古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

誰が小沢一郎を殺すのか(1)

2011-04-12 | 読書
『誰が小沢一郎を殺すのか』(カレル・ヴァン・ウオルフレン著、角川書店11年3月刊)というセンセーシヨナルな題の本を読みました。大震災のニュースで、いまや誰も小沢問題など気にする人もなくなったようですが、この本は面白い。読んで感心するのは、オランダに住むジャーナリストが、よくこれほど日本の事情を知っているのか、日本人でも彼の説く事情を知らない人が多いのではないか?という点です。

内容を紹介しようと、さわりの部分を写し始めたら、それだけでも長くなりそうです。そこで、要するにこういうこと、と著者の主張を一言にまとめました。

『日本では、体制を変革しようとすると、変革しようとする人物のスキャンダルが表沙汰になって、体制変革を阻止することになる。そういう仕組みが体制に組み込まれているのだ。その仕組みの生成は、明治維新後の近代国家誕生の際、山県有朋らが作りこんだものである。民主的近代国家というものは、選挙で選ばれた政治家が、国家の運営方向を定める。ところが、山県らは、人民の選挙で、国政を任せるに足る人物が選ばれるなどということを全く信じていなかった。彼らにとって国民はまさに「知らしむべからず寄らしむべし」で、つまり「愚民」、リーダーが指導すべき存在であった。しかし、近代国家の体裁を整えるためには、選挙制度や内閣制を整備する必要があったので、形だけ制度を作ったが、決して内閣が国を運営するのでなく、選ばれた官僚が国を運営する仕組みにした。そして、そうした体制に脅威を与える人物が出てくると、よってたかって潰す。その潰す手段がスキャンダルである。』

まず、鈴木宗男事件について、こう述べています。【北海道出身のこの政治家は、自らがかかわった官僚たちとともに、日露外交に積極的な役割を果たした。両国間には未解決の問題が多い。戦後に残された課題を解決することは、もちろん日本とロシヤにとっては望ましい。大国ロシヤという隣人との間で、長期的視点に立った安定的で互恵的な関係を築くことは、日本にとって長年の課題だった。しかし、北方領土問題がいまなおそれを阻んでいる。実は、これまでに領土問題の少なくとも一部を解決できるチャンスは何度かあった。ところが外務官僚の怠慢、知識の欠落などが原因で、みすみすチャンスを取り逃がしてしまったのだ。もし日本がこの問題に関してこれまでに培ってきた鈴木氏の手腕を活用できていたら、このような結果にはならなかっただろう。ところが、鈴木氏を阻止しようと検察が立ちはだかったために、日本の外交関係は悲惨な結末を迎えてしまった】

 本書で取り上げたすべてのスキャンダルは、当事者にとって悲痛な出来事というのみならず、才能ある日本人が失われてしまうという点で、日本という国全体の悲劇でもある

 2009年の冬までに、小沢氏はスキャンダルに応じて膨れ上がった敵対勢力に包囲されてしまった。そのため、当時、沖縄のアメリカ海兵隊の基地の移設計画をめぐって、アメリカ政府と戦っていた鳩山首相を、十分に支援することができなかった。(私は、鳩山さんが米国政府と戦っていたとは思わない。戦おうとして必死にそれに反対する外務・防衛の官僚と戦っていたのだと思う)ちなみに、この計画はどう考えても実現不可能なのだが、アメリカは頑ななまでにこの移設計画に固執している。そのため、アメリカと渡り合わねばならない官僚たちは、みな戦々恐々としている。外務省と防衛省にかかるアメリカからのすさまじい圧力に推される形で、鳩山氏は2010年5月までにこの問題を決着させるという期限を設けた。・・・結局、鳩山氏は退陣へと追いやられた。

 ・・・民主党は明確な政策を打ち出すことで、有権者の支持を得たわけだが、鳩山氏の後継者である菅直人首相が、もはやそうした政策を実現しようとしていないことは明らかだ。

 私は1996年当時、薬害エイズ事件において、HIVに汚染された血液製剤の販売をめぐる詳細な情報を明らかにするよう、厚生大臣(当時)として官僚に強く迫った菅氏を非常に尊敬していた。・・日本でもっとも人気のある政治家になった彼もまた、スキャンダルに見舞われた。それは人気を得た政治家の宿命なのかもしれない。なぜなら、人々に支持されるということは、既存の体制を維持しようとする勢力の目には危険人物と映るからだ。厚生官僚を相手に闘った菅氏は、高級官僚ではなく、政治家こそが国の政策を生み出すべきだと、かつては強く主張していたが、この点に関する決意はかなり弱まったらしい。(続く)