを持っているのか?X染色体に載っている遺伝子の多くは、性別にかかわりない形質を特定する。たとえば赤と緑を識別する能力などだ。一方、Y染色体には、精巣の発現を特定する遺伝子が載っている。受精後5週間で、ヒトの胎児は性別にかかわらず、精巣とも卵巣ともなりうる生殖腺を成長させる。もしY染色体があると、このどちらにもなりうる生殖腺が成長をはじめて、7週目には精巣となり始める。逆にY染色体がなければ、生殖腺はすぐには変化せず、13週後にようやく卵巣として成長しだす。(ここまではよくご存じでしょう)
 女児の2番目のX染色体が卵巣をつくり、男児のY染色体が精巣をつくるのだと思っていた人もいるのではないだろうか。
 ところが実際には、染色体異常によって一つのY染色体と二つのX染色体を与えられた人(クラインフェルター症候群)が最も男らしい特徴を備え、三つ、あるいは一つだけのX染色体をたまたま与えられた人(ターナー症候群)が最も女性らしい特徴を備える。
このように、二つの可能性をもった生殖腺原基は、何も邪魔するものがなければ、自然に卵巣となるべく成長する。これが精巣に変わるには、特別に何か、つまりY染色体が必要なのだ。
 しかし、男性に備わるのは精巣だけではない。ペニスや前立腺・・・

 胎児には生殖腺以外にも、同じように二つの可能性を持つ原型構造が備わっている。しかし、生殖腺原基と違って、それ以外の器官は二極のどちらへも進む可能性を秘めており、Y染色体の影響を直接受けるわけではない。精巣それ自体がつくる分泌物がその後の発生を方向付ける。この分泌物によって、二極構造は男性器官へと成長していくが、精巣、からのこの分泌物がないと、同じ構造が女性器官へと成長していくのである。
 Y染色体があれば100%男性器官ができ、なければ100%女性器官ができるはずだと考える人もいることだろう。
 だが実際には、これらのあらゆる器官がつくられるには、長い一連の生化学的段階が必要となる。各段階ごとに一個の高分子物質、すなわち酵素が合成され、各酵素は1個の遺伝子によって特定される。どんな酵素も、対応する遺伝子突然変異が起これば、欠けたり無くなったりする。ある種の酵素が欠損すると、男性の両性具有者、つまり精巣と女性器官を併せ持つ人が生じたりする。酵素の欠損した男性両性具有者においては、この酵素が欠損する前の代謝経路の各段階では他の酵素が働いていたので、そこまでは男性器官は正常に発言する。しかし、欠損酵素それ自体もしくはその後の生化学的過程の影響で、男性器官は成長を妨げられ、女性器官に変わってしまったり、未発達の状態にとどまってしまったりする。
 結論はこういうことです。
 『包括的に見れば男性と女性の遺伝的差異は、ささやかなものにすぎない。そのわずかな違いの生む結果が大きな相異として現れるのである。23番染色体上の少数の遺伝子は、他の染色体上の遺伝子と手を組んで、最終的に男と女のあらゆる違いを決定する。もちろんこの性差には、単に生殖器官そのものの違いだけでなく、思春期以降の性にかかわるその他もろもろの違いが含まれている。たとえばひげや、体毛や、声の高さや、胸の発達などの性差である。』