shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

ジブリ・ミーツ・ジャズ

2011-01-22 | TV, 映画, サントラ etc
 私にとって YouTube と共に欠かせない音楽情報源がアマゾンである。先日、ジブリ・カヴァーの最愛聴盤である 6% Is Mine を聴いていて、ふと “他にもジブリのカヴァー盤でエエの出てへんかな?” と思い付き、早速アマゾン検索してみると驚いたことに292件もヒット、改めてジブリ音楽の需要の高さに驚かされた。確かにジブリの音楽は作品のクオリティが高くて国民的認知度も抜群という超優良コンテンツであり、カヴァー作の中にはレゲエや和太鼓、それに二胡を使った中国音楽みたいな盤まであってまさに何でもアリの状況だが、多いのはクラシックやオルゴール、それにデジタル臭いダンス・ミュージックの盤で、いくらジブリが好きと言ってもそんなんまで聴きたいとは思わない。
 ジャズ・アレンジの盤も少数ながら出ていたので片っ端から試聴してみたが、正統派モダンジャズとは程遠い、無機質な打ち込みドラムで軽佻浮薄な女性ヴォーカル入りの似非ジャズ盤ばかりでガッカリ(>_<) “ジャズ” というタイトルを付けてちょっとオシャレっぽいジャケットにすれば売れるだろうという魂胆がミエミエなのだが、どこをどう聴いてもカフェバー向けの使い捨てダンス・ミュージックだ。そんな有象無象盤の中で唯一 “おぉ、これは!” と思ったのが立石一海トリオの「ジブリ・ミーツ・ジャズ」だった。
 演奏はピアノ、ベース、ドラムスというオーソドックスなフォーマットで、耳に心地良いジブリ・メロディを親しみやすく料理した、万人受けしそうなピアノ・トリオ・ジャズ。その温かみ溢れるサウンドはまさにジブリの世界にピッタリで、方向性としては80年代にアルファ・ジャズ・レーベルから出ていたケニー・ドリュー・トリオみたいな感じなのだが、その芯にあるのは50年代ピアノ・トリオのエッセンス満載の王道を行くプレイだ。
 ①「いつも何度でも」、②「となりのトトロ」と、心にポッと暖かい灯がともる様な癒し系ジャズが続く。原曲のメロディを慈しむように優しいタッチで弾いているところが素晴らしい。③「崖の上のポニョ」では意表を突いてファンキーなイントロからサビ→Aメロと展開し、Bメロに入ると(1分16秒)アップテンポに転じて奮然とスイングを開始、1分57秒からドスドスと切り込んでくるベースといい、2分15秒からのトリオが一体となってノリノリで疾走するインプロヴィゼイション・パートといい、ジブリ・ソングスの中でも特にお子様志向が強い「ポニョ」がこんなスインギーなジャズになるとは思わなんだ。私の知る限り最高の “ポニョ・カヴァー” である。
 スインギーと言えば⑤「海の見える街」も負けてはいない。スイングの根底をキッチリ支える安定感抜群のリズム・セクションに鼓舞されて気持ち良く弾むピアノがたまらない。インプロヴィゼイション・パートも聴き応え十分で、めちゃくちゃカッコ良いピアノ・トリオ・ジャズが展開されていく。ジブリだと言われなければ “50年代ジャズ・ピアノ・トリオ屈指の名演” で十分通用しそうなキラー・チューンで、私がこのアルバム中で一番好きなトラックだ。
 ④「アリエッティズ・ソング」では静謐で叙情味溢れるトリオ・プレイに唸ってしまうし、⑧「君をのせて」はデューク・ピアソンを彷彿とさせるような品格したたり落ちるジャズ・ボッサに仕上がっている。⑪「風の伝説」ではベースの佐藤忍さんがスコット・ラファロばりのアグレッシヴなプレイでグイグイ煽りまくるスリリングな展開が楽しめるし、瀟洒なブラッシュがたまらない⑬「カントリー・ロード」でもスイングするピアノ・トリオのお手本のようなプレイが堪能できる。ドラムスの鈴木麻緒さんが⑮「テルーの唄」で聞かせる妖艶なブラッシュ・ワークはエヴァンス・トリオのヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴにおけるポール・モチアンの如き吸引力だ。
 「さくらんぼの実る頃」は⑥ノーマル・ヴァージョンに加えて⑯レトロ・ヴァージョンがボートラとして収録されているが、私は50'sっぽい音作りの⑯の方が好き。まるでプレスティッジのレッド・ガーランド・トリオを聴いているような感じで、左手のコードが作り出すテンションがゆったりとしたスイング感を生んでいる。絶妙なタイミングで切り込んでくるブラッシュの “シュパッ!” という一撃にもゾクゾクしてしまう。
 老若男女に愛される人懐こいジブリ・メロディを見事な音楽センスでフォービート・ジャズ化したこのアルバム、まさに “大人のためのジブリ・ミュージック” と言うに相応しい大傑作で、メロディ良しスイング良し歌心良しと三拍子揃ったジブリ・カヴァーの金字塔的な1枚だ。

いつも何度でも


崖の上のポニョ


海の見える街


君をのせて

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