12月17日(日) 晴一時雨。
サンデー・ソングブックを聴き終えた後、JRに乗って京都へ行った。今夜は拾得で「YUJI ONIKI & 鈴木祥子 "
A WINTER TRAVELER'S TALE"」があった。
拾得は京都で最古のライヴハウスだという。シュガーベイブがレコード・デビューの直前、ここでライヴをやって「帰れ!」と野次が飛んだ。一升瓶を抱えた男がいて「東京に帰れ!」とずっと言ってたそうだ。1974年か75年のことだと思う。その当時はブルース全盛でシュガーベイブは日本人に全く受けなかったそうだ。ただ外人のお客さんには評判が良くて、終演後には山岸潤史が楽屋に来て絶賛したのだとか。画像は看板。なんで砂かけはばあみたいな絵が描いてあるんでしょうか?
要領の悪い入場の仕方で一時混乱したが、ライヴは十分ほど押して午後6時40分頃に開演した。最初は鈴木祥子のソロだった。今夜の鈴木祥子はお下げ髪で登場。真っ赤なロングスカートが印象的だった。ウーリッツアーの前に座って新曲の「東京で生まれた女」を歌った。昨年から京都に住んでいる鈴木祥子だが、昨年の終わり、京都の自宅で見た雪にインスピレーションを受けてできたのが「東京で生まれた女」で、ミディアム・テンポの曲。前半はスローな曲が多かった。
"A WINTER TRAVELER'S TALE"というタイトルの付いたライヴ。冬の旅人は揺れる気持ちを歌った。「東京で生まれた女」は降りしきる雪の向こうに自由と愛と、そして東京のことを思い、自分自身を振り返るという内容だ。
最近のライヴでよく歌っているというビートルズの「Blackbird」では"Into the light of the dark black night"というセンテンスに思いが込められていた。自由と愛を探し求めて彷徨う彼女の姿が重なる。というのはもう1曲歌ったビートルズのカヴァーが「抱きしめたい(I Want To Hold Your Hand)」だったから。
白眉だったのはチャラの「タイムマシーン」のカヴァーだった。「イケナイコトカイ」に匹敵すると思った。もともと僕はこの曲が好きで、最近は全く聴いてなかったが、家に
CDがあることを思い出した。"たくさん青 ぬってあげる ・・・あたしとおそろいの・・・。"のところは涙が溢れてきて泣きそうになった。
ヴァイオリンの勝井祐二と共演した「Woodstock」はジョニ・ミッチェルのカヴァー。鬼木雄二が発表したアルバムのタイトルが『
Woodstock』だったから選曲したのだという。浮遊するようなヴァイオリンの音に幻惑されるようだった。
続いてゲストの山本精一を迎えてニール・ヤングの「I Believe In You」をデュエットで披露した。メランコリックでこのカヴァーも素晴らしかった。鈴木祥子はゲストの山本精一とニール・ヤングのカヴァーを披露した後で、鬼木雄二を呼んでアレックス・チルトン(Big Star)が書いた「The Ballad Of The Elgood」を三人でやった。この曲で鈴木祥子はドラムを叩きながら歌った。
YUJI ONIKI BANDのメンバーがステージに呼ばれた。カジュアルな服装だったので僕は彼らがバンドのメンバーだとわからなかった。鬼木雄二も普通のかっこうをしていた。拾得の入り口に陣取っていた連中がYUJI ONIKI BANDだった。ソバージュの髪にブラウンのノースリーブのニットを着たスレンダーな女性がいて、僕は最初からちょっと気になってたのだが(苦笑)、彼女がYUJI ONIKI BANDのベーシスト正山千夏だった。なんか雰囲気を持っていたので納得した。
拾得は酒蔵を改装してライヴハウスにしたので、ステージはかなり狭い。バンドがステージにあがると窮屈に見えた。ドラムは鈴木祥子のまま1曲やった後、5分の休憩に入った。
鬼木雄二はニューヨーク出身で2005年に日本に来るまで、しばらくウッドストックに住んでいたそうだ。セカンド・ステージはウッドストックの空気をそのまま拾得に運んだようなセッションが繰り広げられた。勝井祐二がYUJI ONIKI BANDの一員なのかよくわからないのだが、彼の弾くヴァイオリンの浮遊感がメランコリックさをもたらしていた。
バンドの楽曲はすべて英詩で、オルタナティブな印象があり、またノスタルジックな感じもあった。一頃流行した「メロコア」と呼ばれカテゴライズされたサウンドのようでもあった。「40secounds」と新曲の「Lost Highway Part.II」を除いて、あとはアルバム『Woodstock』から披露された。
新曲の「Lost Highway」を披露した後、再びステージに鈴木祥子が上がり、YUJI ONIKI BANDとの共演が繰り広げられた。まずはニュー・アルバム『
鈴木祥子』に新録が収録された「ラジオのように」。割りに珍しいことだと思うが、鈴木祥子はタンバリンを振り鳴らしながら歌った。YUJI ONIKI BANDのギタリスト石垣窓の的確な演奏がよかった。
しばらく鬼木雄二と鈴木祥子が交互にヴォーカルを取る形式で進行した。曲間にはウッドストックの思い出話が挿入された。鈴木祥子がウッドストックの鬼木雄二の自宅を訪れたことがあったそうだ。それは突然の電話からはじまったのだという。
「今、マンハッタンにいます。遊びに行っていいですか?」
マンハッタンのペンシルヴェニア駅で、鬼木雄二の住むラインベック行きの切符を買おうとしたら、黒人の切符売りのおばちゃんに「ラインベック」の発音が全く通じず悲しい思いをしたのだとか。
ウッドストックの鬼木雄二宅で弾き語りのデモを録ったこともある「忘却」。この歌は鈴木祥子の祖母がモデルとなっている。最愛の夫を亡くしてからアルツハイマーになり病院に入院しているそうだ。実は今年、その祖母が亡くなったのだ、と鈴木祥子は話した。
「人がいなくなるといろいろと考えてしまう。今日はおばあちゃんのために歌います」そう言ってステージ奥のピアノを弾きながら歌った。フルバンド・ヴァージョンをライヴではじめて聴いたが、今回だけは特別な思いが心をよぎった。
鬼木雄二のヴォーカルが2曲続いた。1曲は宇宙飛行士の歌「Last Days」で、もう1曲「One Bright Summer Day」は山本精一を交えてやった。ニック・ドレイクのような感じがする曲だった。
アンコールは最初、鬼木雄二とドラムのPOP鈴木による「Little Drumer Boy」。昔、「Motoharu Radio Show」のクリスマス・ソング特集で、デビッド・ボウイがビング・クロスビーと共演したヴァージョンを聴いたことがある。鬼木雄二によると、少年がドラムを叩きながら旅をして、イエス・キリストが生まれるところに行ったりする歌だそうだ。
ウッドストックで鈴木祥子とザ・バンドの住居だったBIG PINKを見に行ったことがあるのだという。しかし今では人手に渡ったBIG PINKは知る人ぞ知る存在で、インターネットのマニアックなサイトを検索して、ようやく場所がわかったのだとか。そんな話の後、バンドと勝井祐二、鈴木祥子、山本精一が揃い、ザ・バンドの「The Weight」をセッションした。
最後に鈴木祥子がひとり残った。いつの間にか編んでいた髪がほどけていた。今年は吉凶混合の一年で、いろいろあったが、今年一年なんとか生きてこられて、また来年を迎える、十二月はそんな厳かな気持ちになれるから好きだと話した。その気持ちを込めて、ウーリッツアーで歌ったのが「Have Yourself A Merry Little Christmas」だった。
あなたにささやかなクリスマスを
心に明かりを灯し
この一年の苦しみはすべて 消え去っていく
あなたにささやかなクリスマスを
歓びかきたてて
この一年の苦しみはすべて 遠くへ去ってゆく
懐かしの日々がよみがえり 輝きかえす 黄金の時
かけがえのない友にいつかまた巡り会える
いつかまた一緒に集い逢いましょう 運命が許すのなら
それまではなんとか耐えていかなければ
今は祝いましょうこのささやかなクリスマスを...
言葉が出てこないくらい美しい瞬間だった。「冬の小さな旅」あるいは「冬の旅人の物語」、ボブ・ディランじゃないが、鈴木祥子は帰るべき家を探しているんじゃないか、故郷に帰る途中なのではないか、そんな印象があった。
■YUJI ONIKI & 鈴木祥子 "A WINTER TRAVELER'S TALE"
12月17日(日) 京都拾得
鈴木祥子(vo.pf.dr)
YUJI ONIKI(vo.g)
勝井祐二(vln.)
POP鈴木(dr.)
石垣窓(gtr.)
正山千夏(b.)
W/ special guest ...山本精一(vo.gtr)
Set List
鈴木祥子
01 東京で生まれた女
02 Blackbird
03 Untitled
04 I Want To Hold Your Hand
05 電波塔
06 タイムマシーン
07 ステイションワゴン
08 Woodstock(with 勝井祐二)
09 I Believe In You(with 山本精一)
10 The Ballad Of El Goode(with 鬼木雄二,山本精一)
11 Back Of A Car(with 鬼木バンド)
Phause
YUJI ONIKI BAND
12 If I Should Arrive Soon
13 AM
14 40secounds
15 Suncave
16 Place Names
17 Lost Highway Part.II
18 ラジオのように(with 鈴木祥子)
19 Between Beds And Clocks(with 鈴木祥子)
20 忘却(with 鈴木祥子)
21 Last Days(with 鈴木祥子)
22 One Bright Summer Day(with 鈴木祥子,山本精一)
Encore
23 Little Drumer Boy(鬼木雄二+POP鈴木)
24 The Weight(YUJI ONIKI BAND with 鈴木祥子,山本精一)
25 Have Yourself A Merry Little Christmas(鈴木祥子)