shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Stan Getz In Stockholm

2010-02-04 | Jazz
 私は1920年代から40年代半ば頃までに作られたアメリカのポピュラー音楽、いわゆるスタンダード・ナンバーが大好きで、そんな中でもどちらかというと声を張り上げて歌うようなスケールの大きな歌よりも、小粋に洒落っぽく鼻歌で歌えるような唄、いわゆる “小唄” に目がない。 “クールに、軽やかに、粋にスイング” が私の信条なので、歌心溢れるミュージシャンによって見事にジャズに昇華された小唄の数々を聴くと、一過性音楽を持続性音楽に変えてしまうジャズという音楽の懐の深さに感動してしまう。そんな “粋なジャズ” の第一人者がテナーのスタン・ゲッツである。
 ゲッツと言うとまず名が挙がるのが「ディア・オールド・ストックホルム」の名演で知られる「ザ・サウンド」やボサノヴァで大ヒットした「ゲッツ~ジルベルト」、「オ・グランジ・アモール」の一点買いで「スウィート・レイン」、そして万人が認めるゲッツの最高傑作「スタン・ゲッツ・プレイズ」あたりだろうが、私が一押しの隠れ名盤は “飛行機のゲッツ” の愛称で知られるこの「スタン・ゲッツ・イン・ストックホルム」である。
 全8曲、すべてB級スタンダード・ナンバーでオリジナルは一切なし。エエわぁ、この割り切り方。しかもシナトラのレパートリーになっているような唄モノ系が多い。スタン・ゲッツという人の真骨頂は誰もが知っている親しみやすいメロディーを分かりやすく一級のジャズに仕立て上げるところにある。私は基本的にはロック/ポップスを聴いて育った人間なので、美しいメロディーを気持ちよくスイングさせたジャズが好きなのだ。例えば①「インディアナ」や④「アイ・キャント・ビリーヴ・ザット・ユーアー・イン・ラヴ・ウィズ・ミー」といったアップ・テンポの演奏なんかもう聴いているだけでウキウキワクワクしてしまう。そのスムーズなキー・ワークによる軽やかなプレイはこれらの曲が持つ “粋” を見事に表現しているし、変幻自在というか、縦横無尽というか、まるで口笛でも吹いているかのようなその淀みのないインプロヴィゼイションのアメアラレ攻撃は圧巻だ。
 ゲッツをこのように気持ちよく歌わせたのは選曲の良さもさることながら、北欧産リズム・セクションの充実ぶりも大きな要因だろう。ピアノのベンクト・ハルベルクが絶妙なバッキングでゲッツを盛りたて、ベースのグナー・ヨンソンがしっかりと音楽の根底を支え、ドラムスのアンドリュー・バーマンの正確無比なブラッシュ・ワークが演奏全体に抜群のスイング感を与えている。特にハルベルクの小気味良いプレイは名手テディー・ウィルソンを彷彿とさせる素晴らしさで、これで気分屋ゲッツが乗らないワケがない。ワン・ホーン・アルバムの成否はリズム・セクションで決まるという絶好の見本と言っていいだろう。
 スローな②「ウィズアウト・ア・ソング」、③「ゴースト・オブ・ア・チャンス」、⑤「エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー」、⑥「オーヴァー・ザ・レインボウ」では歌詞の内容を熟知しているかのようにテナーで “歌って” いるし、ミディアムでスイングするシナトラ・ナンバー⑦「ゲット・ハッピー」や⑧「ジーパーズ・クリーパーズ」での流麗なソロを聴いているとレスター・ヤングの音をモダン・ジャズのリズムに乗せて一筆書きのようにスムーズにインプロヴァイズしていくというゲッツ芸術の頂点を見る思いがする。特に⑧のリラクセイション溢れる絶妙なスイング感にはもう参りましたという他ない。このアルバムは歌心一発で聴き手をノックアウトしてしまうジャズ・テナーのワザ師ゲッツが放った会心の1枚なのだ。

インディアナ

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