shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Prologue / Renaissance

2009-05-12 | Rock & Pops (70's)
 ルネッサンスというバンドを覚えておられるだろうか?元ヤードバーズのヴォーカリストであるキース・レルフが結成し、メンバーチェンジを繰り返しながら主に70年代前半に活躍したブリティッシュ・プログレ・バンドなのだが、あまりヒットチャートには縁がなかったせいか、一部の熱心な好事家を除けば一般の音楽ファンの記憶からはフェイド・アウトしつつあるようだ。しかし彼らの残したアルバムの何枚かは一部のマニアだけに独占させておくにはあまりにも惜しい素晴らしい内容を誇っている。これを取り上げないわけにはいかない。
 私が初めて彼らの曲を聴いたのは大学に入ってすぐのこと、当時付き合い始めた女の子が大のルネッサンス・ファンで、彼女から貸してもらった第2期ルネッサンスのファースト・アルバム「プロローグ」にすっかりノック・アウトされてしまったのだ。私はさっき “プログレ” という言葉を使ったが、クラシック音楽的な曲想にジャズ的なインプロヴィゼイションを交えながらトラッド・フォーク的なアプローチで表現したドラマティックな曲構成が実に大胆かつ新鮮で、いわゆる “プログレ四天王” とは又違ったユニークなサウンドが私の心を魅きつけた。特にアルバム1曲目のタイトル曲①「プロローグ」、これが実に凄まじい。いきなり “ガァーン!” というピアノの強打から始まる大仰なイントロに度肝を抜かれ、あれよあれよという間にアニー・ハズラムの美しくも緊張感溢れるスキャットが滑り込んでくる。大きくフィーチャーされているオイゲン・キケロばりの速弾きピアノを始め、正確無比なリズム・カッティングが印象的なギターも、2分24秒から凄まじいソロを展開するベースも、終始アグレッシヴなリズムを叩き出しながら煽りまくるドラムスも、すべての楽器が一体となって醸し出すスリリングで疾走感溢れる驚愕のサウンドが圧巻だった。
 ①の余韻に浸っていると②「キエフ」が始まる。最初荘厳なピアノの調べで始まり、フォーキーなヴォーカルがスロー・テンポでキエフに住む一人の平凡な男の死を淡々と歌う。寒々としたウクライナの雪景色が目に浮かぶようなリアリティーだ。そして3分30秒あたりから風雲急を告げ、プログレお得意の大胆な転調から一気にテンポ・アップしてスリリングなピアノが駆け抜ける... このシベリア鉄道を走る暴走列車のような疾走感が持つ吸引力はもう凄いとしか言いようがない。5分2秒から元のスローテンポに戻るが、逆巻くようなバック・コーラスを伴った歌声は力強く響き渡り、やがて大団円を迎える。まるでゼッペリンの「天国への階段」のようなドラマティックな構造美だ。とにかくこの①②の流れが大好きで、何度聴いても圧倒される。アンプのヴォリュームを目いっぱい上げてその刺激的なサウンドの中に浸るようにして聴くと疲れも吹っ飛び、気分も爽快だ。
 のどかな波の音やカモメの鳴き声のSEから始まる③「サウンズ・オブ・ザ・シー」は前2曲がウソのようなメロディアスなバラッドで、牧歌的な雰囲気にホッと一息というところか。水晶のような美しさを湛えるアニーのヴォーカルが絶品だ。④「スペア・サム・ラヴ」はトラッドな薫り横溢のフォーク・ロックでやはり透き通るようなアニーの歌声に心を奪われる。途中、ベース、ドラムスの掛け合いにギターが絡んでひとしきり盛り上がった後、3分50秒あたりでアコギが入ってくる所が好きだ。⑤「バウンド・フォー・インフィニティ」でも清涼感溢れるピアノのイントロに続くアニーの歌声がスゥーッと心に染み込んでくる。彼女は5オクターブの美声の持ち主といわれるが、まるで天使の歌声のようだ。⑥「ラジャ・カーン」は怪しげな民族音楽みたいな感じで、唯一アルバムの中で浮いているような1曲だ。確かにこれはこれで面白い演奏だとは思うが、いかんせん冗長すぎる。11分33秒も延々イスラムのお経みたいなサウンドを聴かされるのは勘弁してほしい。
 クラシカルな音色でジャズっぽいスリルを生み出すジョン・タウトのピアノとアニー・ハズラムの美しいクリスタル・ヴォイスが存分に堪能できるこのデビュー盤は続くセカンド・アルバム「燃ゆる灰」に比肩する傑作であり、後世に残すべき大名盤だと思う。

RENAISSANCE - PROLOGUE



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